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白き炎と白き骨

俺達はこの数か月間城から出ていない。ひたすらに訓練を積んでいた。

何かがおかしい。それは王子以外の三人が感じていた。

そう。俺、王子、姫、女教皇に過酷な訓練をそれも、この四人をチームとして扱っている事に不信感が募りつつあった。


何かが始まっているのは間違いない。

だが、その事を聞くにしてもあまり意味はない。何故なら強いられているのが訓練だからだ。


訓練を強いているのなら、力が必要という事。だから俺達はギリギリまで専念すべきなんだ。

俺はその事を姫に伝えた。


何故なら聞いてきたから。


「ちゃんと考えていたのだな。フロウは。少し見直したぞ。その考えで間違いはないと思う。今回は無心で訓練しているカルディアを見習った方がいいかもしれないな」


「今回は賢い王子ですかね?」


「馬鹿を言うな」


姫はクスって笑うと訓練に戻っていった。

それから数分シャーロットさんが扉から今俺達がいる一室を開けた。

部屋は訓練用のものだ。


打撃用サンドバックに。魔道機兵。魔力コントロールの器具。様々な物がこの広々とした空間に置かれている。

そんな部屋の中で師であるシャーロットは手を大きく打ち鳴らして集合をかける。


言われたメニューをこなしていた面々は直ぐに集まった。

集まった俺達にシャーロットはこう言った。


「これから、架空空間に入って修行をしていただきます。ついてきてください」


彼女は俺達を先導して前を歩く。

部屋を出てから、その場所に到着するまでにそう時間はかからなかった。

何故なら、その装置は王宮にもあるからだ。

とある一室に到着する。


そこには、よくわからない機械が部屋の各所にあった。研究員の数も十人以上いて、広々としている。

俺が興味深そうに眺めていると、シャーロットは言う。


「凄いだろう。この部屋はまるで機械仕掛けの国みたいって、そう思うかい。フロウ君」


「えっ?いえ……」


「でも間違ってないんだ。これらの機械は奪ったものだからね。いつも我々と足並みをそろえて戦ってくれる異能を宿す者の国。戦国クォーラ。彼らとの共同制作訓練装置なんだ」


「訓練装置?」


疑問を呈したのは、王子だった。


「えぇ、架空空間を利用した修行。これを使えば早くに強くなることが出来ます。相応の危険は伴いますがね。奴らはこれを作ろうとしていました。しかし、出来なかった。奴らは魔力を持たない人間だから。異能の力なくして架空世界への行き来は出来ないという事です」


さて、本格的な説明を始めます。

真剣な顔を作ったが、シャーロットはそれを直ぐに崩した。


「とは言っても難しい事ではありません。潜り強くなってくればいい。単純です。ただ、自分の深い欲求などが色濃く出たりするので気をつけてください。架空空間は、個人の記憶や感情によって作られるものです。ですから具体的なアドバイスは無いのです。この修行を終えて帰還すれば間違いなく力は上がっている事でしょう。では、挨拶が終わり次第そこにある台座にベットに腰を下ろしてください。必要な装置をつけますので。」


はい。説明は終わり。幸運を祈ります。

ヘリオスの加護があらん事を。シャーロットはそう言った。


その言葉を聞くなり、皆それぞれ架空空間に行くためにベッドへと向かう。

チラリと周りを見るとみんな真剣そのものだった。

ヒシヒシと感じているのだろう。修行の後に重要な役割を与えられることを。

ここにいる四人は、それをわかっている。


俺達は頭・腕・足と専用器具をつけられて目を閉じた。

次の瞬間に脳が揺れるような感覚に襲われる。


俺は飛ばされた。架空世界へと。

気が付くと倒れていた。気候は少し肌寒い程度で今は夕暮れ時のようだ。

俺が横になっていたのは、ひび割れた地面だった。辺りにまともな建物はなく、全て半壊している。

ここはスラム街だろうか。何なんだろうここは。


起き上がって見渡してみる。屋根がなくかけた建物と茜色の空しか見えない。

俺は見渡せるように建物の上に登ろうと考えた。かけた家を登っていく。途中ボロボロと壁が崩れ落ち、崩れないか心配だったが、とりあえずは大丈夫だった。

周囲を見渡してみても見えるのは広がる廃墟だけだった。反対側を見てみよう。


俺は後ろを振り返った。そこには大きなドーム状の闘技場らしき場所があった。

とりあえずはあそこに向かおう。そう思った。

俺は降りる為に手を動かす。動かそうとした。しかしできなかった。何かに手を固定されていたんだ。いつの間にか。


「……」


何かに差されたようだ。ズブリと手の甲に刃物が突き刺さっている。しかも両腕だ。

俺はその刃物を掴んだ。血が流れている。しかし、痛くなかった。だからそれが出来た。

そのまま刃物を引きづり出す。すると胴の長いいくつもの足の生えた生き物がいた。そいつは頭の部分に鋭い刃を生やしており、全身が白く炎を発していた。俺の手の平を貫いたのは頭部の刃だった。


