第一章 第5話 アフター・スクール・ミーティング (DAY 0)
この回で第一章は完結です。お疲れさまです。
主人公、虹都の属する部隊の、デスゲームでの最初の方針が決まります。
部隊分けは一方的に京美さんの方から発表された。
白衣の集団の前で京美さんが一人づつ名前を読み上げ、名前を呼ばれた順に首輪が付けられる。
首輪を付けた生徒が五人集まると部隊名を与えられて順次解散する。これが繰り返されていく。
部隊名前は極めて無機質に校名と番号から作られる。最初に呼ばれた5人が常山中学校第一部隊。以下、第二、第三と続いていく。
今年の交戦当事者は九十五名、ということで第十九部隊まで出来ることになる。
体育館の生徒は徐々に減っていき、ボクが呼ばれたのは八十八番目で、自動的に第十八部隊に入れられた。
ちなみに、その前に頭脳派の中押さんに南郷灰音が呼ばれていて、ボク的には全然問題はなかった。
しかし、ボクの後で武闘派のあおいと千茶が呼ばれて、そこで第十八部隊とされた。
結局、ボクの部隊編成は男子1名、女子3名、女子らしきもの1名。
女子が多いので、少し不利かとおもいきや、力量的にはそうでもないなと思ってみる。
しかし、よりにもよって、説明会で立たされた四人が揃いもそろって見事に同じ部隊に収まっている。
もはや、京美さんの悪意以外のなにも感じられない組み合わせだ。
どうしてだろう。体育館を出るときに、「君には期待してるよ」と小声で呟かれた気がするのも気味が悪い。
まぁ、疑問は尽きないが、灰音が同じ部隊になったことだけが福音だ。あと、中押さんも。
誰、言うとも無く、首輪を付けられたボク達は、家路の途上、西條あおいの自宅の一階にある喫茶店「フレッサー」に集まった。
西條の両親が地雷飯ではない、ふつうの昼食を振る舞ってくれた上、お代は要らないとのことで、ありがたく頂いて一息ついたときだった。
突如、あおいが堰を切ったように首輪争奪戦について隣の千茶に話しかけている。
どうやらチーム分けに、のっけから不満があるようで、いつもよりも濃い粗暴のオーラを発している。
「ねぇ、どうしてこうなるの。京美って交戦監視員、アタシたちに恨みでもあるの? 信じらんない。それに頼みの綱の男子がなんで、よりによって虹都なのよ。審判は曲者、戦力は屁理屈馬鹿、どうやっても不利だわ。千茶ちゃん、何とか言ってよ」
屁理屈馬鹿ってなんだ? ボクは論理的に正義を実践する好青年、それ以上それ以下でもない。
あおいは表現が粗暴すぎて、本質を突いているのか皮肉を言っているのか理解しづらい。
そんなあおいに北雲千茶は、とぼけた風に問い返す。
「あれあれ? あおいは、東大路君のことキライだったっけ?」
あおいが千茶に耳打ちするように話しかけるが、同じテーブルなので、ほぼ筒抜けで聞こえてくる。
「好きとかキライとか以前にさ、虹都って優柔不断だから他人の首輪を奪るとかゼッタイできなさそうだし、誠意も戦意も無いくせに、屁理屈こねて、闘いがキライだとか言い出しそうなのがイヤなのよ」
このとき、実はボクはこんな首輪争奪戦は闘うべきじゃないと思っていたので、何だか、あおいに見透かされたような気がしていた。
フィリップ・マーロウを引用するまでもなく、ボクの信念であるハードボイルドは強さと優しさだ。
そして、強くあるのは生きるためではなく、正義のために、そして他人に優しくするためだ。
優しくなければ、生きていく資格はない。
つまり、この交戦でハードボイルドを追求すると、やるべきことは首輪を奪って他人を踏み台にして勝つことではなく、こうした理不尽な要求する体制に対して、正義の鉄槌を下すことだ。
さすが、西條あおい。
だてに粗暴じゃないし、無駄にボクの幼馴染でもないようだ。
