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銀色

戻ってきたドレイクは、暗い表情を浮かべながら少し頭を冷やして来ると言ってこの場を去った。

恐らく俺のような者が送られた所為で頼みの綱が目の前で引きちぎられたような錯覚を覚えたのだろう。


そして、その事を俺はシャルレイ・クォーラに報告しなくてはならない。

よくよく考えたらこれは大きなミスだ。叱責か、それとも罰か。

潜入何て言う重要な任務で内輪揉めをするなど、信用ガタ落ちだろうな。

だが、些細な事でも抑えられなかった。


これを抑えるようにするのが今回の目標だろうか。

俺はそう思いながら、通信ポータルを開いた。

見た目はただの鉄の棒のポータル。しかし、これに魔力を注ぐと四角形の枠を作りその中に互いの顔が映し出される。


これを使っての連絡なのだが、目の前にはシャルレイの姿はなかった。

不思議な事ではない。彼は一国の王子。俺のようなものに構っている時間がある方が驚きだ。

どうしたものかと眺めていると、突然に人影が移った。


注視してみると、それは骨だった。

薄青い輝きを全身から放ち、身体には強固な甲冑を纏わせ、背中には槍と盾を収めている。ただ立っているかと思えば、違う。室内でありながら、この者は馬に乗っていた。その馬も同様に薄青いオーラを纏っており、変わった風貌だ。


目の前の骨は、突然現れたかと思うと喋り始めた。


「初めまして。私は、シャルレイ様の契約者であるデュラハンと申します。この度はフロウ様のサポートをするようにと、シャルレイ様から仰せつかっております」


最後まで言い終えると、デュラハンは馬から降りて俺の言葉を待たずにポータルに触れた。


「何を……?」


とっさに疑問の声を出してしまう。

目の前のデュラハンはそんな俺など全く気にもせずに触れたポータルの内膜から、こちら側へとすり抜けて来た。


「そんな事が出来たのか」


「えぇ、色々と種類がありまして、今、わたくし達が使っていますのが転移と通信を兼ね合わせたポータルとなります。まぁ、それは置いといて……やってしまいましたね」


「やはりまずいか」


「えぇ、貴方の歳でこのようなミスに対して堂々としているのも色々とまずいですね」


デュラハンは俺の様子に溜息をついた。


「思い出します。シャルレイ様の昔と今の貴方は少し似ています。彼も貴方の様に堂々とミスを犯し、反省はしませんでした」


「そうなのか」


「えぇ、貴方のミス。今回のも彼が知れば、彼は許す事でしょう」


呆れ、それとも諦めか。様々な感情を含ませてデュラハンは頭の骨のヘルメットを取り外した。

見えた表情は、やはりというか、困ったような表情をしていた。


外見は美しい。銀色の髪にピンク色の唇。目は青く透き通るようで大人の色香のようなものを漂わせている。

そう。外見は美しいが、目の前の骨だと思っていた存在が実は人だった事に俺は絶句した。


戸惑いの視線を向けている俺の事などいざ知らず、目の前の銀髪女は鎧とズボンを脱ぎ始めた。

それに気づいて急いで後ろを向いた。


こいつは何を考えているんだ。いきなり、驚かされたが、今は少し落ち着いた。

恐らくここに来たという事はこれから行動を共にするのだろう。

まさか、俺だけでは問題があるのだろうか。多分そうだ。出なければ任せるはずだ。


しかし、それでは困る。舐められたままでは、姫様を守れない。

だから、俺は背を向けたまま言った。そして、印を密かに結んだ。手いじりをするかのごとく。


しかし、その直後、後ろで微かにビクつきを感じた。


「来て早々に済まないが帰ってくれないか。俺だけで事足りる。舐められるようじゃ、困るんだよ」


「そう。思いますよね。でも違いますよ。シャルレイ様は貴方を信じすぎというくらい信じています。私を手放すくらいに」


手放す。信じすぎている。理解できない言葉が次々と飛んできた。


「シャルレイ様は自分の右腕を前から欲しがっていました。しかし、お眼鏡に叶う者が誰一人として居ませんでした。そこに貴方という宝石が瞳に止まったのです。もう手に入れたくて仕方ないのでしょう。というよりは、貴方からの信頼などを勝ち取りたいのでしょう。彼は難しければ難しい程に燃える男です。よかったですね」


