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王宮

「王宮に行くんですか」


「そうだ。何の心配もせずについてきなさい」


唐突に父に王宮に行くぞと俺は言われた。

どう考えても昨日変な力を使った所為だろう。

そう。王からグレイシア家に召集令が出されたんだ。俺を含めてね。

俺が少し怯えながら王宮までの道を歩いていると突然に父が叫んだ。


「ガンツ!」


「はっ!ここに。わかっております父上」


「えっ?どこから出て来たの?」


兄は俺の言葉には耳を傾けずに俺に近づくと一気に俺を持ち上げた。そして、そのまま俺をおんぶしてきた。

驚く兄は俺にこう言った。


「王との謁見は緊張から酷く疲れるかもしれない。それまで少し休め」


今、屋敷前の花園を抜けた街道を歩いている。


ここは、王宮の周辺地区。俺の家から王宮までの距離はとても近いようだ。

その証拠にこの街道を真っ直ぐに突っ切れば簡単にたどり着くことが出来る。


だが、それにしても。


「あの前から抱えた状態からのおんぶ。どうやったんだろう。気づいたらこうなってた。というか何をしているんですか兄上。やっぱり自分で歩きます。下ろしてください」


最近。家族はおかしい。過剰なまでに優しいんだ。これが過保護という奴だろうか。新鮮で何だかむず痒い。このおかげで徐々にではあるが恐怖心は薄れていっている。

だから俺はしっかりと喋る事が出来るようになっていた。

そんな俺に兄は弾ける笑顔を向けて来た。


「お前が喋れるようになって俺は嬉しいよ」


「そうじゃなくて、下ろしてください」


誰の所為だよ。そう言いたいが黙っておいた。というか、むさ苦しい。いや、兄におんぶされる弟とか普通なんだろうけどさ。花がないよね。まぁ、女の友達とかいないんだけど。


