第三章 第5話 資材置き場の闘いと勝機 (DAY 5)
「お前たちは完全に包囲されている」
真ん中のガタイの良い男が、どこぞの刑事ドラマで聞いてきたかのような紋切り型のセリフを空に向かって高々と吐いている。
その空模様は晴れているのか曇っているのか霞がかっていて、よく分からない。
「こちらは十人、そちらは二人、もはや勝ち目はない。諦めてそこから降りてこい」
もう、陵日中のジャージ軍団は勝ったつもりでいるようだ。
「勝負は頭数で決まるもんじゃないわ。アンタたちも男だったら一対一で闘いなさいよ!」
こちらも負けじと、あおいが、どこかの学園ドラマで聞いてきたかのようなセリフで、敵を煽っている。
見ると、ヨモギは早々に資材置き場から飛び出し、中押さんと千茶がそれに続いて帰り道の確保に動きだした。
味方の動きは作戦通りだが、恨めしいことに敵の数だけが思惑と大きく外れている。
吹部の男子二人の予定が、体育会系男子十人になっているのだから、絶体絶命といって差し支えない。
陵日中のジャージ軍団がまさに二重に包囲態勢を敷きながら、間を詰めてくる。
このまま、この鉄の物見やぐらに取りつかれたら、二人とも、容易に足を取られて引きずり降ろされてしまうだろう。
「ふん、猪口才な……こうちゃん、鉄板を投げるわよ」
「投げる? これ結構、重いんじゃ……」
「だから威力があるんじゃない」
そう言うと、あおいは一枚ずつ鋼矢板を足元から剥いで、千切っては投げるように、周囲に投げ始める。一枚十数キロほどはあろうかという鉄板が派手な音を立てながら近づいて来る陵日中の生徒の前に突き刺さるようにして落ちる。
ボクもあおいのやり方を見て、千切っては投げ、千切っては投げを繰り返す。
鋼矢板はバカン、バララン、グァーン、バン、パン、ポコペンとひどい音をたてて地面に落ちる。
さらに、落ちた鉄板に鉄板が当たるとゴワーン、ワンワンワン……と、かなり痛そうな音がする。
さすがに、これにはたまらず、陵日中の生徒から抗議の声が上がる。
「お、おいっ、お前ら、こ、殺す気かぁっ、凶器はルール違反だろうっ」
「アタシたちは鈍った身体を鍛えるために鉄板投げしてるのよっ。交戦なんてしてないわ。危ないからアンタたちこそ、さっさとここから帰んなさいよ。昼休みはね、好きなことするためにあるんだからっ」
言ってることが、もはや滅茶苦茶で、目を覆いたくなるばかりだが、首輪争奪戦の非公式戦というのは、こういうものかも知れない。
「マジ、危ないぞっ、全員、鉄板の届かない場所まで退避っ。鉄板がなくなり次第、突っ込む」
そう言うと、みんな、鉄板の届かない場所までさがっていく。
「えいぃぃやっ」
ボクの渾身の一投も、あとすこし届かない。虚しく鉄板が地面を這う音が響く。
「こーちゃん、頭下げてっ」
あおいはそう言うと、今度は身体を水平に捻って鉄板を、ブルンブルンと回しながら投げつける。
いや、なんとなく、当たると人が死にそうなレベルの飛び方してましたけど……。
落ちた場所には運悪く鉄板が転がっており、グワーンワンワンワン……と、これまたかなり辛そうな音がする。
「アブねーだろっ、バカ野郎」
間違いなく、威力もあり脅威の水平円盤投げ、改め、水平鉄板投げなのだが、致命的な弱点がある。誰しもが、一見してわかることだが、オーバーフォームなのだ。そのため、五秒に一枚投じられれば良いかも知れない程度にピッチ間隔が開く。
要するに、鉄板が投げられた後、その行方を見て一気に押し寄せてこられれば、こちらの織田方の陣地は、武田騎馬隊に縦に蹂躙されることになる。
さらに投げた後に姿勢が崩れるのも、足場の悪い板の上に陣取るボクたちには不利だ。
ただ、もっと切実にボクとあおいを追い詰めているものがあった。さっきから随分と視点が地面に近づいているのだ。