それを持ち上げると、頭の中に何かが響いた。


「感情に従え。お前は今何をしたい」


何だろう。この生き物を見ていると、俺は何だか冷たい気持ちになってくる。

どうしたい。どうしたいんだ。冷たい気持ちと同時に迫害された記憶が蘇る。一瞬だけ。

その時、衝動が襲った。

気が付くと、俺は得体の知れない生き物に刃を立ててむさぼり着いていた。


いや、正確には噛み千切り引き裂いた。

もう先ほどの足が沢山ある生き物はピクリとも動かない。それどころか消滅していた。

後は刃を抜くだけか、そう思って手を見ると、歯は手の中に吸い込まれていっていた。

この生物。何に似ているのだろう。中身がなくひたすらに硬かったこの生き物は。

そうだ。骨だ。白い骨だ。

――ドクンッ。鼓動が早くなる。俺の手に入り込んだ骨は手の甲に一筋の白い線を残し、そこから白炎を絶えず発していた。


口からも一度小さく炎が噴き出された。

俺は歩き出した。闘技場までの道のりを。それまでにどれだけの骨を食らったのだろうか。正直覚えていない。


闘技場に着く頃には俺は腕と足と頭に骨の鎧を纏っていた。絶えず白い炎が噴き出されている。

その上、角までもが生えていた。角が生えだしたのは、確か悪魔のような骨を食った時だっただろうか。

今度はどの骨を食べるのだろう。


そして、どの屈辱の記憶を呼び覚ますのだろう。

闘技場に着くまで、俺は迫害の記憶を延々と見せられ続けていた。

もううんざりだ。何もかも苦しい。何もかも辛い。

だから、この闘技場までどれくらいの時間かかったのか覚えていない。無限にも思える。

それほどまでに長かった。


俺は目の前に立ちふさがるもの全てを破壊していった。扉から入るのではなく壁を悉く破壊していったのだ。

たどり着いたのは、ドーム状の闘技場の中心部だった。ここだけ自棄に広いから間違いない。

目の前には、悠然とたたずむ龍がいる。骨の龍。白き炎を纏った龍だ。

さびれて今にも崩壊しそうな闘技場の真ん中でそいつは寝ていた。


今は辺りが暗い。真っ暗だ。まるで感情を失い光が塗りつぶされたように思わせる黒。

その中で龍は爛々と輝いていた。白くまるで希望の様に。

だからだろうか。欲求が止まらない。光が欲しいと。抜けしたいと心から願う欲求が。

俺は一気に距離を詰めた。一度地面を蹴るだけでとんでもない速度が出る。

強くなったのだろうか。大した実感もなければ興味もないのでわからない。

ただ、今は目の前の龍を食らいたい。俺はそう思った。


しかし、龍も反応しないわけではない。

奴は尻尾を拘束で動かして俺を吹き飛ばそうと試みた。

おそらくはそれで十分だと思ったのだろう。

衝撃音が周囲に響いた。


「……悪魔憑きを終えた者か」


龍は振り向いてそれだけ言った。

俺は頷くでもなく目をすっと細めて振り下ろされた尻尾を引きちぎった。巨大化させた骨の鎧を纏った白と赤の炎を宿す腕で。


一瞬。俺は一蹴りで振り向いた龍の頭に乗っていた。

感情も何もなく、見下ろして、一瞬の内に竜の頭部に腕を突き入れた。

そのまま中にある掴んだものを引きづり出すと、俺はそれを食らった。

口の端から血のような物が滴り落ちる。


次の瞬間、俺の全身は骨の鎧に覆われていた。

酷い気分だ。骸骨型の鎧の隙間から赤黒い炎が溢れ、口からは赤と白の両方の炎が漏れる。

この姿になった一拍の間に龍は姿を消した。


しばらくそのまま呆然とする。あまりにも憎悪が膨れ上がりすぎて制御が出来なくなっていた。

目的が定まるのを俺は待っているのだろうか。

そんな中、一瞬だけ姫様の姿が浮かんだ。光が差し込んだように見えた。

しかし、姫様は顔を歪ませた。次に涙を流した。


笑顔から突然変わった。何故?

