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姫への忠誠は反逆の騎士を生む

「どうする気だ?英雄フロウ・グレイシア。君は姫を欲するが為に混乱を作り、国の友好を壊す気か?答えてほしい」


一瞬。気づく間もなく姫をもらうはずだった。しかし、俺の眼前には黄色の髪に赤い双眸を持つシャルレイ・クォーラがいた。

彼は俺の前に結界を張り、俺はその結界に手をめり込ませている。

星の力とやらを少ししか使っていないとはいえ、簡易結界に防がれるとは思わなかった。


悠々と眼前に立つ王子は、今まで対峙したどんなものよりも大きく見える。

俺の頬に冷や汗が流れた。しかし、ここで止まるわけにはいかない。

必ず姫を助けて救出しなくてはならない。


俺は自分の力を強めて結界を打ち破った。

ガラスの様に砕け散る結界。シャルレイ王子はそれを見て目を見開いた。


「簡単に破ってくれるね。凄い凄い」


「兄上。ここは私が……」


楽しむ様に俺と対峙しているシャルレイに申し出る物がいた。

弟であるバース王子だ。金色の髪につんつん頭。彼は碧眼だった。


「お前は姫を守りなさい。守れればだが……」


「兄上。私はもう子供ではありませんぞ。見くびるにも程が」


そう言った時だった。


「シャルレイ様の判断は間違いではありません」


「シビアっ!」


背後に赤髪の少女がおり、彼女はフルーレ姫を抱き寄せると足元の魔法陣から転移していた。

これにより、場は騒然とする。本来なら焦るべきは俺なんだろうが、去り際に姫が残した笑顔とサムズアップを見れば、どういう展開なのかを読むのは容易な事だった。


つまり、ノープログレム。問題ないという事だ。

さすが姫。まだ姫がクォーラと接触して日が浅いというのにこの人脈。感服いたします。

では、私もやるべき事をやらなくては……。つまり。足止めか。

俺はシャルレイ王子を見張る様に構えた。彼は横で狼狽えるバース王子に支持を出していた。


「追いなさい。まだ遠くには行っていないでしょう」


促されてやっとバースは動き、他の者にもシャルレイは指示を出していた。

この場は私に任せろと、英雄フロウは私の手で何とかしようと。そう言っていた。

俺はそれを見て女教皇に耳打ちした。


「姫様の元へ」


それを聞いた女教皇は足元に魔法陣を展開させて転移した。この場で転移できる者も次々といなくなり、数分後には俺とシャルレイ王子だけとなっていた。

でも変だ。彼は動かない。動く気配がないんだ。


不思議に思っていると、彼はゆっくりと歩いて椅子ではなくテーブルに腰かけた。

そして、その手にワインを取り、次に果物を取って双方に一度だけ口をつけた。


「とても美味しいものだよ。どうだ。冷静に話し合いなんてものは」


「そうですね。それもいいかもしれませんが、お腹はすいていませんのでこのままで十分です」


「慎重だね。そうだ。私が毒を気づかれない内に盛れるかもしれない。色々考えれば無限の可能性が湧いてきそうだね」


「えぇ、ご理解感謝します」


「それで?私と会話をして時間稼ぎが出来たとして、君は本当に抜け出せると思っているのか?だとしたら光栄だな」


光栄。この意味が俺には図り切れなかった。


「理解しかねます」


「そう邪険に扱わないでくれ。単なるお話なのだから。君と私とでなら、抜け道がある。そう言ったんだ。我々の抜け道があると」


シャルレイ王子はまた果物とワインに口をつけた。楽しそうに食べかけの果物を宙に投げ、次にワインの中身を軽やかに宙に浮く果物に投げかけた。

ワインは果物に当たると凍り付き、それはシャルレイ王子の眼前まで落ちると停止した。


「ほら。これは何に見える」


「見ての通りでは?」


「私はね。島を思い浮かべているよ。こんな島見た事もないだろう」


「えぇ、ワインと果物の島何て聞いた事がない」


「だろう。言うなれば新世界。新大陸。名はオルレアン。何故我々二つの国が力を合わせなくてはならないのか。それはこの新世界の覇権を友好国と共に手にするためだ。必ず戦争が起きる。機械と我々とでね。グローディアの女教皇とクォーラの女教皇。同じヘリオス教を信仰している。手を組むなら君達の国以外はない」


「えぇ……」


正直初めて聞く事ばかりで俺は理解が出来なかった。この人は突然何を言っているのだろう。

そう思い、シャルレイ王子を見ていると、彼は言った。


「政略結婚は感情を無視したものだ。問題が起きても不思議はない。だが、その問題は収束しなくてはならない。私が収束しなくてはならない。これは正しくなかったと。なら、こうすればいい。新たなる伝統を作り、その上で国の国交を深めると」