「呼んだ?」


「いいえ」


本当に急に出てこないでほしい。姉上は女友達ではなくて姉です。


「そのむさ苦しい場所が嫌になったら何時でも私の手を握ってね。直ぐにでもおんぶされてあげるから」


アメリア姉はにこやかに言った。

ふむ。どうしよう。

と、考える間もなく俺は姉の手を握っていた。


「ふふっ、勝負あったようね。さぁ、退きなさいガンツ。譲るのよガン2」


「くそぉ。勝者にだけ許されるガン2呼び。呼びやがったなアメリア。別に勝負してなかったのに。というかそれでいいのかフロウよ」


「残念ですね。ガン2兄様。男としてはおんぶされる恥を晒すよりもおんぶした方がいいのです」


兄はがっくりと項垂れた。道の端っこで。うん。そうだよね。真ん中だと怒られちゃうからな。

俺はおんぶする事にも周囲からの視線も諦めて町を見渡した。


王宮の周辺地区だけあってめちゃくちゃ栄えている。

道行く人々もどこか気品があるように思える。

そうやって眺めていると、いつの間にか人が沢山ついてきていた。


姉さん目的だった。

姉さん凄い愛想いいな。そんな事を思っていると、火の粉とも思える物が飛んできた。

キーン。響く。取り巻きの人達はとんでもなく距離が近かった。


つまり、煩かった。

俺が呆れていると、周囲は姉の言葉に驚くべき反応を示した。


「さすがアメリア様!ギャグが冴えてますわ」


……もういいや。面倒くさい。今は気にするのをやめよう。

それから少しすると、王宮に着いた。豪奢で威厳のある門を通り抜けると、兵士に案内されて客室に通された。


絵画やソファー。紅茶にお菓子。それから娯楽まで。王宮の客室はいたせりつくせりだった。

そこで四人でどうでもいい話をしていたんだと思う。 

俺はそれを聞き流していた。


途中で心配する声が聞こえるが、俺はどうしても眠かった。

うつらうつらとしてしまう。

何だか最近気が抜けているのか眠い。もしくは、隕石事件がある前の日までの反動なのかもしれない。


そうだ。今は幸せでも。少し前までは地獄だったんだ。

急に思い出したからだろうか、俺の頬に涙が伝うような感覚があった。

周囲がどよめいたのがわかる。


脆いな。前は確か泣かない事が自慢でもあったっけ。人間変わるものなんだな。

俺は擦って涙を拭おうとした。しかし、それより前に差し出された手があった。


その瞬間にまたどよめきがあった。それを無視して視線を辿ってみると家族ではない誰かの手だった。


「誰ですか」


当然こんな言葉が出てしまう。

受け取らないで言ったからだろうか、目の前の少年はぐいって俺の涙を拭ってくれた。


「俺かい?俺はね。あっ、その前に。男に涙は似合わない。使うといい。俺はカルディア・グローディアというんだ」


「えぇ……でも、もうどう使えばいいかわからないよ(もう涙出てないし」


「何と!どれほどにつらい目にあったというんだ君は」


「えぇ……」


俺が少年のユーモアに絶句していると、少年の背後から女の子が現れた。

そういえば2人して豪華な服を着ている。


「はいはい。黙ろうね馬鹿王子。そして、勉強に戻るよ」


引きずられていく王子。俺はそれをぼんやりと眺めていく。

ん?王子?