「そろそろ、頃合いかしらね」
あおいが言うように、足元にあった鉄板を投げ続けた結果、鉄板の山は高さを当初の半分ほどに減じてしまい、もはや、陸上競技に使うハードル程度の高さしか無い。
「白旗でも上げるのか?」
「馬鹿なこと言ってないで、こーちゃん、先にこの下に降りて。早く」
はぁ? あおいの指す先は、井桁のど真ん中だ。隠れんぼにもならない。
逆らう余裕もなく仕方なく下に身を沈めると、あおいは下にいるボクに向かってスカート下に仕込んだ最後の四本のキャンドルスモークを落とす。
「まだ持ってたのか?」
「こーちゃん、上見ないでよ」
まあ確かに、ここからでは、スカートの中が丸見えなので、下を向いていると……叱責の声が飛ぶ。
「しっかり敵の位置を確認して、敵を煙幕の向こうにしたいから、だいたい真ん中あたりに落としてよ」
どうすればいのか激しく戸惑いながらも、ちらりと上を向くと絶景が広がっている。前なんて向いてる暇なんかありません。はい。ただ、上に行くほど光量不足でどうやら今日は白パンらしいことだけが分かるのみである。
スカートとは、なるほどよく出来たシロモノだ。
やむなく、ボクは敵の位置を確認するべく前を向く。
「陵日中の諸君っ、注意しておくわよ。これから、榴弾が四発、徹甲弾が一発飛ぶから物陰に隠れなさいっ!」
あおいは、今度はアフリカ戦車軍団の砲手にでもなったつもりなのか、あおいは鉄板を一枚を片手で持つと、水平鉄板投げのフォームに入る。
すわ、徹甲弾とは鉄鋼板のことでしたか……。
陵日中の生徒がざわつく。それが落ち着かない内に、あおいはカウントダウンを始める。
「三……二……一……」
ボクはキャンドルスモークの先を四本同時に鋼矢板に叩きつけて割ると、あおいの指示で彼我の中間点あたりに放り投げる。
轟音が唸り、煙の塊は散弾こそ無いものの、炸裂音により榴弾が落下するかのように陵日中の生徒を恐怖に陥れる。
さらに、その落下する煙の奥から円盤投げでぶん回された鉄板が飛んでくる。
鉄板の落ちたあたりから、なにやら不穏なざわめき立つ声がする。
誰か死んだの? そう思えるほど静かになる。
威嚇攻撃を終えたあおいが、えいやっとばかりに飛び降りようとするが、鋼矢板の縁に足を引っ掛けてまさかの転倒だ。
見ると、頭から落ちている時点で大変ヤバい。
「「あっ」」
ドサッと、あおいが落ちてくる。
ガンッと、ボクの側頭部が唸る。
要するに、あおいをどうにか受け止めたボクは、勢いよく側頭部を鉄板に強かに打ち据えられた。
ボクは教訓をひとつ得たかもしれない。
全国中学生男子に警告しよう。万が一、空から女の子が降ってきたとしてそれを受け止めてはならない。
受け止めると、とても痛いことになるのがオチだ。あまり賢い選択肢ではない。
「あらアリガト、こーちゃん。それじゃあ、鉄板、全部、持ち上げるわよっ」
あおいは、するりとボクの腕の中からすり抜けると、鉄板を持ち上げるために両膝を踏ん張っている。見る限り、あおいはノリノリである。火事場の馬鹿力が計算に入れられていたのか、残された鋼矢板は、二人で、どうにか井桁ごと全部、持ち上げることが出来た。
こうやって見ると、首が隠れて、資材置き場の出口まで進むにはちょうど良い塩梅だ。
井桁の中に入ってボクたちは前進し、遮二無二襲い来る陵日中の生徒を、鉄板のカドでガードしながら、資材置き場の出口に向けて進む。
そして、あおいは鉄板の井桁の形が持たなくなると、早々に鉄の装甲のほとんどを放棄して、鉄板一枚だけを引き抜く。
抜いた鉄板を陵日中のガタイの良い男にぶつけて、その上から両脚でケリを加える。
「倒熊蹴り!」
ストリートファイトのように技が決まり、熊が地面にぶっ倒れるが、本来のベアベイティングってそんな格好良い話じゃないでしょう。
