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移民


あれから数時間経ち、今は深夜。俺は案内された部屋の椅子の上で目を覚ました。

食事は確かに貰った。しかし、部屋を用意するのをあの女は忘れていたらしい。

下手に動くわけにもいかず、俺は案内された椅子しかない部屋で軽い眠りにつくしかなかった。


何故深夜に起きたのか、それはこの時間帯にやる事が出来たからだ。

打診はした。迅速に事を運ぶにはこれだけではまだ足りない。

俺は自分の奥底へと眠るデュラハンより得し、力を呼び起こした。


(我が身により顕現させよ。ステルス)


一拍の時を得て俺の体は周囲と同化する。

この魔法の仕組みは簡単だ。体全体から常に特殊な魔力塗料を放出し続ける事で感知に発せられる、魔力波を受け流したり跳ね返したりしているんだ。これならば魔力を発動しても気づかれる事はない。


次に俺は5つの転移ポータルを足元に並べた。


「名は時空。現すは人。空間を捻じ曲げし異界の法律より、媒介を得て今一度顕在させよ」


次に印を結んだ。


「隠・在」


様々な紋章が4つのルーン媒介に吸い込まれていく。

下準備はこれで十分だ。

俺は周囲と同化したまま部屋を出た。


連合派閥の酒場を抜けて街道を抜ける。用があるのは、先ほど訪れた街外れのボロイ教会だ。気づかれぬように俺は教会の中に入った。

入るとは言っても扉はない。もう崩壊しているからだ。


見るからに音が鳴りそうな重々しいボロけた正面扉ももう倒れている。。

常時空けられていた壊れている窓ももうない。


しかし、辛うじて生きている壁には明かりが灯っていた。子供が怖がらない様に常時灯しているのだろう。

この教会は広くはなく、元々はドーム状になっており、女神像の後ろに小部屋が2、3部屋ある程度だった。

子供や大人達はそこで寝泊りをしている。と言っても部屋以外の教会の部分は先ほど崩壊してしまったのだが……。


俺はその部屋には入らずに教会の中心に媒介を1つ置いて、それに木材のルーン媒介を張り付けて言う。


(我が魔力のによりその姿を隠せ。隠を是とする半球よ。隠れし媒介の守護を務めよ)


光はなく、媒介は薄らと消えた。俺の魔力塗料と結界を張ったのだ。

また直ぐに教会から出て、瓦礫が散らばる教会の周辺に移動した。

そして、次に教会を囲むように四方に設置し、同様の術式を張り巡らせた。


要件を済ませた後に俺はその場を後にし、元の部屋に戻って全く寝心地のよろしくない椅子の上で再び眠りについた。

また数時間経ったようで次に朝を迎えた。俺は今ぼんやりと目を覚ました。


どう起きたのか。それは控えめに開けられた扉の音でだった。

薄目を開けてみると何だか気まずそうに頬を掻いているドレイクの姿が見えた。


「今、気持ち悪い表情をしているな。気でも違えたか」


「いや、まぁ、違えたかもしれんな」


どこか歯切れの悪いドレイク。彼の後ろから嬉しそうな表情を浮かべた女が顔を出した。

アーノルドだ。昨日とは違い、今の彼女はどこか悪戯っ気がある。

一体この短期間で何があったのか。俺には理解が出来なかった。


「昨日な。ドレイクの奴は徹夜で」


「やめてくれ!今はいいだろう!」


照れるように遮ったドレイク。それを見てアーノルドは唯々笑っていた。

俺は一つ溜息を吐いていった。


「それで、考えはまとまったのか?」


言われて直ぐにドレイクは懐を探った。


「あぁ、だから、貴方にこれを」


俺は差し出されたものを受け取る。

見てみると、カードだった。

それにドレイクが説明を加えていった。


「それは住民票であり、このフォリッツの兵士である証のカードだ。そこで大体のところへは行けるだろう。貴方の階級は私とアーノルドの下になる。そんなところに納まる人間ではないだろうが、今は我慢してくれ」


