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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
籠中の獅子たち
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交渉の返事は死体で!

一尉いちいいいいっ」


 あおいの耳に、霧島きりしまの叫び声が聞こえてきた。もうすでに時刻は夜の二時を回っている。


「んあ」


 普段から寝起きの悪い葵は目がひたすらしょぼつく。なんとか眼をこすりながら起き上った。


「ああ、どうした霧島。ひどい顔ですまんな」

「いつもと一緒ですよ」


 あんまりだ。


「……どうした」

「と、とにかくこっちにきてください!」


 いつも冷静で、気遣いのできる彼女が珍しく取り乱している。葵は霧島に袖をひかれながら、見慣れた対策本部のドアをくぐった。


 何もないときは、各々割り当てられたデスク付近で仕事をしているのだが、今は様子が明らかに違う。全員、押しあいへし合いしながら一カ所に団子状に固まっていた。男子中学生の平均身長より少し低いくらいの葵の背では、おっさんたちのよれたワイシャツしか視界に入らない。


「見えん」

「ち、ちょっと道をあけて! 一尉がいらっしゃったわよ」


 霧島が声をあげる。どよめきとともに人波が二つに割れ、道ができた。葵はその道を進み、人だかりができていた場所へようやくたどりつく。一同が食い入るように見つめていたのは、壁に設置されたテレビだった。


 深夜なので、普段ならバラエティーか、テレビ通販をやっているはずだ。しかし、画面に映っていたのは難しい顔をした男女のアナウンサーだった。画面に、『緊急生放送』というでかでかとした赤字が踊っている。葵がテレビの正面に立った時、男性が持っていたフリップをぱたんと倒してこう言った。


「それでは、再び現場からの映像です」


 ぱっと画面が切り替わる。ヘリコプターから撮影しているらしく、まずけたたましいプロペラ音が耳に飛び込んできた。画面に住宅街が写ったが、すぐに照準が切り替わる。その瞬間、葵は息をぐっと飲み込んだ。


「壁が、縮んだ」


 昨日までは学校全体を覆っていたはずの壁が縮小し、校庭と体育館の一部があらわになっている。プールやテニスコートが見あたらず、グラウンドに部活棟もないので、これは立塚の校舎だろう。ヘリコプターは高度を下げず、上空からの撮影を続けている。


 所々黒く焦げた校庭が写し出される。葵は嫌な予感がした。それでも目を逸らさず見つめ続けていると、小さな黒い固まりがその焦げ跡の上に置かれているのが見えた。それが、つい昨日までは生きて動いていた人間の体だと葵はすぐに認識した。


「あの一体以外にも、死体が山ほどあるな」


 ヘリコプターがまったく降下しない理由はそれだ。点々と小さく転がっているボールのような球体は、まず間違いなく人の頭だ。木の枝に見えるのはバラバラになった人の手足や胴体。普段は白い砂地のグラウンドが全体的に黒く染まっているのは、それだけ犠牲者の血を吸ったからだろう。あまりに悲惨な光景に、霧島がうめき声をあげる。


「なぜ、いきなりこんなことに……」

「簡単だ。奴ら最初から約束を守る気なんかなかったんだ」


 提示されたのがゆるい条件だったのもそのためだ。奴らからしてみれば、ただで食料が手に入って儲けものだろう。


「生存者は、まだいるんでしょうか」


 葵の背後に、舟木ふなき校長が立ってそう聞いてくる。足元がふらついているが、目にはぎらぎらした光が宿っている。ニュースを聞いて、いてもたってもいられず駆けつけたのだと言った。彼女に聞かせるように、葵は指示を出す。


「わかりませんが、全力を尽くします。すぐに全軍に指示、強行突入に備えて待機せよ」

有園ありぞの三佐がまだいらっしゃっていませんが」

「佐々木、車を出せ。岡田、有園三佐の自宅に電話しろ! 何を言われてもかまわん、緊急事態だと言ってたたき起こせ! 起きたら車に乗せてつれてこい」


 葵は手近にいた部下に指示をとばす。凍りついたように画面に見入っていた若手の数人が、前のめりになって駆けだした。


「これは立塚たちつかだな。鈴華すずかの方は異常ないか確認しろ!」


 すぐさま無線で、鈴華近くの民家に常駐していた部隊に連絡が入る。


「鈴華は異常なし、依然学校全体が大きな壁に包まれています」


 葵は昨夜の定期報告をまとめた冊子に目を落とした。まずは鈴華。昨夜要求された物資の積み込み時に、大型の妖怪が出てきたが、それもすぐに作業が終わったようで、その後は三十分おきに『異常なし』の記載がずらりと並んでいる。


 次に、立塚の方の日誌にも目を落とす。十二時の巡回時までは鈴華をコピーしたように、『異常なし』の文字が踊っている。しかし、その次の行からは何の記載もない。


「おい、これについてちゃんと現場に確認はしたんだろうな」

「え? いえ。有園三佐に一応電話確認はしたんですが、有事ではないだろうとのご判断で」


 葵は歯を食いしばった。


「……これだから実戦経験のない佐官は使いものにならん」

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