いや、作戦コードネームが、必殺技の名前にまで小さくなっちゃてるよ。これって作戦、失敗してるんじゃないの。
まあ、確かに熊のような男は地面に倒れたが残念ながら意識ははっきりしているようで、首輪を奪れるような状況ではない。
しかし、陵日中のジャージ軍団は怯んだ。
それで充分だ、とばかりにボクはフェンスをずらして出口を開くと、あおいと一緒に滑るように一本道を駆けていく。
「おい、逃がすな!」
後ろで声がするが、振り向きもせずボクたちは最初、来た道を校舎に向かって引き返す。
「やぁっ、あおい先輩にコウトじゃないさ。首輪は無事のようだねっ」
やたらと元気なヨモギが一本道の曲がり角に待機してくれていた。首輪を持たないものの強みといったところだろうか。
来年、戦闘延期した時は、ヨモギと同じ部隊になるのも楽しいかもしれない。戦闘力と士気の向上に役立つんだろうな、ポジション的には今の部隊での……あおいと一緒か。
「殿は、このヨモギにお任せして、先輩たちは学校に戻ってるといいのさっ」
「あ、ああ、ありがとう。ヨモギ」
「ヨモギちゃん、一番でかい奴は、アタシが倒しておいたから無理はしないで!」
確かに、ムダに倒しましたけど、首輪は奪れなかったので誇らしげに言うべきものでもないだろう。
ボクはそう思うが、ヨモギは同性の先輩には精一杯、従順なようだ。
「了の解なのさっ。あおい先輩っ、それでは、あとは引き受けましたっ」
ヨモギは自然体で構えに入り、ジャージ軍団と相対する。ジャージ軍団もタグをつけていないヨモギをどうするべきか悩んでいるようだ。
合気道とは向かい来る敵の力を利用して倒していくらしい。ならば、こういう敵が殺到してくるマス大山状況では、かなり力を発揮しそうだ。
しかも、道は狭く曲がっており勢いが殺され、ヨモギを抜くのは容易では無いだろう。
強力な隠れキャラ、ヨモギに助けられて、ボクたちは、どうにか学校までの道を戻る。
校門の階段を降りると花壇横のベンチでは、中押さん、灰音、そして、半分泣きそうな千茶が見える。
息が切れそうになりながら、ボクはあおいの手を引きながら、どうにか、ゴールの校門に転がり込む。
「良かったわね、無事みたいで……って、あら、仲良きことは美しき哉、かしら」
中押さんがボクとあおいのつないだ手と手を見ながら恥ずかしそうに言う。
いや、昨日から中押さんのボクたちを見る目に、かなりの偏りを感じるんですけど……。
そこに、ボクの中途半端な不快指数を、カリブ海の太陽の下に誘い出すかのようなソプラノ声が飛びかかってくる。
「虹都、無事だったんだ! 怪我はない? 大丈夫?」
「ああ、大丈夫」
側頭部の瘤以外は、不思議とかすり傷ひとつ無い。誰のおかげだろう。ボクは少しあおいの状況判断と行動力に感謝する。
そうした中、千茶は戻ってきた一回り小さいあおいを抱きしめながら泣いている。
「千茶、どうしたのよ……もう、泣いてちゃ分かんないわよ」
「だって、私が残ってれば良かったのに、ヒッ、ぐずずぅ……」
「いいのよ、千茶、帰り道の確保だって重要だったんだから。でも、まさか、あんな状況になるなんて、誰も思ってなかったわ……」
誰も思ってなかったか……昨日も、今日も危機一髪だ。一体誰の演出なんだろう。ボクの頭に、そして、おそらく、あおいの頭に何か判然としないモノが引っかかっている。
しかし、千茶があおいを抱きすくめている姿に心のどこかが動悸動悸するのはどうしてかな。
ボクはあおいを少し特別に思っているのか? いや、そう思いながら、奇妙な気分に捕われる。
「とにかく、もう、昼休みも終わっちゃうわ。ヨモギは?」
「そこにいるわよ」
千茶が指す校門の階段の上を見ると、誇らしげに短いベルトを掲げながらヨモギが降りてくる。
「やぁ、千茶先輩っ、お待たせ。お望みの首輪を持ってヨモギ、帰還なのさ」
