覚醒
目が覚めると、俺はまず一番に腕輪をしている事に気が付いた。
これは何だろう。確か俺はこんな物はしていなかったはずだ。外そうとする。でも外れない。
綺麗な腕輪だ。金色の宝石がちりばめられている。中心には一際デカい宝石があり、そこには六芒星が描かれている。
そうだ。確か、この部屋には鏡がある。それもベッドから横を見ればすぐ見えるような鏡が。
見てみると、同じだった。目と同じ六芒星が腕輪の中心の宝石に浮き上がっていた。
これについては今考えてもわからないだろう。後で誰かに聞こう。
そう思って俺は辺りを見回した。
室内には沢山の人がいた。
姉、王子、姫、メイドらしき人。みんなで看病してくれたのであろうことがわかる。
兄と両親がいないにしても大げさだな。ここまでしなくてもいいのに。というか働いている組以外みんないるのか。心配しすぎではないだろうか。
思わず俺は小さくと笑ってしまった。
すると、その音で起きたのか、みんな一斉に身を起こした。
「なんかこう。ガバッと……すごい勢いですね」
俺が驚いていると、昨日一時的に目覚めた時と同様に姉が抱き付いてきた。
「どんだけ泣くんですか」
「だって」
昨日同様に泣きまくっている姉を離して俺は王子と姫にお礼を言った。
「ありがとうございます」
「よい。災難だったな。しかし、困難に打ち勝って魔力が大幅に上がった。誇ってよいと思うぞ」
姫はにこやかに言った。
可愛い。純粋にそう思う。薄ピンクの髪に透き通る青い目。ロングヘアーに宝石がちりばめられたカチューシャ。ドレスなんかを着ている。
可憐と言えばいいのだろうか。儚く風が吹かれただけで飛ばされそうな錯覚をつまり守ってあげたくなるように思わせる彼女の姿は姫にふさわしいものだった。
一昨日の王子を連れて行く時は顔がよく見えなかったし、その上、仏頂面みたいだったからわからなかった。けど、ほほ笑むだけどこんなに印象が変わるのだろうか。
容姿って狡い。そんな事を思いながら俺は照れるように頭を掻いた。
「いや、どうも」
こうなってくると、必ずと言っていいほど邪魔が入るのではないだろうか。
そんな予感を感じると同時に王子がポンと肩を叩いた。
「ダンディよ息災であったな。無事で何よりだ。これから共に学ぶ我らマブダチ。仲良くしようぞ」
王子がそんな事を言っている。残念だ。とても残念だ。やはり人間は現金なんだ。だから王子の言葉が今の心ときめく少年の心に全く届きません。
俺の返事は少しそっけないような感じになってしまった。
「あっ、そっすね」
「あまりにもそっけないぞ。フルーレの時の弾ける青春を我にも向けてみろ。ほれほれ、顔が近くないとダメか?ん?」
顔を近づける王子を俺はやや強く押し返した。
突き飛ばしたいが突き飛ばせない。これが位の差か
「男にはトキメかないでしょう。そりゃあ」
「ん?それもそうだ。失敬。我はヘマをこいたようだ」
そう言って王子は豪快に笑った。
話が通じるところが彼のいいところかもしれない。本当に通じているかどうかは疑問だが。
そんな王子に苦笑していると、いつの間にか隣へと来ていた姫がぼそりと呟いた。
「だから代わりに馬鹿王子と呼ぶといい」
「そうそう。そう言ってくれたまえ。んん?我はそんな事は一言も言ってないぞ!」
「私が許可します」
力強く姫が頷いた。いいんですか。王族の品位が損なわれてしまうのでは?