また嫌な気持ちがグルグルと回る。

その感情に反応したのだろうか。目の前に人影が浮かんだ。

一人の陰ではない。顔のない無数の人間だ。


どんどんと表情のなかった影はくっきりと形を作っていく。

侮蔑と嘲笑。そして嫌悪する人の形へと。

そいつは言った。心の底から侮蔑するように。


『卑しいクズが』


『お前は虫以下だ』


『何でまだいるんだ。お前何て生まれなければよかったのに』


これは聞いた瞬間。目の力が抜けていくのがわかる。

一部だ。これは、虐待されていた時の記憶の一部だ。

影の集団。その中から一際黒い霧を深く纏った者が前へと出だ。


周りの人間をかき分けて。

そいつは、真ん中に立ってこう言った。


『お前みたいな醜い者は、本当に産まなければよかった』


俺は目を見開いてこう言った。


「母さん」


そうだ。そうか。俺は今でさえも必要とされていない。

心を掴まれている。胸に視線を向ける。

俺の胸には何かが生えていた。腕だ。腕が俺の体内方突き出ている。


手の平は恐らく俺の体内だろう。

呆然とその様を見ていると、腕が囁いてきた。


『欲求に従え。全ての欲求に』


「あぁ、俺は、殺したい。殺したくてたまんないんだ。誰もかれも、俺を迫害するのだから」


俺は何も言う事無く腕輪の光を発させて巨人となった。

腕輪を起点として溶岩の巨人を作り出し、今回はその上に骨が張り巡らされた。

白く熱を発する白炎の骨が。頭部・胸部・腕・足。全てを骸骨状に張り巡らされて。


骨の隙間から、溶岩の熱気が漏れている。

あぁ、何時もより早く俺は動ける。

気が付けば白炎と赤炎の腕を影の方向に振り下ろしていた。


血しぶきが舞う。やけにリアルな物が。

それを最後にこの世界は終幕を迎えた。

気が付くと、俺は現実世界に戻り施設を破壊していた。


久しぶりの外の空気に晒されて、俺はある気配に気づいた。

後ろだ。後ろに何かがいる。俺が最も嫌いな物を向けている。

敵意だ。敵意敵意敵意敵意。

倒さなくてはならない。俺は立ち向かわなくてはならない。


もう。昔とは違うんだ。後ろを振り向いた。周囲には悲鳴が広がっている。

逃げ惑う人々がいる。前回とは違う。今回はちゃんと周りが見えているからわかる。


人の悲しみと辛みが渦巻いている。そして、その中心にあいつがいる。

敵意をむき出してこちらを見据えている機械の巨人兵。

白い装甲。騎士のような装いのその姿は、感嘆するほどに大きく。たかが機械兵のくせに気品にあふれている。


装甲には傷はなく、所々銀色の装飾が施されている。

腰辺りには剣の装備があり、手には黒塗りの銃を持っていた。

俺は一気に駆け出した。


高速だ。隕石よりも速い動き。それに対して、機械兵は一歩遅れて後ろに下がろうとする。

唸るエンジン音。背中についているエンジンの推力方向が切り替わり、離脱へと向けている。

攻勢に出るのは、難しいと判断したのだろう。


大きな銃口をこちらに向けて弾幕を張ってくる。とんでもない数だ。

勢いよく着弾していく。寸前で俺が立ち上げた豪炎の壁に。俺はその壁を悠々と飛び越えて天から機械兵に突っ込んだ。上から降かかる溶岩。速度は先ほどよりも上だった。だからか、今度は避けきれずに機械兵は俺に片腕をもがれていた。


俺はすぐさま体を半回転させて機械兵の頭部を飛ばして、今度はもう片方の腕を引きちぎった。すると、機械兵の背中から小さな箱が飛び出してくる。

俺はそれを掴もうとしたが、いつの間にかに接近していたもう一機の機械兵の刃物に阻まれる。


こいつは黒だった。

黒の機械兵はそのまま流れるような鮮やかな動作で箱を回収して空高くを飛行してこの場を去った。

俺の意識があったのは、そこまでだった。




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