「ヨモギ、アンタ何やってんのよ。どうしたの? その首輪」
「さっき、倒した陵日のヤツが鋏なんか使って襲ってきたから、ついさ、こう……カッとしてさ、その鋏で切り落としてやったのさ」
首輪を切ってしまうとは、さすが千茶の後輩、見どころがある。しかし、これって認めてくれるのかな、などと思っていると、陵日中のジャージ軍団が走って校門の前までやって来ていた。
「ヨ、ヨモギは悪くないのさ。あいつらが次から次に襲ってくるのが悪いんだよ。か弱い下級生に対して、礼儀がなってないのさ」
ヨモギは悪びれずに言うが、ジャージ軍団のガタイのいいのがやってきて階段の上から声をかける。大きくよく通る声だ。
「おい、その首輪は返してもらえないか。その二年生がコイツの首輪を切っているところは、スマホで撮影してある。常山中の非公式戦での取得とはみなされない。今、返してくれるなら、首輪付け替えの実費はこっちで負担しよう」
相手の言うことも中々に筋が通っていて、残念だ。スマホで撮影してたか、こりゃダメだな。そう思った刹那、中押さんがヨモギに言う。
「四方木さん、首輪は返したほうが良いと思うわ」
ぐうの音も出ないまま、ヨモギは千茶の指示を待っているようだ。
「ヨモギ、気持ちは嬉しいんだけど、ズルはしたくないんだ。悪いけど、首輪は返してあげて……」
ヨモギは黙って外を向いて左脚を高く振り上げノーワインドアップから鋭いモーションで首輪を投げ返す。
「ふんぬっ」
指先は時速一五〇キロを超えていそうな、そんなスピードに乗って首輪が陵日中のジャージ軍団に投げ返される。
「いいフォームだ。首輪は確かに受け取った」
なんなんでしょうね。その、今は死に絶えた熱血野球漫画みたいな会話は。
陵日中のジャージ軍団は、言葉少なに学園に戻っていく。残り少ない昼休み、お互い成果のないことを確認しているようで辛いものがある。
「いい、みんな、今日は放課後、反省会と作戦会議よ。反省会だけでも、ヨモギちゃん、来られるかしら?」
「了解なのさ、あおい先輩っ」
なんだか、あおいの無茶振りとヨモギの体育会系が一致して、妙にしっくりと会話が成立する。
確かに反省会ものだよね。参加した中で当初の任務を全うしたといえるのは部隊外から参加のヨモギだけなんだから……。
上を見上げると混沌とした曇天の空はやや昏くなっていた。
ボクは部隊の皆んなと昼休みの終わりで混み合う昇降口へと進んでいった。
◇
「何がどうなったのか、サッパリ分かんない」
放課後の反省会でも、あおいは、イライラが止まらないようだ。
「まず、最初、誘導任務のヨモギちゃん。何があったか詳しく教えて頂戴っ」
なぜか呼び出されたヨモギは、例によって緑の襟章に長いアホ毛を悠然と伴って、恥じるところがない。
「うーん。ヨモギが陵日の校門前に行ったときは、何も変わったことは無かったさ。そうだね、ヨモギがキャンドルスモークを使った瞬間、あのジャージ軍団が急に校門脇から湧いて出てきておどろいたさ。二本目のキャンドルスモークを鳴らしたときには、もう、ジャージ軍団に追われてたって感じ」
「そうだよね、僕も千茶さんに言われたところで待ってたんだけど、すぐに、ヨモギさんが来て、沢山人を連れてたから……それを見て、もう、すぐにキャンドルスモークを使ったんだけど、手遅れだったみたいで誰も誘導できなくて……ごめんなさい、僕がもう少し敵を引きつけられたら良かったんだけど……」
「灰音君っ」
「え、千茶さん」
「だから、灰音君が自罰的になっちゃだめよ。私にだって伝達した責任があるわ」
「でも、千茶さんはあおいさんの指示に従っただけじゃぁ」
「仕方がなかったの。でもね、灰音君のこと良く分かってないから、こんな役割押し付けちゃって……」
また、この二人だけで盛り上がってるパティーンなの? としか思っていなかったら、ヨモギが唐突に横槍を入れる。
