「遺憾の意」がやって来るッ!
過激な発言ありますyo。
「ああ、もう! 九条京都くん。
なんで君は僕が楽しんでいるときにテレビのチャンネルを変えるかなあ!」
「仕事中だからですよ、井之頭市助倭官」
「しかも、よりにもよって、犬HKとは……!
僕はもっと、芸人が花段を飾るような、低俗かつ無教養な番組が見たいんだ。
蛆テレビとか!」
「大丈夫ですから」
「……?」
「大丈夫ですから」
「……??」
「ほら、首相の演説が始まりますよ」
「え、え、ちょっと!
一体何が大丈夫なんだいッ!?」
ここはC国の日本国領事館。
その地上1階と地下1階の間に存在する0階。
治外法権である領事館の中でも更に治外法権であるその場所で。
たった2名の外交官が仕事をしていました。
領事館に相応しく、大理石に敷き詰められた美しい絨毯に、値段にして7桁は降らない調度品の数々。
そんな物に見向きもしないで、2人はこれから始まる首相演説を注視しています。
1人はスーツをぴたりと着こなした40代の男性。
青々としたカイゼル髭に葉巻を燻らせてゆったりとソファーにもたれかかっていました。
もう1人はメイド服を身に纏った20台後半の女性。
焦げ茶色の髪の毛を短く刈りそろえており、整った顔には何者も寄せ付けない力強い眼差しを湛えています。
「……C国の領海侵犯に言及していますね」
「最近は特亜周辺がキナ臭いからねぇ。
お仕事ばっかりで疲れちゃったよ」
「全く同感です。
大本営は、発表だけしてれば良いですから楽で羨ましいですよね」
『……したがって、今回の事案に関しまして、我が国としては『遺憾の意』を示す物であります。
つまり……』
「……あーあ」
「……あーあ」
「「あーあ」」
「『遺憾の意』、出ちゃったね。
レベル6。
仕事だ、行くよ、京都くん」
「この案件、大本はどこですかねえ」
「C国国家海洋局海監総隊で良いでしょ」
「了解しました」
カイゼル髭の男性は部屋の一角へ移動します。
そこには、領事館とは思えないような、数々の禍々しい武器が鎮座していました。
「今日の武器は……『コレ』にしようかなぁ」
「殴打用のデカいチュッパチャップスですね」
「殴打用のデカいチュッパチャップス!?
コレはメイスって言うんだよ、京都くん!」
「井之頭倭官は毎回使う武器が違いますよね」
「京都くんはいつもの拳銃か。
……これはアドバイスだよ。
イ號とロ號の間にはかなりの差があるんだけど。
一番の違いは、武器をコロコロ変えたりだとかの、お遊びが出来るかどうかだと、僕は思っている。
倭官への近道は、武器を変えることだ」
「へえ、全然興味がありません」
「ええええええ!?
キミ、副倭官だよねェ!?」
「自分の黒歴史には興味がありますが……」
「暗いよォ!
アラサ―の女の子が持つ趣味じゃないよ!!」
「アラサ―じゃありません、まだ26です」
「アラサ―じゃん」
「金玉を圧搾しますよ?」
「あっさく!?」
2人はそれぞれの武器を持ちながら、黒塗りのベンツへと移動します。
20代の女性が運転席に。
40代の男性が助手席に座りました。
エンジンがかかり、自動車がトロリと出発します。
「……」
「……」
「京都くん……ところでキミ、ちゃんと『旧帝国陸軍汎戦闘術・遺憾の意』の昇號試験、受けてる?」
「いえ、全然。
持ち號は、まだ、へ號です」
「まだ、へ號なの?
キミの腕ならハ號までは余裕だよ」
「私にとってはそんな事より、趣味に使える時間の方が大事ですから」
「京都くんは多趣味だもんね。
今は何をしているのかな」
「ありがちですけど、最近はスマホのゲームですかね」
「面白いもんねえ」
「7000万円くらい課金しています」
「止めよう!?
