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披露宴

眠りから覚める。酷く暗鬱としている眠りだ。


でも姫の事を思い出すと、億劫なほどに閉ざされた瞼を開ける事もたやすい。そんな気がした。

俺は、瞼を開けた。そこには、父と王子が居た。

2人とも顔が暗かった。


父は首を振って。王子は涙交じりの声を上げた。


「フルーレが嫁に行ってしまう。泣きながら。機械の国に対抗するためにクォーラとの絆を高める為に」


「お前が一番遅かったんだ。姫達はとっくに帰還していた。一ヶ月以上も前に」


「うそだろ」


俺は、その言葉に目を見開いて絶句した。

嫌な夢の目覚めは、嫌な報告だった。


「王が呼んでいる」


とりあえず俺は着替えを始めた。

修行空間。あの場所に半年間もの間いたらしい。

過去も影響しているから俺の場合は長いんだとか。

俺よりひどい過去を持っていれば、その分その人間は遅くなるらしい。

姫様は嫁に。前に会ったのは半年前。


女教皇もじゃあ今は何かを仕事をしているのか。

修行の場所では楽しい事なんてなかった。久しぶりに会った王子も何だか元気がなくて、俺も更に元気がなくなってしまった。


俺が生きてきた中で一番印象的なのは何だろう。

恐らく直ぐ思いつくものだろう。

今でも鮮明に思い出せるもの。それは最初の修行で食べた姫の料理だ。


それが忘れられない。どうしてだろう。ぽっかり穴が空いた気分だ。まだ出会ってからたった数ヶ月しか経ってないのに。おかしいよな。

でも。一番つらい時期に元気をもらった。大きいな。昔の出来事は。


俺は着替えを終えると部屋を出て王子と父と共に王宮へ向かう。

扉を開ける前、窓から外が見えた。外は雪が降りしきっていた。

雪だ。


窓から見える緩やかに舞い降りる白の結晶。開ければ吹き込んでくるのは凍える空気。空に広がるのは寒空。地面にはつもりに積もった白い絨毯。

そうだ。俺は二年半もの間外の世界に居たんだ。それは変わる。時間が経てば何もかも変わってしまう。当然の事じゃないか。


あぁ、姫は結婚の為に修行をしていたのか。では俺は何をするんだろう。王子も一緒だろうか。多分こうなると一緒に行動はありえないと思ってしまう。いや、きっとありえないのだろう。

