2話 餓死
黒い狼は歯をむき出しにしてこちらに向けて威嚇をしていた。ちなみに狼の大きさはおよそ4メートルあった。
人形は(威嚇しなくていいから早く食い殺して。)と心の中でつぶやいた。
狼の威嚇はさっきよりも強くなり、人形はいつでもどうぞという感じだった。
しかし、なぜか狼は威嚇を止めこちらを睨んできた。
(ねえねえ、早く殺して、もう生きたくないの。コロしてコロしてコロして)
狼はおもむろに口を開き、言葉を発した。しかし、人形はこの世界の住人ではないので意味は分かなかった。それにしてもこの世界は魔物は喋れるのか?と思ったが人形には関係の無いことだ。何せこれから死ぬのだから。
喋った狼は人形が何も反応を見せなかったせいか、また唸りをあげた。そして興味を失ったのか森の奥へと消えていった。
(なぜ、殺さなかったのか。殺してほしかったのに。)人形はとても残念がっていた。
それから、何度も魔物らしき生き物を見た。しかしすべて人形を見た瞬間、何かに怯えるように何処かへ去ってしまった。結局死ぬことなく朝を迎えてしまった。もう人形が死ぬ手段は餓死にかけることになった。
朝になり起きた人形は死ぬ方法を妄想していた。
(もしこの近くに剣士がいて、コッチに話しかけたら、その剣を見せてくださいと言う。そしてその剣で人形の喉に、)そんなことを考えていたらまた、あの狼か来た。
人形を殺さない奴に興味は無いので木の近くに横たわって目を閉じた。枕が無いのがちょっと違和感があった。狼は、何かを言っていたが意味が分からない。それに半分ぐらいは眠りに誘われているので、聞き終わる前に眠ってしまった。
人形は目を覚まし起き上がると、そばには果物が山のようにもっていた。誰だか知らないが良い迷惑だ。確かにお腹は空いているが、それを狙っているのだ。 これを食べたらまた生きてしまう。生きるのはつかれたんだ。
そこに置いておくのはもったいない気がするので、近くの小動物達にあげた。それからは何も起こらず夜が来た。(あの果物は案外あの狼がおいてくれたのかもしれない。)と考えながら眠った。人形に優しさなどいらない。
3日の朝がきた。体は寒さなんて無いのに小刻みに震えていて、全身に力は全く入らなかった。やはりこの小さい体では3日が限界だった。だんだんと薄れていく意識に喜びを感じていた。
(ああ、もうすぐ死ねるんだ。今頃だけどその辺の石でも食べれば早かったのに。まぁ、もうすぐ死ねるからいいか。)
体の感覚が薄れていくと、ともにこの世界と人形の繰り返した人生にさよならをした。