蛇とスライムの水族館
「はーるーるーんー!ね、ひ、ま!」
本を読んでいると楪那が俺の腕を引っ張ってきた。
「学校の友達と遊べばいいだろ?俺は本を読みた…」
「だって皆用事あるって言ってたんだもん」
「るーたんと遊べば…」
「流雨ちゃん今日友達と遊びに行ったんだよ!遊園地行こうよ、ゆーえんちー!」
封印解除されて…というかるーたんから掘り出されて早二年。
楪那小学六年。
俺、無職。楪那警備員。
るーたん小学三年。
現在ゴールデンウイークの真っ最中。
遊園地とかめっちゃ人多いだろ。
この二年間で世の中のことはよく分かった。
インターネットやらはもうヤバいくらいに使いこなしてる。
「…人間が多いだろ」
「ふふーん。今日は雨の予報が出てるから人が少な…」
「アホか!」
雨の予報が出てるから行くとか可笑しいから!
行きたくねえよ!
遊園地とか晴れた日に行くもんだろ、ふざけてんのか!?
「えーっ、遊園地ー!」
「…分かった。今日は新しくできた水族館に行こう。遊園地は来週の金曜にお前が学校休め。それで行くぞ」
水族館ならアトラクション待ちとかないはず。
「わぁーい、はるるん大好きー!」
キャッキャ楪那が騒ぐ。
すっげえ嬉しそう。
いや、なんかほんと楽しそうだなー。
やっぱり俺は…とことん楪那に甘い。
水族館にて。
「あ、はるるんイルカショー見ようよ!」
リュックを背負った楪那が言った。
こいつ水族館でなにか買う気か?
「水族館の定番だな」
「イルカ可愛いじゃん」
「でも同じ哺乳類だぞ」
「ウチ、そんなの習ってないもん」
「俺も習ってないけど?」
「毎日だらしなくネットするか携帯いじるかラノベ読むかじゃん。ウチの方が偉くない?毎日早起きして学校行ってるし」
…唐突だけどラノベに出てくる小学六年って、楪那の小二くらいの精神年齢だろ。
っていうか、楪那の授業参観に行って思ったけど、ラノベの小学生って精神年齢とか幼稚園生なみ。
リアルの小学生を見てみろよ。
ラノベみたいに可愛くない。
作者にお前の小六のとき思い出せよ、とか思う。
リアルの小学生って、可愛くねえよ。
楪那参照。
「あ、ここだー!あ、ねぇねぇはるるん。一番前、空いてるよ!」
どうやらイルカショーのプールに着いたらしい。
やっぱり人が多い。
この次はラッコのショー…いや、行くのか?
「前は…うわ、この注意書読んだかよ」
俺はイルカプールの前にある注意書を指差した。
「読んだよ。当たり前じゃん!えっと、あれだよ、水が飛んでくるんでしょ。ばっしゃーって」
「着替えとか持ってきてないから絶対嫌だ。びしょ濡れだと風邪引くぞ?」
「持ってきてるよ!ちゃんと予想してたから」
用意周到…。
「じゃあ、行くか」
「行く行く!」
『皆さんこんにちはー!今日は…』
どうやらイルカショーの時間になったらしい。
イルカトレーナーのお姉さんの声が聞こえる。
「あ、始まった」
「可愛い~触りたい~!流雨ちゃんの方が可愛い~!」
…るーたん関係ある感じですか。
「あ、アシカも出るんだー」
アシカの紹介がされた。
イルカは?
イルカショーだろ?
おい、水族館?
「イルカショーじゃねぇの?」
「イルカショー…だよ」
「お、アシカなんかビーチボール回してる」
「すごーい」
「あ、次イルカがめっちゃ高くとん…うわっ!」
びっしょりと水飛沫…というか波が飛んできた。
俺らは全身ずぶ濡れになる。
「はははははっ!はるるんびっしょりー!」
「お前もだろ…はははははっ!」
お互い、顔を会わせて爆笑してしまった。
こうして、イルカショーの十五分は過ぎていった。
イルカショーのあと。
俺らは着替えた。
「うわ、マンボー!」
「あ、イルカにさわれるって」
「サメー!なんかはるるんに似てる!」
「真珠発掘!え、したい!ねぇしようよ!」
…という具合に楪那に振り回されもしたが。