俺がヤバいのではないかと視線を送らせると姫はサムズアップをした。
「公の場でなければ大丈夫」
なるほどそういう事か。
正直気が乗らない気がしなくもないが俺はとりあえず呼んでみた。
「だそうですよ。馬鹿王子」
「んん!?そうか。信頼はここから生まれるのか。構わんぞ馬鹿貴族」
「えぇ、喜ばれてる」
「構わん。そして、フルーレの事は馬鹿な姫と呼ぶといい!あぁ、公の場でも」
「いかんでしょ」
恐る恐る姫の方を向いてみると、怒ってる。何やら不穏な空気を発している。
というか青筋立ててるんですけど……。
俺は神妙に王子に向き直った。
「フルーレ姫に何て事を言うんだ馬鹿王子。慎みなさい」
「あれ?我の時と大分扱いが違うのは気のせいか」
「可哀想に疲れてるのね」
「そうですね。祈りを捧げましょう」
「「王子が賢くなりますように」」
何故かシンクロしてしまった。というかこんな事で誤魔化せるのだろうか。
恐る恐る皇子の方を見てみると、少し笑顔が戻っていた。
「おぉ!何だか賢くなった気が」
そんなわけないんだけどね。ないんだけどね。
「それでいいのか。王子よ」
それからくだらない雑談が続く。区切りの良いところまで行くと、それまで静かにしていた姉が席を立った。
「そろそろね」
その言葉と共に王子と姫とは、いったん別れる事となり、姉に連れられてとある場所へと赴いた。
自室を去る前、不意に姫が俺を呼び止めた。
「あの。どこかで昔会いましたか?」
突然の問いかけ。どうだろう。俺は考えを巡らせる。
そんな俺に姫は焦れたのか質問を追加した。
「では、私の顔に見覚えは?」
でもどれだけ考えても思い出せなかった。
「いや、わからない。すみません」
そう言うと、姫は悲しそうな顔をして次の瞬間に曖昧な笑顔を残して去っていった。
最後に「フルーレです。これからよろしく」と言っていた。
何だか、それがとても印象的で俺の頭から離れない。しかし、このままではいけない。身分の違いもあるし、変な考えは捨てなくては。
やっとの思いで考えを振り払うと、俺は気になっている事を姉に聞いた。右腕にハメられていた腕輪の事を。それについて姉はこう言った。
「それはもう直ぐわかるわ。正直なところ私にもわからないの」
たどり着いたのは、この前訪れた研究所だった。
そこには、父、母、兄、アリア夫妻、研究員、アルカーク神父、それから見た事もない女性がいた。彼女は背中に棺桶を背負っている。どことなく危ない雰囲気があるなと視線を向けると、目があった瞬間に鳥肌が立った。あぁ、危険なタイプな人なのかもしれない。
俺は身震いをして視線を反らすと、父達の元へと向かっていった。
「あの。今から何をするのですか」
不安げに見つめる俺に父はこう言った。
「すまんな。また検査だ。この前、お前はある儀式に無理やりかけられて、そして、力が覚醒した。それを検査する必要があるんだ」
俺は言われるがままに台座に乗せられた。前に乗せられた時とやる事は変わらなかった。ただそこに居ればいいだけだ。
しばらくそこでじっとしていると、検査が始まった。
またレーザーを当てられる。しかし、今回はそれだけではなかった。
頭と腕辺りに何かをつけられた。次の瞬間、調べられている感触が伝わり、何かを流し込まれた。
その瞬間に俺の体は跳ね上がる。
何だろう。よくわからない。でも、とにかく熱い。
「ウオォォォォォぉぉぉぉ!」
気が付くと俺は耐えきれずに叫んでいた。
腕輪を中心として溶岩やら何やらが絶えず溢れ出し、瞳が赤く染まり、岩が俺の体を包んでいく。
腕が生まれ、足が生まれる。胴体から首が降り、そこからゴツゴツとした頭が出来上がる。
そして、何時しか俺は岩の巨人のような姿になり、研究所を破壊していた。
破壊する前に聞こえて来た会話はこんなものだった。
「異常な数値です!これは。彼は一体何者なんですか!?」
「馬鹿野郎!息子を化け物みたいに言うんじゃねぇ!俺の息子だ。それよりアルカーク!お前また何かしやがったな!」