「ハイネの特技は、ピアノじゃないの? ……えぇと、もうやめたんだっけ」
「いや、病室でも弾いてたよ。電子ピアノだったけど、毎日。でもどうして知ってるの」
「やはり、ムーシケ金賞の南郷ハイネ様の方は知らないわよね。ヨモギはギリ入賞の平民なのさ」
「なんなの? ムーシケ金賞って」
「千茶先輩、小学校五・六年生にとっての登竜門、ピアノコンクールの有名ドコロなのさ。小五のとき、ピアノを張り切ってたヨモギは、ピアノの先生に金賞狙えるって言われて出さされたのさ。ところが、テンポが狂っちゃって|散々さぁ……そんな中、調子悪いって金賞コメントしたのが、そこの南郷ハイネ様。今日見た時からヨモギは直ぐにピンときたのさ」
「ヨモギちゃん、そんなムーシケ入賞ってだけでもすごいと思うよ」
灰音がフォローするが、勝者の慰めなど敗者にとって屈辱でしかないようだ。
「ぷぃ……なのさ。南郷家は代々、音楽関係の血筋だから、ヨモギは納得なのさ」
「へぇ、灰音って、ピアノ弾けるんだ。すごいんだね」
ボクは、何も分からなかったが、少々、ヨモギの癇に障ったようだ。
「弾けるなんてもんじゃ無いのさ。テンポ、リズム感は完璧、絶対音感、加えて表現力があってさ、悔しいけど、ハイネはピアノコンクールじゃ無敵だったのさ……」
ほう、そう言えば京美さんが、先週、灰音は特異な才能者って言ってたっけ。このピアノの才能がそうなのか。
まぁ、交戦で役に立つようなものじゃないけど、それはそれで灰音らしくて素敵だ。
その中で、妙にこちらを見ているのがあおいだ。ボクは気になって訊く。
「あおい、何か、灰音のピアノの才能に興味があるの?」
「そうね、ヨモギちゃん、灰音君のテンポ感ってどの程度完璧なの?」
「それがアダージョとか、アンダンテって範囲に合わせるレベルじゃないのさ。ハイネはメトロノーム記号ピッタリに時間を刻んで鍵を叩くんだよ。たとえば、MM六〇の譜面なら一分間に四分音符を六〇回の早さで刻むんだけど、ハイネはどんな音符構成で何百回やっても寸分違いなく|MM六〇のテンポをキープするのさ」
「へーぇ、それって凄すぎるわね。チートの領域じゃない。灰音君、ホントなの?」
「あおいさん、それぐらいなら、今でも大丈夫だよ。でも、実際に曲を弾くのは準備が大変だからちょっと……」
「曲はいいわ、今のところ。それより、ヨモギちゃん、おかげで反省会は上々の首尾だわ。勝利の暁には、アタシも含めて部隊をあげて御礼がしたいわ。そのときには必ず声をかけるわね」
「はい、あおい先輩。でも、反省会はまだ……」
「因果関係が分かれば、もう反省の必要はないわ。だって、どう考えても最初に出てきたジャージ軍団が想定の範囲を超えていたのよ。冴朱だって、どうしようもないと思うでしょう?」
いきなり話を振られた中押さんは少し驚いたようだが、いつもの調子で答える。
「そうね。釣り出す相手を間違えた。もっと言えば、想定外の事態が起きたときに備えた安全装置があれば、作戦としては非の打ち所がなかったと思うわ」
「そう、そこで、失敗の原因を作戦に持ってくるんだ」
あおいの言葉に、中押さんが失言を取り返すかのように言葉を足す。
「あおい、慾を言えばっていうだけで、どんな事態にも対応できる作戦なんてないわ。結果論だから気を悪くしないで頂戴ね」
「結果論ねぇ。まぁ、いいわ。今度は必勝の作戦があるんだから、安全装置も邪飛球も無いんだから」
どうやら、急速に反省会はその役目を終えたようだ。
そして、あおいが力強く声を荒げる。
「さぁ、冴朱も千茶も灰音君もこーちゃんも、これから作戦会議よ。それも、必勝の作戦会議なんだから。全員一致協力、異議は一切認めないわよっ」
そして、続いてあおいから必勝の作戦が囁かれることになった。