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デスパレットからの帰還


光に満ちた幸せの空間から帰還した後、俺はよくわからない光景を目の当たりにしていた。

デュラハンがフォリッツ王国と事を構えていた。実感はないが、それほどまでに長く異空間の中に居たのだろうか。


俺は今、港近くの屋根の上で事の一部始終を見ていた。

上には機械兵が跋扈し、下にはルーンを扱う兵士が目を光らせている。

誰も気づかないのは、ステルスの能力がよく効いているからだろう。


この短時間で驚いたことがある。あいつが姫様だった事だ。男の名前を使っているわけだ。

俺は溜息と共に空を見上げた。雲がある青い。空気が上手い。

こんなに気分のいい日は一体いつ振りだろう。心の高揚を抑えきれない。


俺は手を掲げ一閃した。


「星の光よ。描け。一閃」


言葉と共に俺の指先から金色の光が溢れ、それで何かを描くように俺は天に向けて手を振り上げた。

スーッ。

音もなく綺麗に切れていく。何が?それは大きな機械兵の巨体が。


綺麗に真っ二つに切れた機械兵は、中にいる人間の血をまき散らしながら落ちていく。

そう。このままでは下の兵士が死んでしまう。


その中にはアーノルド達の姿もある。

俺が取るべき行動は一つだった。


「描くは異空の扉」


再び指先から光の柱が上がり、俺は四角形を宙に描いた。

その四角形は機械兵が落ちる方向で、四角形は中に黒の空間を作り、機械のかけらを残らずに飲み込んでいった。


俺はもう見ている必要もないと判断して駆け出した。

そんな中、アルカークは狼狽えるように口を開いた。


「こんなルーン。いや、魔法ですら見た事はない。シャルレイか!こんなわけのわからない魔法を使うのは!」


狼狽し、叫びだしたアルカークのまじかに迫っていた俺は、問いに答えるように口を開いた。


「いや、俺だよ。アルカーク。もう一度会いたかった」


言いながら俺は勢いよくアルカークに蹴りを入れた。


「お前に蹴りを入れる為に」


「なにっ!?がふっ」


吹っ飛ぶアルカークに向けて言うと、奴は驚愕の表情を浮かべていた。


「フロウ!」


歓喜の声が聞こえた。それは骨の姿のデュラハンと不安げな表情を浮かべていたアーノルドだった。

俺はその二人を無視して起き上がったアルカークを見た。


「気分はどうだ」


「最悪だよ。どうやってあそこかあら抜け出した」


「ツァダイの眼と言う物を使ったんだ」


「そうか。その法具のおかげでお前は新たなる力を手に入れたのか」


「あぁ、しかし、俺の能力はどうも巨人の力ではなかったようだ。理を捻じ曲げる時空の力。星の力とはそういう物らしい。この指先の光はあらゆるものを作り出す。そう。お前を刻むという結果さえも」


俺は腕を振るった。ステルスで魔力の動きを消してから。

すると、細切れになったアルカークが血を弾く音と共に地面に落ちた。

俺は横を見る。現国王に問うためだ。

しかし、そこには誰もいなかった。

逃げたか…………。そう考えていると、不意に声が聞こえた。


「今のは狡いねぇ。見た事もない力を二回も連続で使うなんて」


「あんたにはバレていたみたいだが?」


「私には目があるからね」


俺が溜息を吐くと、突然に現れたシャルレイは笑って見せた。


「あんたが出張ってくるまでもないだろう」


「効果はある。我が親衛隊もこの場に招待しているのだから」


上を見ると、もう既に乱戦状態に突然していた。通りで轟音が鳴り響いていたわけだ。

上空には白く輝く馬に乗った親衛隊が戦っていた。


「あれはユニコーンだよ。初めて見るかい?」


「あぁ、しかし、現国王はどこに行ったんだ」


俺の問いを聞くとシャルレイは空を指さした。


「あの飛空艇の中に逃げたようだ」


どうやらフォリッツの国王様は恐れをなして敵国の温室へと逃げ込んだらしい。


「救えない奴だ」


「あぁ、そうだね。だから、退治しなくてはならない。それと、彼女は……」


「言っても帰らないと思う」


「……では、一気に潰そうか」


「あぁ」


答えた瞬間、周囲を地響きが支配した。

どんどんと溢れていく。地面を伝い、宙に舞う。自分自身良く知っている自分じゃなくなる黒いオーラ。

これは……。


「とんでもない闇の力が……いったいどこから。そう言えば、闇の力を開発していたと聞いた」


「完成していたのか。ちょっと前の君より闇に満ちているかもね」


「その話はもういい」


「どこから来るか……!?」


周囲を見渡していると、突然に黒い何かが視界を覆った。息をするのも忘れ、俺は後方へ飛びずさる。

しかし、目の前の黒い機械兵器は恐ろしく速いスピードで手を動かし、掌からレーザーのようなものを噴出させた。


「光よ描け!」


俺はそのレーザーの範囲を全て覆うように四角い光を描いた。レーザーが吸い込まれたのを確認すると、俺は黒の機械兵器の真上にまた四角を描いた。描き終わると、轟音と共に瞬く間にレーザーが降り注ぐ。