槍が振るわれる音がした。
しかし、弾かれたようだ。
「落ち着いてくださいグレイシア卿。もう直わかりますよ。彼の価値が。天を揺るがす異界の巨人の姿が!」
彼は狂気のよう笑った。
そして、言う。
「シャーロット。準備をしておいてください」
「わかっています」
棺桶の女性は返事をすると、構えた。
次の瞬間、俺の意識は薄くなり、辛うじて周囲を確認できる程度の状態になっていた。
そう。見えるんだ。巨人の目になって見下ろす町の風景が。
俺の姿を見て下の方にいるアルカークが声を上げた。
「素晴らしい!やはり私の目に狂いはなかった!六芒星を右目に宿す星の巨人!彼はヴェッターを支配するものだ!天候を天から撃ち下す一撃は何よりも強烈なり!」
どうやら歓喜している様だ。
しかし、俺にはそんな事は関係なく。どうしようもない衝動に囚われていて、それを抑えようとしていた。
しかし、それは無駄な努力だった。次の瞬間。俺の体は、燃え上がる溶岩の肉体は高速で動いていた。
俺の意思など完全に無視して。
破砕音が鳴り響く。打ち砕いたのはアルカークが居た場所で手は地面にめり込んでいる。
そのまま手を引き抜くと、沢山の血がこべりついていた。
どうなるんだ。俺はこのまま全てを破壊しつくしてしまうのだろうか。
そんな悲観的な考えを巡らせていると、下の方の空間が歪んでその歪みから誰かが出てきた。
彼女は知っている。見た事がある。この国の女王だ。
アルメニア・グローディア。最強の盾を持つ女王。
あぁ、俺は殺されるのだろうか。そう思っている間にも下では何やら会話が続いていた。
「状況はわかっています。お二人とも神器と召喚の準備は出来ていますね。破魔とは、自らに宿る眷属の具現化。いつもは使用を禁止していますが、本当の戦いとなれば話は別です。皆さま。この時を持って使用権限を解放します。彼に正気に戻ってもらうのです。アルカークの所為で死ぬのは本当にかわいそうですから。出来ますね。リカルド。シャーロット」
「「はい!」」
2人はそれぞれ唱え始めた。
しかし、アルメニア王女だけは前に出る。
俺はそれに反応してしまう。
高速で再び拳を放つ。
身体は赤黒い熱風に覆われていて、それは拳も同様だった。どうやら風の鎧を纏っているようでそれがパンチの威力を上げていた。その一撃は重いのか。いや、重いのだろう。地面への一撃が物語っている。
この一撃を女王には避けてもらいたい。
そう思ったが、空中で轟音を奏でるその一撃を王女は避けるでもなく受け止めた。そう。受け止めたんだ。
「ぐっ、まだ覚醒したばかりだというのにこの威力。本当にとんでもありませんね。星の巨人。その巨体から放たれる一撃は隕石の数十倍の威力を誇ると言われていますが、どうやら間違いではないようですね。私のアルテミスの盾にこうも負荷がかかるとは。召喚してから来て正解でした。しかし、まだ段階がありますの!」
そう言ってアルメニア王女は俺を吹き飛ばそうと、光の衝撃波を放った。
しかし、俺の体は少し後方に飛ばされるだけだった。
赤黒い岩の肉体には傷一つ付いていない。
しかし、その隙だけで十分だったようだ。
背後から気配がした。
「「この身に宿る神よ!暴れ狂う巨人の激情を情愛を持って抑えたまえ!」」
2人は召喚したケルベロスとフェンリルをこちらに飛ばして来た。それが俺の巨人の体に牙を立てると、光と共に俺の体は元の形へと戻っていった。
横たわる俺の手首にはしっかりと腕輪が輝きを放っていた。
「ご苦労様です。リカルドにシャーロット。この子にはこの眼帯をつけてもらいましょう。成長するまで破魔の力はお預けです」
女王が二人と話している。
だが、俺にはそれよりも気になる事があった。
何だろう。聞き覚えのあるような。そんな声が響くんだ。
ぼんやりとした意識の中。聞こえたんだ。少女の悲鳴が。それは聞き覚えのある声で王子の声もあったから直ぐにわかった。
姫の声だ。