ボクが言葉に詰まっている間に、後ろから中押冴朱が弾幕を張ってくれる。
「そんなことはないと思うよ。去年、同じクラスだったけど、東大路君、思いやりがあって女子には優しいと思うんだけどな。だから、きっと争奪戦でも役に立ってくれると思うよ」
さすが日本一、気遣いのできる女子中学生! ボクの味方をしてくれる女子なんて生まれて初めてだ、と思うとちょっと胸熱だったりする。
「ねぇ、虹都。西條さんにかなり嫌われているようだけど、何かあったの?」
チームで、もう一人の男子、いや、4人目の女子と言っても過言ではない南郷灰音が、心配そうにボクの顔を覗きこんで言う。
ボクは首を左右に振って灰音の質問に答えると、あおいにむかって言った。
「実はさ……、ボクはこの首輪争奪戦を闘うのは間違ってると思うんだ」
あおいの顔から精気が失せ、全身の機能が一時停止したかと思われた……のだが、すぐに予備用電源で復活したのか、あおいが言葉の暴力を振るい始める。
「ほらほら、言うと思った。でも、こーちゃん。今回だけは冗談抜きの真剣勝負なんだから、安っぽいハードボイルドとかは封印しててもらえないかな?」
「そんなんじゃなくて、今回の首輪争奪戦ってさ、ボクたち第3次ベビーブーム世代が多すぎるからって言うのが理由なんだよね」
「だからって何よ」
「だから、ボクたちの世代が多いのは結果としてそうなっただけで、悪いのはボクたちじゃないってことだよ。産児促進法でベビーブームを作り出した政治家たちも悪いと思うし、あと、産児促進法で結婚した人たちにも責任がないとはいえない。そして、増えすぎたボクたちに首輪の奪い合いをさせることにした大人たちも悪いよね」
「まあ、そう言えなくもないけどね」
「そんなことでボクたちが闘う羽目になるなんて変だよ、おかしいよ」
「だけど、そんなこと言ったって仕方ないじゃない。もう法律で決まったことなんだし……」
「悪法も法なりって言うわね、でも、西條さん、私も東大路君と一緒で、気持ちの整理がついてないの」
意外なところで中押さんが味方してくれる。
「中押さん、この東大路虹都ってヤツはね、時々こんな分かった風なこと言うんだけど、とくに深い考えなんて無いのよ。超頭悪くて馬鹿なんだからっ」
「確かに東大路君は頭が悪いかもしれない……数学の理解もヤバイくらい遅いし、人間関係の機微にも疎いかもしれないし……」
なんだか、ボクの馬鹿以下が確定してるのは、気のせいでしょうかねえ。
「でしょう、天然モノの馬鹿なのよ。相手にしちゃダメなん……」
「でも、特定の不幸にする人を打ち負かして、勝者になるクロスアウト方式って、私は好きじゃないの。特に、不幸になる人を選ぶっていう過程が傲慢だわ」
あおいは、それまで制服の赤のリボンを弄っていた手をテーブルについて、立ち上がって中押さんを詰問する。
「好きもキライもないわよ。負けないためには勝つしかないじゃない。中押さん、しっかりしてよ。それより、こーちゃん、アタシも含めてここにいる皆んなの都合も考えようよ」
怒りの矛先がなぜか、こちらに向かってくる。やむを得ない、振りかかる火の粉は払い除けねばならない。
「あおい、一ヶ月、いや、一週間だけ時間をくれないか。なんとか、このバカバカしい争奪戦を止める方法を見つけたいんだ。だから、新学期の最初の一週間だけは停戦期間ということにしてボクたちは闘わない。夕方五時まで、学校でおとなしく情報収集に努める。とりあえず、それでいいかな?」
「西條さん、僕も虹都……東大路君の意見に賛成。そりゃ、いつかは闘わなくちゃいけないんだろうけど、闘わなくても良いなら、その方法も探してみる価値があると思うんだ」
なんと、マイ・スイート・エンジェル灰音、降臨だ。