「……」


俺は黙り込んだ。

シャルレイに右腕が不在だった。確かに騎士はいなかったが、本当にそうなのだろうか。何故なら、彼には確か親衛隊がいたはずだ。


その中に居たのではないだろうか。

そう思い、振り向いて疑いの視線を向けてしまった。

改めて視線を送った先に居たデュラハンは、ワンピースに身を包んでいた。純白のワンピースに。


「そんな目をなさらないでください。貴方には私と契約を結んでい頂かなくてはならないのですから」


「結んで。その後はどうなる。体を支配されるような事になるのではないか」


どうしても信じられなかった。

契約。これがとても気になった。デュラハン。彼女は人間ではない。召喚獣。魔法使いが眷属として従える物だ。

それも上位の。そんなものと契約させて、それが本当の主従契約かどうかもわからない。


もしかしたら、クーデターを収束させ、姫をクォーラの物とするための策略家も知れない。

考えたらきりがないが、そのような可能性があるのならば、考慮せざるをえない。


あぁ、そうか。まだわからない。なら、先にやって後から考えればいい。非道?そんなのは、関係ない。第一には姫様の安全を俺は考えなくてはならない。

ならば……。


俺はデュラハンに向けて手をかざした。内なる隕石の力を使用して最大限に速度を上げて。


「縛」


印を結ぶ。


「前方には悪鬼。創造の神よ。輝きの英知を持って冥界の闇の独立を閉ざす鎖を放て。在・縛」


唱え終わると同時に鎖は高速で飛んでいった。

それは寸分違わず目の前のデュラハンに吸い込まれていき、彼女を拘束した。

俺はその姿を見て言う。


「何故避けない。避ける隙はあったはずだ」


「ありませんよ。どちらにしろ、こうなっていたと思います。ただ唱えるだけなんて真似はしないでしょう。保険をかけていたくせに」


「魔力の流れは隠せないから、さすがにわかるか」


「立場を利用しましたね。ずっこいなぁ。でも織り込み済みなんです。すみません」


「どこまでがだ」


「完全服従がです」


俺はそれを聞いて拘束されている彼女の額に手を置いた。


「我は絶対なる主。この者を従える物なり。与えるは屈服と屈辱の刻印。得るは、その者の生涯。ここに完全なる主従の契約を」


光が部屋を包み込む。次の瞬間、彼女の背中から溢れんばかりの光が発せられ、次第に収束していった。


目の前の女は、奴隷の刻印を押されたにも関わらず、あっけらかんとしていた。


「ゲットされちゃいましたね」


「そのようだな。本当にいいのか」


「えぇ。問題ありません。直ぐに信頼を勝ち取って見せます」


「そうか。で?伝言を預かっているのではないのか」


「えぇ、そうです。まずは、書類を書いていただかなくてはなりません。その為にはこの鎖を解いていただく必要があります」


「解」


俺は解除の印を結んで拘束を解いた。

目の前では、白銀の髪をした女が解放感からか伸びをしていた。

目いっぱい体を伸ばしてすっきりしたのか、彼女はこちらに向き直った。


「何をしてもらうのか、それでは、これをご覧ください」


彼女は部屋にあるテーブルまで近づくと、腕を振った。

そこから現れたのは、書類だった。

一枚一枚捲ってみる。


「暇な時にお願いしますとのことです。今期にかかる国防・研究・消費資源。などの予算表に印を押す仕事です」


印を押すだけか。パラパラ捲っていると、魔道兵器からルーン媒介などの魔力資源や様々な名前や数字などがあった。

俺はその一つ一つに丁寧に印を押していった。

そして、最後の印を押した。


「見てもよくわかりませんよね」


侮られている。しかし、事実だ。

見たところでよくわからない。聞いた名前は色々あるが、それは魔力資源のルーン媒介の事だ。見てよくわからない事の方が多かった。


「あぁ、それにしても。頭冷やすのには時間がかかりそうだな」


「きっと翌日以降でしょうね。なので今回はもう一つの仕事をしましょう」