それから少しすると、研究所の近くから漆黒の柱が上がる。
その近くから研究員がこちらに駆けてくるようだ。何やら女王様と話している。
最初に声を上げたのは、女王ではなく棺桶を背負ったシャーロットだった。
「姫が攫われた!?」
「何て事を。私は今すぐ追いかけます。皆さんは先走った王子の方を頼みます」
続いて聞こえて来たのは女王様だ。酷く狼狽しているように見える。当然だ。自分の娘が攫われたのだから。
しかし、急ごうとする女王の行く手をシャーロットが遮った。
「お待ちください女王様!目的は交渉でしょう。不祥事が表に出てしまった以上何かが必要だ。姫を人質に取られている以上いくら女王様でも冷静さを保つのは難しい。それに単体で行かすわけにはいきません。女王様はまず王子の救出をしてください」
「貴方達は教会の人間です。教会の人間は魔力を調べ上げられて縛られているから教皇の前で好き勝手は出来ないはずです」
「ご安心を。いるじゃありませんか。ここに白馬ならぬ巨人の貴公子が」
そう言ってシャーロットは俺に近づいた。
「我、愚者を打ち滅ぼす為に巨人との一時的な契約を結ぶ。彼の意志力に働きかけ、独立の補助を。我が知恵を持って彼を愚者の元へ導きたまえ。転移の所業を今ここに」
唱え終わると、シャーロットは手首を一気に切り裂いて俺に血を浴びせた。
またこれか。ドロついた血だ。鉄臭くて嫌になってくる。
最後にうっすらと見えたのは、彼女が印のルーンを結んでいるところだった。
兵・闘・陣・在。確かこうだったと思う。
これは呪術の類だ。昔、虐待を受ける前に父から教わった。絶対に使うなという禁術。
人を操る術だ。スペックの高い人間との連携では使えるらしいが、俺はどうなんだ。父は文句を言っていなかったが、俺はスペックが高いのだろうか。
俺は気が付いたら洞窟のような気味の悪い下水道にいた。
下水を挟んで道があり、埃やゴミなんかがある。粘り気のある液体や水が辺りで滴っていた。
この臭い下水道が敵に一番近いのだろう。わざわざ転移させたのだから恐らくそうだ。呪術を発動しているシャーロットを父上が守り、女王様が王子を救出に行っているのだろう。
あぁ、本当に足音と会話が聞こえる。口を閉じられているのだろうか。布から漏れるくぐもった声までまる聞こえだ。
あれ?そういえばシャーロットは敵じゃなかったか。いや、でも昔父上が従者として連れていたような。
ヘリオスの教会も複雑なのだな。
そんな事を思っていると、身体が勝手に動いた。
俺はいつの間にか。闘と在の印を結んでいた。
簡易式の強化術式だ。
その後一気に駆ける。本当に俺は操られている様だ。それだけじゃない。高速で動いている中でどう動けばいいのかどんどんわかってくる。
彼女のシャーロットの記憶が流れ込んできているんだ。凄い、。戦闘経験が半端じゃないのがわかる。
曲がり角を曲がり、見えて来た三人の裏切者を殴打で打ち負かした後、俺の口は勝手に動いていた。
「我、愚者を制裁する正義の者なり、光の名において力を昇華し制御する。太陽の所業!巨人になりて、全ての邪気を滅ぼしたまえ!」
破砕音が辺りに響いた。前回と同様に体が燃えるように熱くなり、次第に腕輪から巨人の体が形成されていく。岩の巨体は直ぐにでも完成するだろう。それにしても。ここで巨人になるのか。姫も押しつぶされちゃうんじゃ……と思っていたが、杞憂だったようだ。
下水道を破壊し巨人の体を露出した時、ちゃんと姫は手の中に納まっていた。しかし、手の周りには血の感触がある。べっとりと、こべりついている。
生々しい殺しだった。
今回はサポートのおかげで意識を保てているから感触までわかる。
あのシャーロットは何者なんだろう。
凄腕なのは間違いない。何せ俺の体をコントロールして、その上姫に血を見せない工夫までしたんだ。