「やったか?」


「いや、まだだ」


俺が問うと、低い声が返ってきた。

シャルレイからだ。珍しく真剣なのだろうか。

そして、彼の言葉が現実となるのはこの後直ぐの事だった。


まただ。また目にも止まらぬ早さで機械兵は動く。

今度は背後だった。一瞬で背後を取られた。

以前なら岩を作り方向を阻害した。しかし、今は能力の性質が変わってしまったから出来ない。


タイミングを合わせるか、動きを止めるしかない。どうする。

そんな事を考えていると、またものんきな声が聞こえて来た。


「困るなぁ。存在そのものを忘れられると……」


声と共にもう一つ聞こえた。轟音だった。赤い雷が走り、寸分たがわずに黒の機械兵へと吸い込まれていた。

破壊までには至らないが、動きが止まる。かなりの威力なのだろう。


そうだ。ここにはシャルレイが居た。

俺は口元に小さく笑みを作り、腕を振るった。


「光よ描け!」


スーッ!

音もなく機械兵は二つに割れ、崩れ落ちていった。

この後も黒の機械兵が姿を現すのか。そう思ったが、黒の機械兵は現れず、それどころか機械の軍勢は撤退を始めて行った。


とりあえずの終わりだろう。

呆然とその様を眺めていると、シャルレイが俺に近づいてコンと何か胸に当てて来た。

それは王冠だった。


「あとは任せてもいいかな?」


「もちろんだ」


俺が王冠を受け取ると、シャルレイは親衛隊を連れて転移ポータルから姿を消した。

残ったのは連合派閥と繊維を失ったフォリッツの軍勢。

俺はフォリッツの軍勢の中を歩きながら、アーノルド。プリシラのいる場所まで向かった。


辿りつくと、直ぐに王冠を渡す。


「姫。皆が言葉を待っています」


一瞬寂しそうな顔をすると、プリシラは頷いた。


「えぇ、わかっています」


俺とデュラハンは後ろへと下がり、プリシラが前へと出る。

プリシラは一同を見渡すと、声高々にこう言った。


「我が名はプリシラ・ブリタニア!現時刻を持って!皇位を継承し、国名をブリタニアへと変える事を宣言する!民に優しい国を作りたい。みんなが笑って暮らせる国を作りたい!今まで放棄し、隠れていた私にそんな事を言う筋合いはないかもしれないが、みんなどうか力を貸してほしい!」


言い終えると同時に俺は拍手を送った。デュラハンもそれは同じだった。

二つの拍手が三つに増えた。

しかし、以降拍手が続く事はなかった。


変わりに不安げに瞳を揺らすプリシラに声がかけられた。


「そんな事を言っても。何も変わらないじゃないか。いつもお前達は私達を蔑ろにしてきたじゃないか」


声は奥の方から聞こえてきた。

農民や貧しい暮らしを強いられてきた者達だ。


「都合のいい事を言っても信用できるわけないだろ。皇位を捨てろ!国を民に明け渡せ!」


そうだ。その通りだ。

貧民だけではなくその場にいた全ての人間がその言葉に乗っかってきた。

貧民の心からの叫び。続いて貴族や兵の国を乗っ取ろうとする気持ち。


様々な感情がこの場を支配している。

一心にその感情を向けられたプリシラはただ唇を噛みしめて、受け入れてもらえない現実を見つめていた。


喧騒に包まれる中、俯きかけたプリシラに俺は言った。


「安い決意だったのか。こんな事で諦めるなよ」


「言葉が出てこない」


「もう無理だってわかっているからか。それでいいのか。大事なのは今だけなのか?」


この言葉にプリシラはハッとした。

後姿からでもわかる。今の彼女は、真っ直ぐで強い瞳を民に向けているのだろう。

だから彼女は、大声を出して喧騒を打ち消した。


「今はダメでも!受け入れてもらえなくてもいい!もう決めたんです。私が引っ張って国を良くすると。見ていてください。そして、良くなったと思ったら受け入れて笑顔をみせてください。虐げられて差別される世界は終わりです」


でも。そんなの。聞こえるのはプリシラの強い感情に動揺する声ばかりだ。

俺はそんな困惑する民の感情を更に揺さぶるような言葉を掛けてしまう。

そう。今からかけなくてはならない。


俺はそれを言う為に一歩前へと踏み出した。


「注目してくれ。プリシラ現皇帝にも民にも申し訳なく思う。何故なら彼女が皇位を捨てれば、一気にクォーラとグローディアが攻め入る。選択肢など最初から一つしかない。だが、彼女はラドラークとは違う。連合の派閥の者だ。彼女なら連合に不利益を運ぶこともないだろう。彼女が就任するならば、我々はこの国に危害を加えない。元々そのつもりだった。」


ここで俺はプリシラの方へ振り向いた。


「皇帝陛下。良い国づくりを……」


「えぇ、民は私が守ります」


「そうでなくては困ります」


最低かもしれないが、これ以上事態が悪化しても困る。

釘は指しておかねばならなかった。その所為で民の指揮と信用が落ちたとしてもだ。

それに彼女なら、それを回復できる。


何も問題はないだろう。

俺は指先の光で扉を描き、その中にデュラハンと共に入っていった。


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