「南郷君……だっけ。虹都の意見にしたがってもロクなコトがないわよ。ソースはアタシ。これまでだってロクなコト無かったんだけど……今だって、新学期が始まってから闘いを止める方法を考えるって言ってるあたりからして、もう死亡フラグがビンビン立ってるわ。一週間だけって言っても、一週間で何が分かるのよ」
あおいの凶暴な演説の中で少し冷めているのが、中押さんと北雲千茶だ。
しかし、冷静な中押さんはボクの味方についてくれた。
「私も一週間、情報収集ってのに賛成するわ。突然、闘えって言われてもどうしていいかわからないし、学校に五時までいれば、少なくとも首輪を奪われることはないわ」
「うーん……もうっ、千茶、どうにか言ってやってよ。もともと、こーちゃんが馬鹿なこと言うから、話が変な風になっちゃったんじゃない、こーちゃん、逃げずに闘おうよ、あと、千茶っ……あれ? 千茶?」
ボクがズケズケ詰め寄ってくるあおいに圧倒されそうになっていると、いつの間にか席を移動した千茶が灰音に近づいて話しかけていた。
「ねぇ、灰音くんってさ、あのさ」
「あ、さっきの北雲さん、大丈夫だったんだね」
「ぐふふふふ、あなた、ずっと病気で休んでたんだよね」
「うん、義務教育じゃなきゃ、落第してたよね、僕」
ふんふん、結構、容貌の整った千茶と話していても、可愛く見える灰音って、ひょっとしてボクを絶望の淵から救い出すために、遣わされた天使なんじゃないだろうか。
「灰音くんって中性的だけど、男子と女子ってどっちが好き?」
ぶわぁっ……なに訊いてやがる、千茶。男子に決まってるだろう。男子に。
「そんなこと考えたことなかったよ。あまり家族以外と話すこともないし、さっきも虹都君が友だちになってくれるって、それだけで嬉しくて……今日、家に帰ったら多分びっくりされるだろうな、灰音にも友だちができるのかってね」
「なんだ、友だちでいいなら私もなってあげるわよ。戦友なんだしね。千茶ってよんでよ、私も、もう灰音くんってよんでるんだから」
「えっ、嬉しいんだけど、北雲さん……じゃなくて、千茶さん。……なんだか恥ずかしいよ。女の子を下の名前を呼ぶなんてさ」
頬を赤く染める灰音が初々しい。これは、俺得タイムなのか。
頑張れ、千茶。お前の活躍場所を与えて下さった神様に感謝しろ。
まぁ、こんなに可愛い灰音の姿は、なかなか見れそうにないからなあ。
「ところで、灰音くん。これで、わたしと東大路君っていう二人の友だちが出来たところでお願いなんだけど……東大路君のこと諦めてくれないかな」
「えぇぇぇ~、どうして、北雲……千茶さん。みんな仲良く友だちでいちゃダメなの?」
「ダメよ。友だちって、周りを見て、どっちがランクが上か牽制し合って友情を高めていくの。知り合いが友だちになって、友だちが親友に、親友がそれ以上になるの。灰音くんは東大路くんとそこまでのことを考えて付き合っているのかしら」
「……それじゃ、みんな、親友でいいよね。千茶さんも虹都も親友ってなんだかいいな」
「ぐふっ、それじゃあ、もっと仲良くなったら、二人とも灰音くんの親友以上でもいいのかなぁ?」
なにその友情のハイパー・インフレ・スパイラル。既に、微妙に腐臭が漂ってるし。
その腐臭を抑えるかのように灰音は満面の笑みをもって言う。
「うん、それいいなぁ。みんなでもっと仲良くなれたらって僕の夢だったからさ」
「みんな仲良く、その夢いいわっ。灰音くんって中性的だから、夢見る総受け少年ッて感じで萌えるわぁっ、ぐぶふふふ」
誰もわからない萌えポイントに深くハマった千茶を救う術は、もはや無い。
「あれ、千茶さん? 顔が真っ赤だけど大丈夫? さっきの鼻血が治りきってなかったのかな。良かったらこれ使ってよ」