そして、最後に申し訳なさそうに言葉を閉めた。

そんなドレイクの事など気にもせず、アーノルドは小さく笑いながら俺の手元のカードを指さした。


「そうこれをね」


「やめてくれと言っているだろう」


「だってさ。面白かったから」


「まったく」


なるほど。これの作成を急いでしていたのか、バレるのが早いな。

だが、丁度いい。そろそろだ。

俺が棒状のポータルに魔力を注ぎ、四角形を形成させる。


すると、その中にデュラハンが浮かび上がった。


「ぎ、銀髪美女……」


「……ドレイク」


見惚れているドレイクに冷めた言葉を送るアーノルド。俺はそれを無視して言葉を口を開いた。


「どうだ。行けるか」


色々はしょっている所為か、隣にいる二人は何が何だか理解していないようだ。

しかし、デュラハンには当然通じるので返答は直ぐだった。


「もう準備は出来ています。シャルレイ様もお喜びになられていました。」


「わかった。直ぐに行動に移そう」


俺は立ち上がって、夜中に設置した媒介とはまた違う媒介を掌に置いて、それを眼前まで上げた。


「ルーンよ!我が呼びかけに呼応し、顕現せよ!名は時空!現すは人!空間を捻じ曲げし異界の法律より、媒介を得て今一度顕在させよ」


次に印を結んだ。


「隠・在」


すると、掌に置かれた媒介から光が溢れ、この場に人が現れた。


「えっ!?」


驚いているのは子供や教会の大人達だけではない。ドレイクやアーノルドまでもだ。

しかし、今は驚いている暇はない。何故ならこの部屋は狭いんだ。だから、現れた奴から順番に開いたポータルへと投げ入れなくてはならない。

俺は無造作に教会の者達の襟首を掴むと四角形のポータルの中へと投げ入れた。


「わ!?」


「へ?」


「うわっ!」


次から次へと様々な声が聞こえてくる。


「ちょっと待ってくれ!もっと優しくできないか」


「もっともな意見だが、ドレイク。それは無理だ。こうしないと、部屋が埋まる。文句があるなら、俺よりも早くこのポータルの奥へ移せ」


「何をしているのかもわからないのだが……」


「移民だ。協力を乞う時に頼むべきだったな」


ドレイクはハッとして転移してくる者達を俺よりも優しくポータルの中へと移動させた。

しかし、彼は遅かった。ドレイクよりも早くにアーノルドはこの展開に気づいて教会の者達を移動させるのを手伝っていた。


「遅いぞドレイク」


アーノルドの喝が飛んだ。


「わかっている。」


「これで最後だ」


俺が言うと、ポータルの向こうのデュラハンは頷いた。


「はい。承りました」


俺はそれを聞くと、ポータルを強制的に閉めた。

そして、言う。


「役目を終えた媒介よ。我が元に戻り朽ちろ」


言葉に呼応するように5つの媒介が出現し、木材のルーンと共に俺の手元でボロボロと崩れていった。

振り向くと、またしてもドレイクのテレ顔だった。


ひたすらにウザい。救いなのがアーノルドのテレ顔があるところだろうか。

しかし、次に口を開いたのはウザい方だった。


「驚いた。まさか昨日の今日で実行してしまうとは……」


「それには、確かに驚きを隠せない」


お礼なら先ほど聞いたからな。俺は気にせずに先を急かした。


「それで。やる事を教えてくれ。そして、現状を」


「いや、その前に一言お礼を」


「お礼なら部屋をくれるだけで十分だ」


「あぁ!すまない!」


「いいから話を進めてくれ」


俺が再び溜息をついたところでドレイクは咳払いを一つして話し出した。


「この国は、数年前から秘密裏に開発をしているものがあります。それは」


――闇の媒介


「民に苦痛を与えているのはその所為です」


この国は数年前から闇の研究をしていた。

闇の術式に必要なのは血。それも苦痛に苛まれた者の血だ。

恨みつらみの宿った血に闇の力が宿る。


「そして、その血と機械の国であるフレンシルから貰った特殊なオイルの融合により、強力な動力を手に入れる事が出来るとわかったのです。そこから、この国は機械の国と秘密裏に繋がりを持つようになったのです」


「それで?協力してくれそうな派閥はあるのか」


「えぇ、クォーラとグローディアの怖さを知っている者がほとんどですから、それなりにはいます」


「最後はそれが必要になるな。転覆させる機会を待とう。きっとシャルレイもそれを狙っている。我々もブリタニアを失うのは惜しい。友好関係だけでなく、利害の一致という点でも期待してくれていい」


「ありがとう」


俺は一つ頷くと、フォリッツの俺が所属する騎士団の兵装へと着替えた。

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