俺は見た。巨人になる直前に俺の腕を突き出して溶岩を作り出し、溶岩で彼女の周囲にブラックボックスを作り密封し、その上で皆殺しにして救出したのを。しかも、ブラックボックスの際には敵が姫を引き寄せる前に人体をバラバラにさせていた。
残酷だけど、それよりも感心させられた。
これで殺しに対する罪悪感が浮かばない俺はもしかしたら長期間の虐待で人格が曲がったのかもしれない?とか考えるが、相手が悪人だったからだけだろう。
そんな事を考えていると、シャーロットの声が聞こえて来た。
『女王陛下!聞こえますか。フロウ・グレイシアがフルーレ姫を確保。直ちに現場にて救出してください!』
あぁ、声に余裕がある。恐ろしいな。
あれ?そういえば、姫はまだブラックボックスの中か。さぞ怯えているのだろうな。
俺はまだコントロール下にある巨人の肉体にブラックボックスを吸収させた。
姫は溶岩の中でも溶けてはいなかった。なるほど。コントロールが出来るようだ。
手の平に座り込む姫。少し情けない顔をしている。
救出はした。だが、嘆かわしい事に彼女の瞳は未だに不安に揺れている。
だから俺は巨人の顔から少し体を外へと出した。
「よっ。アホ面だね。馬鹿な姫よ。」
「なっ!貴方は……覚醒したのですね」
馬鹿な姫と言われるのは嫌だそうだ。でも人間に会った事で彼女の表情はほぐれていた。
そんな彼女を見てか、疲労から来る変なテンションの所為かわからないが、俺は調子に乗ってしまった。
「今。いい顔をしている。生きてるって感じ。いいよね。この感じ。辛い事があるとさ。陰鬱として、もう死んでるんじゃないって思っちゃう。俺もそうだったからさ。でも俺も姫も今は光が見えてるじゃない。これからだよ。挫けずに頑張って生きよう。何かあったら、俺がまた守ってあげるからさ」
自分でも偉そうだとは思う。もう既に意識が飛んで行ってしまいそうなのに、こんな事を言うのだから。
大それたことを言ってしまった。これは見栄だろうか。今回は俺の力じゃないというのに。
でもいつか国の為に活躍するから、その前借りのうぬぼれ行為って事でどうか目を瞑ってほしい。
もう俺は自分が何をしているのかわからない。でも一つだけわかる。これ落ちる……意識が保てない。
俺が力なく意識を失うのと、女王がここに来るのは同時だったそうな。
◆◆◆◆
私、フルーレ・グローディアには忘れられない人がいた。
強くって強くって貴族の息子なのに機関坊で町で喧嘩ばっかしている少年。
かくいう私も抜け出しっ子の家出好きだったけど、彼はそれより多いいのだろうなと思った。
ある時にね。救ってもらったの。町の子供たちに絡まれている時に颯爽と現れて。
あれは、とても面白かった。彼を見た瞬間に悪党じみた子供達が逃げていくんだもの。
言っちゃいけないのかもしれないけど傑作でした。
そして、彼は情けなく泣きべそをかいている私に言ったわ。
名前は?どうしてここに?
家出?そうか。……なぁ、助けてあげたって事は恩があるよな。恩は返さないといけない。
恩返し代わりに家出しないで大人しく強くなるんだぞ。俺との約束。
それから指切りをして別れた。私は彼のいいつけを守った。
6年間彼を忘れることなく修行に励んでいたの。強くなるために一生懸命。
でもね。六年後にやっと会えた彼は、かつての輝きも覇気もなかったわ。
人間て変わるのね。でも昔の事があるから自然と胸は熱くなる。
どうにももやもやしていたの。
そんな彼が、力に目覚めて覚醒したの。
赤黒い巨人。昔の彼を彷彿とさせたわ。
でも怖かった。彼がそれをコントロール出来ていなかったから。
その覚醒騒動で神父さんは死んで、彼を抑え込む騒動の最中に私は攫われた。生きた心地がしなかった。多分、攫われたあの時の私は死んでいたのだと思う。でも、彼がまた救い出してくれた。私に光をくれた。
その時に思ったの。彼は、昔からこれっぽっちも変わっていないって。
光り輝く私の王子。
でも、気になる事が一つだけあった。
多分彼は私の事を覚えていない。
それだけが何か、ムカつく。
フロウ・グレイシアの馬鹿野郎