灰音が差し出したハンカチを、左手で制して、右手にどす黒い血糊でゴワついたハンカチで顔を覆って歓喜の絶頂を迎えて呟くように千茶が言う。
「ぶふふぅ、ふぅ。そ、そうね。灰音くん、どんっどんっ仲良くなって、みんなで一緒に『青春の汗』を、流しましょうね、ぶずずずずぅ」
既に、手にしたハンカチにドクドクと大量の青春の赤い汗を溜めながら、化粧室に駆け込む千茶。
何が彼女の腐の琴線に触れたのかは、誰も分からないが、暫くは残された四人で判断を下さなければいけないようだ。
「「「あ……」」」
ボクが「あおい」、中押さんは「あなた」、灰音が「あのさ」と言おうとしたのが、ぶつかったようだ。
ボクと中押さんと灰音の3人が同時にあおいに話しかけようとして、思わず譲りあう。その中に割って入って、あおいが言う。
「分かったわよ。皆んなの言いたいことは分かった。一週間だけ、様子見しようって言いたいんでしょ。でも、待つのは一週間だけよ。貴重な緒戦奇襲の機会を棒に振るんだから、心してよね」
あおいは、数的不利を悟ってか、条件闘争に移行した模様だ。
しかし、緒戦奇襲の策なんてないものをデッチ上げて話を有利に進めようとは、どこぞの弁護士よりタチが悪い。
「で、一週間の停戦期間の間にこーちゃんは何するつもり?」
「ボクは京美深姫を調べようと思ってる。今回の争奪戦、交戦監視員の裁量で決まっちゃう部分が多いからね。最初の一週間はさすがに争奪戦の動きも少ないと思うから、京美さんは校内で彷徨いてるんじゃないのかな。多分、観察しやすいと思うんだ」
「私も交戦監視員を調べるわ。といっても京見深姫じゃない別の交戦監視員を調べるの。どうやら隣の中学校にも交戦監視員がいるようだからね。東大路君、情報交換よろしくね」
「……ボクはいいけど、隣の中学校って陵日学園中だよね、中高一貫教育の男子校の」
「そうよ、向こうの交戦監視員は男性らしいわ。さるルートから写真も入手したし、向こうの三年生の教室に幾つか盗聴器も仕掛けたわ。北館の三階渡り廊下から向こうの中等部の教室がよく見えるから、一週間ほど状況を見てみるつもり」
うわぁ、中押さん、行動力ありすぎじゃない。
それと、あなた最初っから闘う気がなかったですよね、とツッコみたくなる。
この状況で、陵日中と取引できるコネがあるなんて、やはり、中押冴朱はスーパーガールだ。
「……こ、虹都、僕になにかできるコト、無いかな? 運動は苦手だけど何かみんなの役に立ちたいんだ」
「それじゃ、灰音はボクに付いて来てくれないかな。尾行とかやったことないし、苦手だから……灰音と二人で行動してるほうが、京美さんに怪しまれずにすむと思うんだ」
「本当に? 分かったよ、虹都。なるべく、自然な感じで一緒に居るように頑張るよ。あと、他にも何か準備するものがあったら言ってね」
うわ、ボク、今、かなり幸せです。と言うより灰音と一緒でボクの挙動のほうがよっぽど心配だ。
「ふーん、仲のおヨロシイことね、こーちゃん」
何か不機嫌の塊が熱帯性の低気圧でもまとっているかのような、じっとりと重く粗暴な声が響く。
「アタシはアタシで、闘いに備えた情報収集をするわ。実践的な首輪の奪り方を研究しておくから、こーちゃんたちは、そっちの情報収集が終わったら、次の週からキリキリ闘ってもらうわよ」
「あら、西條さん。私は勝つための情報収集しかしないわよ。敵を知り己を知れば、百戦危うからずって言うでしょう。私たちは中学校内での首輪の取り合いが認められていない以上、一番想定するべき仮想敵校は陵日中だと思うの。その内部の情報を得ておくことが一番の勝利への近道だと思うわ」
