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パレード


破砕音の後の轟音。何かが起きた事を察知した私とアレンは、立ち入る事を一時的に禁止されていた会議室へと急いで急行した。

しかし、そこにフロウ・グレイシアの姿はなかった。


大きく空いた穴から風が吹き込むだけ。そして、その時から、彼は姿を消した。

もう一週間になる。彼が消えてから、クォーラとの連絡が取れなくなってから。


何故連絡が取れないのか。それは連絡を阻止する結界が張り巡らされたから。

結界が張られたのは翌日で、その次の日。アルカークと言う男が宰相の地位に着いた。

何でもグローディアの出で上級ルーン使いだったのだとか。


アルカークの部下も数百単位と言う数でこのブリタニアの大地を踏み、新たなる騎士団を設立し、闊歩するようになった。

そして、三日後。クォーラとグローディアの手中から転がり出るようにブリタニアは、現フォリッツ王国は独立を宣言した。


それから直ぐだった。フレンシルが同盟を持ち掛けて来たのは……。


「見返せばいいって言っただろ」


私が独り言ちていると、背後に気配がした。

私は今、例の酒場に居り、椅子ではなく空になった酒樽の上で胡坐を掻いている。


「はしたないですぞ」


「ドレイクか……敬語は止せ」


「悪い」


悪びれもせずにドレイクは私の隣の酒樽へと腰を下ろした。


「フロウ殿の事を考えているのか」


「あぁ、いくら英雄でも、グローディアの実力者には叶わないのか」


「隙をつかれたとのことです。それに悪魔憑きの儀式は二度受ければもう戻れないと聞く。彼の事は残念だが……」


「うるさい。うるさい!そんな事を聞いているではない!」


私はとっさに怒鳴ってしまった。

何故怒鳴ったのだろう。ドレイクは冷静なのに。あぁ、会ったばかりだから情を抱くのはおかしいのかな。


それに力ある者は短命とも聞く。

彼なら何とかできると信じ切っていたから、だからこんな気持ちになっているのだろうか。

勝手に期待して勝手に失望して。


私はもうわけがわからなくて今いる部屋を飛び出そうとした。

しかし、それはドレイクに手を掴まれる事によって止められた。


「アーノルド。いえ、姫。仕事です。先ほどラドラークから指令が出ました。フォリッツの西方で反政府勢力を名乗る者が暴動を始めたと、そして、その者達を討伐しろと。これは好機です。我々と同じく形を潜めていた勢力が居たのです。これの討伐に赴くふりをして彼らを取り込めば、さらなる可能性が広がるでしょう。私達の為に尽力してくれたフロウ殿の為にも、我々が頑張らねばならんのです」


