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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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姉御には逆らうな

 不満そうだとはいえ、それでも加藤が静かになり、一同が息をついたのもつかの間。


「こ、来ないでって言ってんでしょ!!」


 今度はかすれた女の声が耳に飛び込んできた。あおいが振り向くと、三輪みわが額から血を流して宙をにらみつけている。


 血だらけになりながらも、彼女の気迫は全く衰えていない。さっき大騒ぎした加藤よりもこちらの方がよほど軍人らしかった。一行は急いで三輪に駆け寄る。


「三輪さあん、だいじょぶっすか」

「これで大丈夫に見えるっての」

「……すいませえん」


 則本のりもとが気を使って慰める。が、唾を飛ばしながら叱られてしまい、しゅんと肩を落とした。


「あいつ捕まえてよ。あいつがやったのよ、畜生」


 三輪が則本につめ寄った。彼女が指差す先を見ると、上空に小さな点が見える。妖怪だろうが、もうかなり遠ざかっており、その詳細までは分からない。則本は完全に腰が引けており、無理っすよと小さく呟いた。


 妖怪はそのまま水平に飛び、山の中へ消えていった。大和が双眼鏡を持って行方を捜していたが、力なく腕を下ろす。


「どこ行ったんや」

「良く見て。洞窟がある。あの中に入ったんだろう」


 佐久間さくまが自分の双眼鏡をのぞきながら言う。流石本職、見ているところが素人と違う。言われてみると確かに、茶色い山肌にぽつんと黒い穴があいていた。


「あそこを寝ぐらにしてる可能性が高い。僕たちが縄張りを荒らしたと思って威嚇してきたんだよ」


 佐久間がさらに補足する。なるほどねえ、と一行は素直にそれを聞いていた。唯、一人を除いては。


「よし、あそこに乗り込むわよ。やり返すわ」


 三輪が腕まくりしながら歩き出した。加藤ですらぎょっとして三輪の肩をつかむ。


「おい、勝手に動くな」

「なによ、さっきまでそんなかすり傷でぎゃあぎゃあ騒いでたくせに。この腰ぬけ。あんた軍人なんだったら、あたしより先を歩きなさいよッ」


 制止しようとした加藤が噛みつかれる。ぐうの音も出ない、というのはこういうことだという完璧なやられっぷりだった。葵はその様子を見ながら心の中で笑う。


「三輪君、落ち着いて。行くのはいいけど、その前に傷の手当てをしないと」

「そうっすよ~、血が止まんないとやり返す前に死んじゃいますよ?」


 はやる三輪を見かねて、佐久間と則本が声をかける。猪のように進もうとしていた三輪が立ち止まった。やはり仲間に言われると違うのか、彼女の顔から徐々に焦りと怒りが消えていく。


「……仕方ないわね」


 そう言うと三輪は自分の荷物を開け、薬箱を取り出した。無数に入っている薄いシートの山をかきわけ、白い錠剤が並ぶものを取り出す。


「おい、何だそれは」


 加藤が三輪に聞く。彼の出血はまだ止まっていない。薬が欲しいのだろうが、素直にくださいと言わないところがいかにも加藤らしい。


「痛み止めよ」

「お、俺にもくれ」


 加藤の物言いに、やっと収まっていた三輪の怒りが再び火を噴いた。阿修羅を背負ったようなドスのきいた声が、場を震わせる。


「く・れ・だ・と?」

「俺にも下さい」


 あまりの迫力に加藤がしぶしぶ下手に出る。三輪はようやく錠剤のシートを渡した。加藤は飛びつくようにパッケージをあけ、持っていた水筒の水で流しこむ。


「それ、効果が持続しないからまめに飲まなきゃいけないやつで」


 加藤から返ってきた薬を自分も飲みながら、三輪が言う。加藤は用は済んだ、と言わんばかりにまた偉そうに答えた。


「俺に命令するな」

「そういうこと言っちゃうの。あーあ、錠剤は効果が切れちゃうから、持続力のある貼り薬もあげようと思ってたのにな。いらないんだあ。病院も何もない山中で脂汗流して耐える気なのね」


 三輪がせせら笑うと、加藤のこめかみが小刻みに痙攣する。威厳を見せようとしたのは見事に失敗し、加藤はふたたび頭を下げて貼り薬の箱を頂く結果になった。その間、加藤の部下たちは誰も彼をかばおうとしなかった。


「三曹、戦場で医者に逆らうとひどいことになるぞ。良く覚えておくといい」


 葵は顔を真っ赤にしている加藤に声をかけ、傷口に容赦なく塩を塗りこんだ。

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