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ヘリオスの教会


王宮での暮らし一日目。

今日。俺はメイドさんに起こされて。王子や姫と共にルーンを学ぶ。その予定だった。

しかし、それは今大きく狂おうとしている。


今、俺はベッドで寝ている。意識は少しある。目は開けておらず自分の体から幽体だけが離脱している状態だ。

目の前には沢山の人が居た。


俺の家族はもちろん王子や姫までもがいる。彼らは何やら騒いでいた。

一つ特徴的な事を上げれば俺の横に赤黒い石が置いてある事だろうか。


「誰だ。誰がこんな事を」


父が嘆く。

その横には一人の男がいた。神聖なる白衣に身を包んだ男は父の嘆きにピクリとも反応せずに俺の横にある石をマジマジと見つめている。

彼は見た事がある。


この国のもう一つの勢力ヘリオスの教会。光と太陽の教え。

そんな事を言っていた。確か父もその教会の一員だ。悪魔祓いは皆ヘリオスに所属しなくてはならないから。


王直属の機関でもある。最近は奇抜な行動を独自で行う事でも有名である。当然その際に反感なども買っている。

そんな彼は無表情で言う。


「あぁ、確認するまでもなくヘリオスの者ですな。試しているのでしょう。彼の素養を」


「白々しいぞアルカーク。身勝手は許さんぞ。この子は私の息子だ。それを理解しての行動か」


「えぇ、最高司祭の意思でもあります。いけませんなぁ。彼は隕石。天気を支配するヴェッターの支配者になりえる才児。それなのにルーンに染め上げようというのですから。いえ、使えても問題ありませんよ。しかし、天を貫き全ての天候を意のままに打ち負かす隕石の、破魔の力を疎かにするのがいけないのです」


あれ、父上の雰囲気がいつもと違う。

そう思った次の瞬間、父は光を纏う槍を出現させて神父の喉元に突き付けていた。


「やはり貴様か。調子に乗るなよアルカーク。言ったはずだ。この子は私の息子だと」


「そんな事は承知だ。しかし、君が悪魔に現を抜かしたのも事実。本来なら異端審問にかけられるところをこれで手打ちにするのです。むしろ感謝してほしい。さぁ、見守りましょう。どちらにしろ悪魔憑きの儀式はもう止められないのですから」