そもそも一緒に行動できた事がおかしかったんだ。


あぁ、懐かしい。今通っている道だけは、二年前と何も変わらない。

それだけがホッとする。

王宮までの間。俺と王子に昔のような会話はなかった。


城に入る直前、王子とは別れた。入る場所が違うんだそうだ。

そうだろう。たかが貴族と一国の王子。スケールが違いすぎる。

戻ったら元通り。何を馬鹿な事を俺は考えていたんだ。


あぁ、もう扉の前だ。

ここは王と謁見するために使われる場所ではない。何かの催しの為に使われるんだ。

父が扉を開け、俺も倣うように続いた。


差し込んでくる光、それが眩しくて眩しくて堪らなかった。

敷き詰められた赤い絨毯。その上を歩くと拍手と歓声が聞こえてくる。

よっ!英雄。ファンになりました。様々な声だ。俺はそれに愛想笑いで返していく。


そんな中で父の話し声も聞こえる。

俺は立ち止まらずに進んで周囲を見回しているが、父は誰かと話していた。


「さすがはグレイシア卿のご子息。あんな秘蔵っ子が居たとは、隅に置けませんな」


「いえいえ、あの空間から帰還したておきながら、あの子は武器も持って帰って来れませんでしたから」


「ご謙遜なされるな。彼は眷属を二段階も強化しているではありませんか。これなら、凝縮召喚も夢ではないかもしれませんぞ」


父達の笑い声を背に進んでいくと、どんどんと眩しさが増していく。

それは、このパーティーのメイン。壇上にいる方の姿を見てからだ。

ちょうどだ。俺が入る瞬間にだ。

向こうの王子がユーモアあふれる人なのだろう。まず先に二人の姿を見せようというのだ。


俺への歓声は止み、王子達に注目が集まった。

そこにフルーレ姫も当然いる。

今、一瞬目があった。しかし、直ぐに反らされてしまった。

だから、俺も顔を伏せた。


視線を違う方向に向けると、王子には見向きもしないでこちらに愛想を向ける人が居た。

驚くと同時に納得した。

確かに手に入る方に普通は愛想を向ける。王子より、俺の方が断然可能性があるもんな。


そして、俺はそれを嬉しく思った。

俺はこんなにも嫌な奴だったのだな。クズみたいな奴だったのだな。

姫様に視線を反らされただけでふて腐れて、違う人の好意に心揺さぶられる。

虐待虐待と嘆いてはいるが、結局俺も都合のいい人間以外には興味がないのかもしれない。


本当に卑しい人間なのかもしれない。

なぁ、姫様。俺にもう力はくれないのか。

光はもうお終いか。わかってる。そんな事。


俺はそれから、上質な料理に口をつけ、周囲の人々との会話を楽しんだ。

好意を寄せてくる人にこれでもかと愛想を振る舞う。兄や他の貴族に倣ってみた。こういうのも悪くないのかもしれない。


しかし、どうしてか。姫が現れると、この楽しい気持ちが消え失せてしまった。

俺は無表情で壇上を見上げた。

あぁ、そうだ。もう始まった。


はず、初めに王が話し始めた。


「本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。貴族の皆さま。そして、国民の皆さま。やっと、念願がかないます。グローディア王国と戦国クォーラがまた深く結びつきます。我が国の姫フルーレとクォーラのバース王子が結ばれるのです。これほど喜ばしい事はない」


それからも王の言葉は続き、次に出て来たのはまだ若い人だった。

美しい容姿をしている事だけはわかる。誰だろう。

それにしても、凄まじい歓声だ。とんでもなく凄い人なのだろう。

ぼんやりと眺めていると、その人は手を軽く上げて場を制して話し始めた。


「こんにちは、シャルレイ・クォーラ。一応王子です。見えないよねー」


そんな事を言って笑っている。周囲は王子様と絶叫している。

シャルレイ。確か、雷系統の魔法では最高峰の人だったはずだ。この歓声なのも頷ける。

そんな事を考えて注意深く彼を見ていると、シャルレイはこちらを見たそれも注視するように。


「会いたかったよ。英雄フロウ。君にとても興味があったんだ。星の力を宿す君にね。あぁ、こんなところで話していても何だ。壇上に上がってきてくれ。フロウ・グレイシア」


俺は言われた通り壇上に上がった。

姫は何も言わない。それはそうだ。当然だ。


「初めまして、あぁ、膝をつく必要はない。何せ君は英雄なのだから。先日の機械兵迎撃は見事だった。あそこまで眷属を使える人間はそうはいない。たとえ力尽きたとしても、修行後は消耗しているからね。それであれだけ動けたのは賞賛に値する。君にこれを」


「ありがたき幸せ」


「汝、フロウ・グレイシアに悪魔祓いの称号と英傑の称号を。我々の危機をたった一人で救ったのだ。これくらいは当然の報酬。気にしないで受け取ってくれ。ところで私の騎士になるつもりはないかい?」


ここで王様が急ぐように割って入った。


「なりませぬぞ。シャルレイ王子。彼は我らの宝です」


「すみません。ジョークが下手で」


そう言って王と王子は笑った。

俺はしかし、このままではいけないと思い、貰った勲章を膝をついて掲げた。


「ありがたき幸せ。誠に感謝いたします」


「やらなくていいって言ったのに」


「そう言うわけには、ここは忠義として」


「そう。でも君の忠義は少し……いや、間違いないんだけどね。度合いの問題というかね」


俺は不思議そうに顔を上げた。


「まぁいいか。では、我らが英雄のフロウ・グレイㇱアに盛大なる拍手を!」


言葉と共に溢れんばかりの拍手が会場に響いた。

笑顔を張り付けて俺は壇上から立ち去る。目が合いそうになった姫を見ずに。


「待って!」


会場に響いた。可憐な声が。振り返らなくてもわかる。耳朶に響く。聞きなれた声が。

でも泣きそうで。辛そうな声が。


「あの町で。八年前に町で言った事は嘘だったの?二年前に助けてくれたいつでも守るっていうのは嘘だったの?答えてよ!言ったんなら、最後まで守りなさいよ!馬鹿フロウ!」


「何を言ってるんだ!フルーレ!フロウもそんな事を言われたら困るだろう」


今、姫は何と言った。俺に求めたのか。助けてくれと。

約束を守れと。

俺は目を見開きながら振り返った。そこには、大粒の涙を流しながら、悔しそうな表情を浮かべるフルーレ姫の姿があった。


それからの事は……何だろう。

諭されたような気がする。

でも自分に必要な事しか頭には入って来なかった。



「助けて。フロウ」


姫の声が心の中に響いて。俺は気が付くと動いていた。

勝手に体が動いたんだ。


「フロウ君!正気に戻るんだ!」


「手伝うよ!フロウ!」


女教皇とシャーロット。

俺は女教皇の方に頷いた。

光が見える。一緒にいてくれる人と。まだ一緒にいたいから。


俺は懸命に光を掴もうと、白と赤の炎を全身に纏った。

王様と父様。ごめん。

でもあそこはあまりにも暗かった。


自分勝手と罵られても投獄されてもいい。

姫が泣いて助けを求めてくるのなら。俺はその場に行こう。

気が済むまで助けよう。


何だか、姫にはそうさせる力があるから。

楽しい時間だったから。あの短い時間が。

食事のお礼だってできていないんだよ。


今助けます。姫様。

フロウ・グレイシアの名前にかけて。

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