7000万円て、ほとんど人生を課金しているような物じゃない!」
「後々に、自分の一番の趣味の肥やしになる事が分かりきっているので止められなくて……」
「京都くんの一番の趣味って……」
「自分の黒歴史を思い出して、『うわああああ』ってなる事です」
「確かに近い将来、『うわああああ』ってなるだろうけど!」
他愛の無い話をしていると、いつの間にかC国国家海洋局海監総隊の本部へとたどり着いていました。
「ああ、着いちゃったか。
それじゃあ京都くん、行きますか」
「はい。
『倭官のイ號』、出動します」
2人はそれぞれの武器を持って、建物へ向かいました。
その場にいた警備の兵隊や番犬たちは。
……あっという間に肉の塊に変えられていきます。
門の中に侵入する頃には、激しい警戒音があたり中に鳴り響いていました。
構わずに2人がスタスタと庭を歩いていると、屋敷の入り口前には多くの兵士が拳銃を構えて立っています。
「止まれ!
止まらんと、撃つぞ!」
「どうぞどうぞ、近づきますよ」
「躊躇うな、全員撃て!」
上官の発砲命令で、2人に向かって大量の銃弾が吐き出されますが。
煙が晴れると、2人は無傷で立ったままでした。
女性の銃身から、煙が立ち上っている所を見ると、何かしたようです。
「な……なぜだ!?」
「こっちには、破壊不能にして、絶対無敵の防護壁があるからねぇ」
「ふざけるな、そんな物存在するはずがない!
一体なんだというんだ!」
「9条バリア」
男が兵隊に向かって突進しました。
兵士たちは矢鱈滅多羅に拳銃を打ちまくりますが。
男に当たりそうな弾丸のみを選んで、女が拳銃を撃ちその軌道を歪めます。
結局、弾は1発も当たることなく兵士たちはメイスの餌食となりました。
「流石は京都くん。
撃ち漏らしも無かったね」
「……褒めても鉛玉しか出ませんよ」
「照れながら言う事じゃないね」
「まあ、撃ち漏らしがあったとしても井之頭倭官であれば避けてしまえたでしょうけど」
「そりゃあ、仮にも『旧帝国陸軍汎格闘術・遺憾の意』、イ號持ちだからね」
「世界に10人いないんですよね。
素晴らしいです」
「……京都くんは、倭官は目指さないの?」
「目指さないですよ」
「倭官を目指すなら、イ號を持たないと……って、目指さないんかい!!」
「なんかだるくて」
「……京都くんは、なんで副倭官になったの?
日本の役に立ちたいだとか、国敵を懲罰したいだとか、そういう事でなったんじゃないの?」
「まさか。
副倭官のお仕事が、9時5時だったんで」
「多分別の仕事をした方が良かったよ!?」
軽口を叩きながら、見敵必殺を続ける2人。
やがて一番奥の部屋。
国家海洋局海監総隊の、隊長の部屋の前にやってきました。
ノックをして扉を開けると。
隊長は電話の真っ最中の様です。
「これは、どういう事ですか!」
「日本の『遺憾の意』なんて物、私は聞いていません!」
「このままでは部隊壊滅の憂き目を……代表? 代表!!」
隊長が電話を終えるまで、2人は律儀に待ちます。
「えーっと……お電話は終わりましたかね。
C国国家海洋局海監総隊隊長さまでいらっしゃいますか?」
「ま、待て!
貴様らが日本国外交倭官、通称『遺憾の意』だな!
今回の領海侵犯の件は、我々の預かり知らぬ事なのだ!」
「成程、成程」
「漁師どもが勝手に行った事で、我々にはどうする事も出来なかったのだ!」
「成程、成程」
「漁師を罰しようにも、余りにも人数が多すぎて、無理だったのだ!」
「成程、成程」
「後は、えーっと……ちょっと待て、何故メイスを此方に向けている」
「……C国国家海洋局海監総隊隊長さま。
いっておきますが、言い訳が通じていると思ってらっしゃるのであれば、勘違いですよ。
この人は、貴方がしている様な下品で無意味な命乞いを聞くのが、趣味なだけです」
「流石はC国国家海洋局海監総隊隊長さま。
そこいらのテレビ番組には真似が出来ない美しい命乞いですね。
そういうの、僕、大好きでして」
男はカイゼル髭を捻りながら、笑顔でメイスを振り上げます。
こうして日本国倭官による『遺憾の意』は、表明されることになったのでした。
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「バラエティーにしようよ。
今日はC国もK国も何もしなかったんだからさあ~」
「仕事中です」
「しかもまた、犬HK!