沈黙が流れた。嫌に長い沈黙だ。これがどういう事をさしているのか、みんなわかっているのだ。


「普通の人間。そして、一流程度の破魔の術者では到底耐えられない悪魔憑きの儀式。はたして彼は耐えられるだろうか」


神父は楽しそうに言った。

まるで結果がわかっているように。

それを見て父は歯噛みした。


そして、神父が愛おしそうに俺の頭をなでた次の瞬間に俺の意識は暗闇へと吸い込まれた。


ここはどこだ。


どうして俺は血を浴びているのだろう。

どうして周囲の人がすり潰されて俺はその血を浴びるのだろう。

俺。フロウ・グレイシアは、神が殺した人間の血を浴びていた。


そして、ここがどこだかがわかる。ここはアルムヘイムという場所だ。

光り輝く神聖な大地の中心で忌々しい闇の儀式が行われている。俺はその中心で十字架に張り付けられている様だ。


あぁ、何で俺のところだけ赤黒い空気に満ちているんだ。臭い。鉄の匂いが充満している。


向こうは、果てのない景色はあんなに光り輝いているのにこの周辺だけが暗い。まただ。あの辛い空間が思い出される。

思い出し、苦痛に喘ぎながら俺は人間から搾り取った血を浴びていた。

今気づいたけど、俺は光を帯びていた。体。特に強いのは右目だ。しかし、身体の光が小さくなっていき。光り輝く右目が黒ずんでいく。


魔力が小さくなり。瞼が閉じられていく。

代わりに瞼の奥から少しだけ見えるようになった。

本来見えるはずの鮮やかな景色は映らず、ぼんやりとした白と黒の世界しか見えなくなった。


何も見えないよりはよかった。

それでも状況は変わらない。


普通の水よりも重くて。少し粘りがあって。絡みついてくる。

酷く鉄臭くて。鼻が曲がりそうなほどの悪臭。

そこには、恐怖しかなかった。


恐怖の中、俺は一つの映像を見た。

目の前に国の風景が映った。人が暮らしている。

この国。アルムヘイムでは選択を迫られているようだ。

人間を殺して生きるか。


神に抗って人間を生かす方を選択するか。

思えばこれは、生と死の分かれ道だった。

あぁ、そうか。ここの人たちは人間じゃない。エルフという奴だ。


彼らがどういう感情を人間に抱いていたかはわからない。

しかし、最も神に近い場所に住みながら、それでも尚、心優しい彼らは人間の生を望んだ。


そして、その結果は三日後に訪れた。

白い鎧を身に纏った軍勢がエルフの世界。その最果てから侵攻を始めた。

神の逆鱗に触れたんだ。


侵攻スピードは尋常な物ではなかった。

……今度は目の前に女の子と避難所らしき場所に俺の意識は移された。広々とした空間には百人くらい居るかもしれない。そこの後方に大事そうに守られた女の子がいた。


何故だかは知らないが、その子の考えが流れ込んでくる。

朦朧とする意識の中で、その感情を俺は拒む事が出来なかった。


本日。この王都。ヴァンアルフが落とされるだろうと言われている。

私はこの事を日記に綴ろうと考えた。

最後の時間は、家族と友人のヒルダと過ごそうと思う。


この日記には楽しい事ばかりを書いてきた。

でも最後には、ふやけた汚い日記になってしまった。

抱きしめてもらって安心しているのに。どうしてだか涙が止まらないから。

靴音が聞こえてくる。


金属音だ。

多分鎧を纏った光の騎士だろう。

私は今日死ぬ。


さようなら。ありがとう。決して悪い生活ではなかった。

むしろ恵まれていた。

例えどんな事があっても人間を恨むことはないだろう。


それがエルフの選択だから。

私は……。

とうとう来た。扉が開いた。酷く丁寧だった。


「陛下!姫様だけでも連れて逃げてください。やっぱりただ殺されるだけなんておかしい!」


貴族。フライト家の当主だ。父様と最も仲の良い男。

ヒルダの父親だ。

言うだけ言うと、その人は勇ましく扉の奥に消えて、神に仕えし光の騎士に挑んで行った。


そして、殺された。

それから部屋に侵入してきた騎士に部屋に居たエルフは目の前で次々と殺されていく。


何人いたのだろう。日記に夢中で気づかなかった。この広い部屋に百人くらいは居たのではないだろうか。

なのに、こんな状況なのに私は日記を書く事を止められない。


私は頭がおかしいのだろう。

泣きながら震えながら、ただただ書いている。

最後は私とヒルダだけとなってしまった。


私は騎士を見つめた。

何故か動きを止めている。どうしてだろう。


………………………。

俺はとんでもない物を見ている。何てむごい。

エルフの国。アルムヘイムのエルフは、アメリアとヒルダだけどなった。

そして、アメリアの目の前の騎士はアメリアの腕を掴むと何かをはめ込んだ。


それは腕輪だった。

あまりの恐怖に意識を失ったアメリアを取り戻そうとヒルダは果敢にも騎士を殴っている。


しかし、通用するはずもなく。意味はなかった。

気を失って腕輪を身に付けたアメリアを開放すると、騎士は今度はヒルダに向き直った。

そして。


「えっ……」


騎士はヒルダの頭部から足元に駆けて切り裂いた。

しかし、外傷は見受けられない。

意識を失い倒れただけだ。


寝息を立てるヒルダは、もうエルフではなかった。

切り裂かれたヒルダ。彼女から光が溢れる。もう日記の少女の感情は流れ込んでこない。だが、今度は切り裂かれたヒルダから光が溢れて、そこからあらゆる感情が流れ込んできた。


最初は俺の感情。

色々な事が浮かんだ。でも真新しい記憶が一番強かった。

愛し始めてくれた家族。自信をくれた国王。面白いものを見せてくれた王子と姫。


その小さな出来事だけで幸せを知らない俺は満たされていた。

次の瞬間。俺の目は光を取り戻した。

黒く染まり始めていた部分が徐々になくなっていく。


次に入り込んできたのは家族の感情。先ほど見た部屋にいる人の感情だった。

皆帰還を願ってくれている。

どうしてだか、主犯格のアルカーク卿までもが俺の帰還を願っている。


こんなに思われているのか、とてもうれしい。

俺の心は幸福感に満たされていく。

あぁ、力が湧く。右目から、次に体から。


俺の体は光を帯び始め、何時しか十字架の呪縛から我が身を解き放っていた。

降りかかる血も何もかもを吹き飛ばし、眩い光に包まれて俺は目を覚ました。


薄目を開ける。昨日住まう事になった部屋がそこにはあった。

天蓋付きのベットだから天井は見えないが、その先は円錐型になっている事だろう。


部屋は広々としており、必要品から娯楽から何まであらゆるものが揃っている。

俺は横を見る。見ようとした。しかし、その前に抱き付かれた。姉だ。泣いている。俺は怠さで何もする気にはならなかったが、辛うじて手を伸ばす事は出来た。


姉は俺の手を握り返してくれた。

次は反対側を見てみた。確かこっちには悪魔の儀式に使用するための石が置いてあったはずだ。


見てみると、それは粉々に砕けていた。

俺はそこで限界が来た。悪魔憑きの儀式とは、とんでもなく体力を使うのだろう。


もう目を開けている事が出来なかった。

最後に聞こえて来たのは、アルカークという男の声だった。


「素晴らしい。ですがおかしいですね。本来なら三日三晩かかるはずなのに数時間で力を増して戻ってくるなんて。いやはや、恐ろしい。だが、将来が楽しみだ……あと、気になるのは、いきなり現れた腕輪ですかな」


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