「えぇ!?」


周囲のどよめきは当然のものだったのか。


「やめろ馬鹿な姫よ。あぁ、そんな事よりダンディよ。貴方のお名前は?君からは不思議な物を感じるんだ。是非知っておきたい」


「フロウです。フロウ・グレイシア」


「何と!良い名前でしたか!……んん!?グレイシア卿!いたのか。影薄いな」


「貴方の前では、どんな影も薄くございます」


この会話を最後に王子と姫は去っていった。

呆然と二人が去った扉の方を眺めていると、父が言った。


「嵐のような人達だろう。いずれ彼が王になる」


「そうなんですか」


あれが王。まぁ、悪い人ではなさそうだし、いいかもしれない。

そう思った次の瞬間、再び扉が開いた。


「グレイシア卿。お時間です」


兵士に連れていかれたのは幾つもの柱がゲートのように延々と続く道だった。ご丁寧に赤と金の絨毯がある。この先に王はいるらしい。

しばらく歩いていると、とうとう到着した。


厳然とした雰囲気を放つ王の間に。

到着すると、王は俺達が跪いて敬意を示す前に親しげに父に話しかけた。

このまま立ちの姿勢でいいのだろうか。


「よぉ。リカルド。最近どうよ」


「国王陛下。最近は自分の情けなさにほとほと呆れてます」


俺は驚いて父を見た。まぁ、貴族だし接点はなくはないだろうけど、めっちゃ仲がいいんだな。尊敬はしないけど、しないけど、凄いかもしれない。

それにしても王様が呼び捨てで呼ばれているのを初めて見た。


「うむ。確かに情けないな。そして、丁寧語。これ元気のない証拠ね。さて、フロウ」


王様は唐突に俺に話を振った。


「話は聞いてるよ。その上で昨日の異常な魔力を教えてくれるかな?」


「それは私が!」


「案ずるな。お前はしっかり子供の晴れ姿を見ていなさい」


「しかし……」


「さっ、言うんだフロウ。そこの壁を壊していいから。異常な魔力というのは力。ルーンか破魔か。どちらかを見せておくれ」


破魔?俺は聞きなれない言葉に首を傾げそうになるが、それを堪えた。

王の言葉に従い、言われた方の壁を見る。真っ白だ。中間あたりに金色の線が引かれている。


本当にいいのだろうか。俺は少し迷いながら念じた。

突撃をすればいいのか。……昨日みたいに行け。

すると、右目から少し魔力が溢れて俺の体は一気に白い壁に吸い込まれていった。


とんでもない爆発音がする。辺りは土煙に包まれていた。


「は!」


王はそれを魔力で吹き飛ばした。

そして、王は言う。俺は急いで元の位置に戻った。

そういえば壁に当たっても痛くなかったな。


「凄いね。その力は右目の六芒星から出ている様だ。具体的にどんな力かわかるか?」


「よくわかりませんが何だか飛んでいきます」


「その力を発言する時にきっかけ何かはあったか?」


「多分、隕石を見たと思います」


俺は偽りなく答えた。嘘をつくわけにもいかないから、こう答えるしかない。

それに隠す必要も特に感じられなかった。

俺の言葉を聞いて王は頷いた。


「そうか。とりあえず悪魔の力じゃなくて安心した。家族に取りついた悪魔を打ち消した破魔の力だな。非常に素晴らしい」


「いえ、そういうわけでは……」


正直気まずかった。何か大したことをしたわけでもないのに褒められるのは。ただ単に能力に覚醒しただけなのだから。

どうしたものかと考えていると、王は笑った。


「謙遜することはない。衛兵。持ってなさい」


王は横を見る事なく手を上げた。

すると、近くにいた兵士が何かを持ってきた。

王はそれを受け取ると、俺の方まで歩いてきた。俺はそれを見て跪こうとするが制止を受ける。


「よい。楽にして居なさい。これを。汝に勲章を授けよう」


おぉ、何てフランクな勲章の授与だろうか。

正直驚きを隠せない。

呆然としながら受け取ると、王は言った。


「悪魔祓いの勲章だ。君が大人になったら悪魔祓いにもなれる。考えておいてくれ」


「はい」


俺が恐る恐る頷くと、父が急に騒ぎ出した。


「王よ!おやめください!フロウはルーンの器を得られないんです。そんな我が息子に悪魔祓い。デーモンハンターの称号を授けるなど。あれはこの国で最も優秀な実力者がなれる物です!それをこんな子供に」


それを王は片手で制した。


「お主もそうだろう。デーモンハンター。リカルドよ。そう心配するな。彼の星の力は強大だ。小さい頃から鍛え上げればとんでもない力を発揮するだろう」


王は俺に向き直った。


「フロウよ。結局道を選ぶのはお前だ。自由に生きなさい。ただ。優秀な人間として期待はしておこう」


どうしてだろう。人間は皆現金な物なのかもしれない。だって、勲章と期待。たったこれだけで、コテンパンに潰された自尊心が満たされて自信へと変換されたのだから。


「はい!」


自分でもわかる。俺は今、数年ぶりに自信を取り戻して一番の笑顔を浮かべていると。

でも問題は父上だ。父上は俺の顔をちらりと見ると、こう言った。


「はぁ、まぁ、俺の息子なら大丈夫か。お前が笑えるんだから、心配なんていらないな」


そう言って父は俺の頭をガシガシと撫でた。

今度はうれし泣きでもしてしまうのではないかと思ったが、涙を流すことはなかった。

そうか。やっと調子が戻ってきたんだ。


「うむ。リカルドの言う通りだ。そうやって笑えるではないかダンディよ」


「馬鹿な息子よ。下がれ」


「酷いぞ。馬鹿な王よ」


「何ぃ!息子にも言われた事ないのに!……いや、今言われた」


「居たの!?」


右から王子・王・俺の順になるのだが、本当に何時から居たんだろう。お願いだから驚かさないでほしい。

しかも、俺の横に陣取っている。


「いや、大きな音がしたと思ってな。祝杯か祭りかと思ったんだ。しかし、どうしたものか、来てみれば授与式だったとは。とりあえずおめでとうダンディ」


「あ、ありがとうございます」


俺がぺこりと頭を下げると、王子は俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「よい。構わんぞダンディよ……のわぁ」


しかし……。


「早く勉強に戻るよ馬鹿な王子」


「何ぉう馬鹿な姫よ!」


直ぐに連れていかれてしまった。

俺が苦笑いで見ていると、王座から声が上がった。

視線を向けると、王はもう元の位置へと戻っていた。


「あやつはな。君と同い年なんだ。仲良くしてやってほしい」


「はい。もちろんです」


ここで断れるわけがない。嫌な人でもなかったし、むしろ友達のいない俺にはありがたい申し出だった。

しかし、次の言葉は俺を動揺させるには十分だった。


「そうかそうか。ならば君は今日からここに住みなさい。色んな先生に君の能力の底上げをしてもらおう。励むのだぞ」


「いやいや。許さんぞライアス!」


「何ぃ!リカルドに呼び捨てされた事なかったのに。いや、よくされてた」


それから王と父の口論は激化していき、結果として父が折れる形で終わった。

これから王宮暮らしか。

……えぇ!


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