俺はシャルレイを睨み、シャルレイは俺に手を差し伸べた。

彼は笑っていた。何もかも理解したようにこちらに笑顔を向けていた。


「私の騎士となれ、そして、この騒動を収束しなさい。私は政略結婚を撤回し、新たなる行事である騎士留学制度を提案することを約束しよう。乗るか?それとも反るか?お前はどうする。英雄として彼女のそばで尽くすか。それとも反逆者として彼女に尽くすか。どうすれば幸せか。見極められないわけではあるまい」


「俺を殺すのでは?」


「何とかすると言ったはずだ。だから何とかしようとしている。君はひねくれているのかもしれない。過去を見れば、そうなるのも頷ける。だが、この状況では打倒ともいえる。では、こう言おう。戦争が始まる。もう一つ言える事は君の罪はこれから始まるであろう戦争で必ず償える」


言いながらシャルレイ王子は腰に携えた剣を鞘ごと引き抜いた。そして、こちらに差し出した。まるで本当に俺を騎士に指名するかの如く。


「これは私が丹精込めて打ち込んだ雷の剣だ。これを騎士の証とする」


シャルレイ王子は剣を鞘からゆっくりと抜いた。


「ここに書かれている紋章。魔法文字。これは私の術式なんだ。これが私の騎士という証明になるだろう」


俺は。俺は動けなかった。この話が本当なら乗る以外に選択肢はない。だが、乗れなかった。どうしてか、身体が動かない。

あぁ、そうだ。俺は彼を。シャルレイ王子を疑っているんだ。


再び俺は睨むように彼を見た。

すると、彼は初めて笑顔を崩した。


「見捨てるのか。大切な物を」


蔑むとか冷たいとかではない。怒りだ。負の怒りではない。光を帯びたような怒り。そんな怒りをシャルレイ王子は瞳に宿していた。


「大切なら離すな。この剣と共に」


「ヘリオスとシャルレイ王子と共に」


「そうだ」


「姫を守ります」


「行け!我が騎士フロウよ!混乱に満ちた者共を救済するのだ!」


言葉と共に俺と王子の足元に転移魔法陣が浮かび上がった。

そのまま一気に光に包まれて、俺はこの場から消え去った。

次に視界に移った景色は、混乱に満ち、火の粉舞う戦場だった。


先ほどのシビアという人と王子に女教皇に姫が戦闘をしている。その中には何故か父とシャーロットの姿もあった。

兄も姉も母もいる。グローディア側のヘリオスの教会の者も数人味方に付いている様だ。さすがは女教皇というところか。

みんな俺と王子が突然に現れた事に驚いていた。両陣営が平等に目を見開いている。


今いるのは王宮の庭。鮮やかな噴水や綺麗に咲き誇っていた花はもはや面影はなく戦いのあとが禍々しく残っている。

俺とシャルレイ王子が転移したのは、両陣営が対峙する中心部だった。


出現と共に剣を鞘から引き抜いて天へと振りかざす。

ひとたび振れば轟音が鳴り響き天を引き裂くような紅い轟雷が立ち上った。

そんな事をすれば当然周囲にいる人間は注目する。

俺は十分に注意を引いたのを確認すると言った。


「双方!剣を引け!我が名はフロウ・グレイシア。シャルレイ王子の騎士である。シャルレイ・クォーラの命により、この場を収束させる!もう一度言う。双方剣を引け!」


何を抜けぬけと。元はと言えばお前が原因だろう。などというヤジが飛んできた。

しかし、そんな些細な事は関係ない。俺の目的は姫様を助ける事。それが達成できれば、名声などは必要ない。

俺が言い切ると、シャルレイ王子が横に並び下がる様に手で制した。

俺はそれに従い、一歩下がると膝をついた。


「我らの目的は何だ。争う事か。それとも意地を張る事か?違うだろう。我々の目的はそうではない。国交を深める事だ。結婚なんてものは強制しても不幸しか呼びはしない。何故なら、そこに感情があるからだ。ではどうするか。私は進言する。新たなる伝統として育成行事として、騎士留学制度を。王族の騎士をお互いの国から出し合うのです。これほどの国交はないでしょう。本当に信頼しあってなくては出来ません。どうでしょうか?」


その場はシャルレイ王子の言葉と提案によって収まった。

このような事態が起きてしまった以上、直ぐに代替え案を出せなくては王子の提案が受け入れられる事となる。


それに今は戦力の温存もしておきたいのだとか。

だから俺や姫を尊重するという意見も出て、王子の提案を呑むしかなくなっていた。

小さな波がいつの間にか大きな波になってしまった所為だ。姫に女教皇がついている以上、もう打つ手がない。


そう。今回笑みを浮かべる事が出来たのは、シャルレイ・クォーラ。彼ただ一人であった。

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