私はドレイクの言葉に頷いた。


「そうだな。それにこうなっては、クォーラとグローディアが黙ってはいない。傲慢なラドラークが撃つ滅ぼされる日は近いぞ」


「えぇ、姫様の言う通りです。それに奴が持っているブリタニアに伝わる王冠。あれさえ手に入れれば皇位を継承できるのです。あと一歩ですから」


「そうだな」


ブリタニアの王冠。昔、忌々しい父が着けていた王冠。

あれほど嫌悪していた皇族としての証がこんなにも恋しくなる時が来るとは、思いもよらなかった。

国を変える為に。フロウの無念を晴らすために。私は立ち上がらなくてはならない。


ブリタニアの一族として。


「任務出立は明日となります。ラドラークの奴。馬鹿なのかはわかりませんが、出立時にパレードをするようだ」


「わかった。明日だな。私は自室で休むよ」


「あぁ、これから変わりゆく王国で。いえ、帝国で」


「あぁ」


私は空の酒樽が置いてある一室を後にして、自室へ戻る為に転移場へ向かった。


「我を導く魔の円陣よ。異界の門を開きて事象を捻じ曲げ、我を契約の大地まで運びたまえ」


◆◆◆◆


翌日。私は目を覚ますと、簡単に身支度をして自宅を出た。

私の自宅はそれほど大きくはない。普通の家だ。

隣家はドレイクの家となっており、夜の不安もない。

この自宅はかなり殺風景だ。必需品しかない。娯楽なんてしてる暇はないんだ。


それが豪華になるかもしれないけど、私はさせない。その分国民がゆとりをもって過ごせるようにしよう。

それでいいんだよね。フロウ。


街道を抜け、私は港へと向かった。

皆ととは言ってもそのまま海に出るわけではない。私の国は海から少し距離があるからだ。

しかし、幸い海に繋がる川がある。だから、我が国は王都では、そこから船を出す。


着いてみると、偽物の笑顔を張り付けた踊り子が笑顔を振る舞い。

農民の血と涙の結晶である作物が贅沢な使われ方をしていた。

恐らく少ない金で無理やり奪い取ったのだろう。我々はそれを食べなくてはならない。


金を払うでもなく、無料で。賃金は貰っているというのに。

腐っている。一刻も早く私が変えなくてはいけない。

私は指定された席に座り、考え込みながらパレードの様子を眺めていた。

すると、私の目の前に何者かが現れた。


「楽しんでいるかな。アーノルド嬢」


ラドラークだ。大臣と新たに任命された宰相を引き連れている。


「ほほぉ。この娘があのアーノルド嬢ですか。わたくしの相手もしてもらいたいものです」


こいつらは下品だ。決まって同じような話しを振ってくる。何度も何度も飽きないのだろうか。鬱陶しいことこの上ない。

散々と屈辱の言葉を浴びせ終えるとラドラークの一行は去っていった。

耐えるように俯いてやり過ごし終えると、次に他の者がこちらにやってきた。


視線を上げると、私はうんざりした表情を浮かべた。


「なんだ。ハンスか」


「あいつが死んだのは本当か」


何時も人をおちょくり気持ち悪い笑みを浮かべているハンス。しかし、今日は様子がおかしかった。

彼は何時になく真剣な表情を浮かべていた。

この間の一件がそれほどまでに悔しかったのであろう。


「聞いた通りだ」


「そうか。やっと会えたと思ったのにな」


「気持ち悪い何が言いたいんだ」


「同年代のライバルだよ。まっ、今日から一定期間ご一緒するからよろしく」


私はハンスの声に驚きの声を上げた。


「お前が付いてくるのか?」


「勇気あるだろ?派閥違いの中に自分を高める為に突っ込んでいくこの姿」


「お前ってそういうキャラだったのか」


「ただ、久しぶりに燃えただけだ。直ぐに戻るだろう」


「だろうな」


「もっと可愛げがあってもいいと思うがな」


「あるわけないな」


私がきっぱりと言うとハンスは笑った。

鬱陶しく思い視線を巡らせてみると、ラドラークが丁度注目を集めたところだった。

奴は目立ちたがり屋だからか、高い段を作りその上に乗っている。


しかし、不思議だ。あの目立ちたがり屋なら、段をパレードの中央に設置するはずだ。

それが何故川沿いに設置したのだ。

私が不思議そうに見ていると、ラドラークは人気は高い声を上げて、懐から何かを取り出した。


「えっ!?」


私は思わず立ち上がる。視界に入ったものを見た瞬間に鼓動が早くなった。

それはドレイクも同じだった。

それをどうするのだ。それは、皇位継承の王冠だ。


私の気持ちなど知りもせず、ラドラークは気持ち悪い笑みを浮かべて王冠を川の上に掲げた。


「古き王はもういらぬ!今より!新たなる王冠を設定する!だから。これは必要ない!見ろ!完全にブリタニアが死に絶える姿を!」


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


ラドラークが王冠を川に投げ入れた瞬間、私は叫びながら川へと飛び込んでいた。

それを見て、ラドラークは笑った。


「ははっ!ついに見つけた!怪しいとは思っていたが、やはりか!あやつは、亡きブリタニア帝国の姫!プリシラ・ブリタニアだ!捉えろ!」


「私にお任せを国王」


「やってくれるか。アルカーク卿」


「もちろん」


寒い。この時期の川はやはり寒い。どんどんと手足の感覚がなくなっていく。

でも、何としてもあの王冠を手に入れなくてはいけない。


今息継ぎに戻ったら恐らくとらえられる。見つけたと言っていた。

正体がばれたんだ。絶対に手にするまで上がれない。


10秒30秒1分と経過していく。

それでも王冠は見つからない。だんだんと意識が遠くなっていく。

こんな時、きっとフロウなら簡単に見つけてくれるだろうな。

ごめん。お母様。私の未熟で身勝手な行動が、全てを台無しに……。


刹那。轟音とも言える水音が周囲に響いた。


「ごほごほっ!……呼吸ができる……何で?」


それに今、抱えられている。

私は、ハッと視線を上げると、そこには髑髏がいて。


「ひっ!」


思わず悲鳴を上げてしまった。

目の前の骸骨はそんな私の事など気にもせず、大きく声を上げた。


「我が名はデュラハン!シャルレイ王子の唯一無二の騎士であるフロウ・グレイシアの召喚獣なり!大事な友好国であるブリタニア帝国正統後継者、プリシラ・ブリタニアに牙を向ける事はクォーラ並びに連合に牙を向けると同じ!命がいらぬ者は来るがいい!」


その一声により、周囲に動揺が広がった。


「フロウ・グレイシアって……反逆の騎士か」


「連合に立てついて本当に勝てるのか」


広がっていく動揺が収まりを見せない事にラドラークは慌てるように声を上げた。


「馬鹿者!何の為のフレンシルとの同盟だと思っているのだ!時期に増援が来る!それまで持ちこたえればいいだけの事だ!」


ラドラークが言い終えると、次に一際大きな声が上がった。まるで喝を入れるように。

これは、傍らにいる宰相の声だ。


「静粛に。それにですね。死んだらしいじゃないですか。貴方の主であるフロウ・グレイシアは」


それに対し、私を抱えている骸骨は首を振った。


「いいえ。死んではいません。今にわかりますよ。貴方の行動がいかに間違っているのかが」


「くだらない、はったりを……でも。もう終わりです」


言いながら宰相アルカークは天に向けて手を上げた。

すると、轟音が響いた。

見えてきたのは大きな飛空艇と、それを守護する機械の巨兵。


「嘘……あんなのに勝てるわけない」


私は思わず、ぼそりと弱音を零すしてしまう。

骸骨の人も怖がっているのか、手に入る力が強くなっていた。


「頼みますよ。早く戻ってきてくださいよ。フロウ様」




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