「へぇ、中押さん、アタシ見直しちゃった。さっき、こーちゃんの意見に乗っかったときは、中押さんって、とても頭の貧しい人だと勘違いしてた。でも、そこまで考えているとは常山中第十八部隊も捨てたものじゃないわね。さっさと勝ち抜けしたら、勝てない部隊のみんなに秘策を講義してあげるっていうのもいいわね。一回一諭吉ぐらいの価値はあるわ」
え、有料なの? 返品とか、クレームとかで大変なことになりそうだ。
「それは、ちょっと遠慮させて頂くわ。首輪争奪戦に勝っても、争奪戦の不正に関わると、ペナルティの対象になってしまうおそれがあるし……私たち受験生だしね」
中押さんは、あおいの粗雑なアイディアをやんわりと否定して、最後に少し、地に足のついたことを言った。
「そうね。アタシたち哀しい受験戦士でもあるのよね。うん、そこで、提案なんだけど、5時まで学校で情報収集した後、みんなバラバラに帰るのは勿体無いわ。とりあえず、ウチは学校から一番近いし、5時過ぎには集まれるから、みんなで集まってその日の情報交換と勉強会をやりましょう。どう、こーちゃん、アタシの素晴らしいアイディア?」
その思いつきをどう変換したら、アイディアというノーブルな単語に置き換わるんだろう。
しかし、ここで反対すると無用な青春の汗が流れることも考えられる。君子危うきに近寄らずだ。
「いいわ、賛成よ、西條さん。でも、家の方のご迷惑にならないかしら」
「いやー、全然大丈夫よ。パパもママも、友だちを連れてくる分には甘いから。こーちゃんですら歓迎されてるんだから、中押さんなら、大々々歓迎まちがいなしよ」
「友だちと言ってもらえるのだったら、西條さんのこと、下の名前で呼んでもいいかしら」
「ええ、あおい、でいいわよ。中押さんは冴朱で良かったかしら。ついでに、トイレに居るのは女子剣道部主将の北雲千茶よ。千茶って呼んであげて」
「あの、青春の汗が大量に出る人よね……千茶さん。分かったわ。あおい、これからよろしくね」
中押さんに先を越されてしまった上、女子がどうやら大同団結してしまったようだ。
さっきまで、いい感じで女子票が割れていたのに、なんだか中押さんを、あおいに取られてしまったような感じがする。
「ねぇ、僕も参加していいかな。その勉強会に」
灰音があおいの方を向いて言う。
「当たり前じゃない、南郷君。どうやら、千茶もただならぬ興味を示していたようだし、大歓迎よ」
「うわぁ、うれしいなぁ~。僕のことは、灰音でいいよ。何かできる事があったら言ってね」
何か、場が粗雑なあおいを中心に、和気あいあいとしてきた。なんだかとても居心地が悪いんですが、この空気。
「どうするの、こーちゃん。さっきから黙りこくっちゃって。今なら大歓迎とはいかない迄も、末歓迎か小歓迎ぐらいなら残ってるわよ」
どうやら、ここは神社の御神籤販売所か何かであるらしい。しかし、大吉が残ってないって一体なんの罰ゲームなんですか。
「分かった……やるよ。参加する」
「うわ、虹都、良かった」
後ろから灰音に抱きつかれて、ボクのマグナムがつい暴発しそうになる。
さらに、喫茶店の奥から、貧血気味の絶賛青春発汗少女が腐臭を伴って登場する。
「なによ、みんなで盛り上がっちゃって。私も入れなさいよ」
「千茶、大丈夫よ。超歓迎しちゃうから。あと、千茶は私と一緒に情報収集に協力してね。学校の情報教室にあるパソコンだけど、大丈夫かしら」
「任せてよ、剣とキーボードなら誰にも負けないわ」
腐な剣道少女はニヤリと微笑んだように見えた。
一見、あおいを中心に常山中第十八部隊はまとまったかのようだった。少なくともこの時までは、ボクはみんなで一致団結して情報収集するものだと思っていた。
しかし、新学期を迎えるとあおいの提唱した勉強会は思ったように部隊の結束を強めるようなものとは、ならなかった。