僕はもっと、頭へ行くはずの栄養が胸とお尻に行った女の子たちの、浅薄かつ下世話な番組が見たいんだ。
アカヒテレビとか!」
「そういえば」
「……?」
「そういえば」
「……??」
「あ、首相の演説が始まりますよ」
「そういえば、何!?」
2人がワーワー言っていると、大本営発表が始まりました。
「……I国の日本人人質殺害に言及していますね」
「うん、これは……間違いなく出るだろうね」
『……したがって、今回の事案に関しまして、我が国としては『強い遺憾の意』を示す物であります。
つまり……』
「おお、『強い遺憾の意』……レベル7。
I国、滅びるんじゃないですか?」
「あの辺りは倭官はいなかったよなあ。
多分、黒内コウ君あたりが、ハズレくじをひくんだろうね。
うん、国が亡くなると思うよ」
「今回は、特亜の近くでの『遺憾の意』発動は無さそうですね。
5時なので、帰ります」
「帰るの早いよ!
……そうだ、折角だし、どこかでご飯でも食べにいかない?」
「申し訳ありませんが、自宅でゴキブリの飼育に忙しくて……」
「確実に黒歴史!」
そんな事を話していると。
テレビのインタビューを受けた人が、諦めたように呟きました。
『どうせ今回も、首相は『遺憾の意』って言うだけなんでしょ?』
「「……全くその通り。
無責任な大本営発表だ」」
日本国倭官と副倭官は、溜息を付いて。
……テレビの電源を切ったのでした。
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日本国大本営発表・遺憾の意
(某大型掲示板より抜粋)
------ (仏のニッポン) ------
Lv1 推移を見守りたい
Lv2 対応を見守りたい
Lv3 反応を見守りたい
------ (意思表示するニッポンの壁) ------
Lv4 懸念を表明する
Lv5 強い懸念を表明する
------ (怒りを示すニッポンの壁)------
Lv6 遺憾の意を示す ←このレベルに相当する
Lv7 強い遺憾の意を示す
------(キレ気味のニッポンの壁)------
Lv8 真に遺憾である
------(キレちまったよ・・・)------
Lv9 甚だ遺憾である
------(大日本帝國)------
Lv10 朕茲ニ戦ヲ宣ス
旧帝國陸軍汎格闘術『遺憾の意』
柔道、空手、忍術、相撲、空道、骨法、合気、剣道、杖術、薙刀など、ありとあらゆる戦闘技術を組み合わせた総合格闘術。
イロハニホヘトの順番で習熟レベルを示す『號』が決まっており、倭官になるためには『イ號』の称号が必須。
その昔、イ號持ちの帝国陸軍わずか10名により、当時20万人しかいなかった南京の市民を30万人虐殺した伝説は余りにも有名。
GHQの時代から自衛隊への同格闘術の習得は禁止されており、現在は一部の外交官のみ使用が許可されている幻の格闘術。
倭官
旧帝国陸軍汎格闘術『遺憾の意』の『イ號』持ちがなれる国家資格。
『わかん』じゃないよ。
主な仕事内容は、『他国へ遺憾の意を物理的に表明しに行く事』
滅茶苦茶やっても外交官特権で捕まらない。
副倭官
旧帝国陸軍汎格闘術『遺憾の意』の『ト號』持ち以上がなれる国家資格。
主な仕事内容は、『倭官の補佐』。
9時5時らしい。
9条バリア
旧帝国陸軍汎格闘術『遺憾の意』の『へ號』持ち以上が習得している、敵対者からの攻撃を無効化する防御術。
旧帝国時代の名称は『神風防御壁』。
まんま。
日本の各種放送局
C国まで電波が届いている。
集金にも来る。
井之頭市助
通称『イノイチ』
外務省アジア大洋州倭官。
憂国者でありながら、無価値で無意味な言動が大好物。
趣味はバラエティーや、お笑い番組。
九条京都
外務省アジア大洋州副倭官。
仕事はちゃんとするけど、大事なのは自分の趣味。
ちなみに趣味は、黒歴史作成と自己嫌悪。
黒内コウ
倭官じゃ無いけど旧帝國陸軍汎戦闘術・『遺憾の意』イ號持ち。
倭官のいない地域に良い様に派遣されたりしてる。
別作品の主人公。
コメント
頂けましたら2人が寒い漫談をします。
馬鹿なお話書いてます。
お暇でしたら是非。
短編 『凶悪なテロリスト達が中学校の全校集会の最中に乱入して立て篭もりを始めたので、屋上でサボっていた俺とたまたま一緒だったDQNとオタクとで彼らを殲滅する事にした』
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短編『トキ様のパーフェクト悪役令嬢教室』
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中長編 『ブレーメンの屠殺場』
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長編 『豚公爵と猛毒姫』
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