「まだ何かあるのか」


銀髪の少女は頷いた。


「えぇ、今手に入れた能力を試してから、教会に忍び込みです」


俺は一度黙り、そして、頷いた。多分こうなのだろう。


「様子を見に行くのか」


「yes!」


「普通に言ってほしいな」


俺は部屋を出ようとした。しかし、慌てた銀髪女に止められる。

少し怒っていた。白い頬をぷくっと風船みたいに膨らませていた。


「話しをちゃんと聞いてください。言いましたよね。新しい能力があると」


「言っていたな。しかし、実感がない。やり方がわからないんだ」


「ですよね。こうするんです」


銀髪女は言いながら手を握った。


「今ならわかるはずです。私に触れている事で能力を探りやすくなっているはずです。念じてください。貴方には見えるはず。新たに手に入れた召喚獣を従える証である力が」


俺はじっと、目の前の銀髪を見た。それは目を。吸い寄せられるように視線は移動して、彼女の瞳の奥の物に吸い込まれていった。

暗闇。ここは紫の魔力に覆われた世界。そんな中で何かが砕けるような音がした。手首からだ。パキッパキッキ。


見てみると、腕から骨と溶岩が浮かび上がってきていた。巨人化の腕だ。今回は随分とコンパクトになっている。巨人ではなくちゃんとした等身大の自分自身だ。

見慣れたそれを眺めていると、今度は見えている物が薄れていく。

霧がかかるとかそんなものではない。文字通り、薄れていき、最後には透明になった。


そこまでだった。紫の魔力の世界に俺が居たのは。


「あれが力か」


元の世界に戻るなり聞いた。

それに対し、銀髪の女は頷いた。


「ハイでございます。あれは貴方の力。手に入れた力です」


「そうか。すまんが背中見せてくれ」


あの空間がただの力を得るだけの空間かを確かめたかった。

俺の言葉に銀髪の女、デュラハンは頷くと、ワンピースを脱いで背中を見せた。

その際に下着姿になり、それを見てしまったが、今回は印が消えていないか、それだけが気がかりだった。


しかし、このような心配は杞憂に終わった。

彼女の背中にはしっかりと奴隷の刻印が記されていた。この刻印がある以上、彼女は何もできない。俺は安堵し、服を着るように命じた。

その間は後ろを向くのだが、服を着終わった彼女からは不満そうな声が聞こえて来た。


「あの」


振り向いてみると、心なしか彼女の頬は赤かった。

不思議そうに眺めていると、彼女は少し手いじりをしながら言った。


「何か言う事はないのですか」


「あぁ、確認した」


それ以外に言いようがない。確かに下着は見たが、普通はコメントしないような気がするし、俺はしたくなかった。

そんな俺の返答が気に食わなかったのか、目の前の銀髪は少し怒ったように頬を膨らませた。


「もういいです。さぁ、能力を確認してください。どんな能力ですか?これからの事を考えると潜入に仕えるようなものだとありがたいのですが……」


「決まっていないのか」


「ハイ。人によって異なりますからね。試してみないとわからないんです。ちなみにここで使っていいようなものですか?激しい物でしたら使用は控えてくださいね」


「その必要はなさそうだ」


「えっ?」


素っ頓狂な声が室内に響いた。それは銀髪の声で彼女は目の前で目を見開いている。

恐らく彼女の驚きは……。


「消えた」


「いや、違うな」


「ふぎゃ」


俺は唐突に銀髪の頭を掴んだ。そう。消えてはいないのだ。ただ、姿が透明、いや、周囲と同化しただけだ。魔法の名称はステルスというらしい。

あぁ、そうか。これはルーンではなく魔法か。自由に使えるのなら、心強いな。


詠唱の必要も無いようだし、そうだ。とりあえず聞いてみよう。


「この能力はお前と契約が切れても使えるのか?」


「えぇ、能力は残りますよ。そういう物なのです。だから、シャルレイ様の方にも私から手に入れた能力がありますよ」


「そういうものか」


「えぇ、なのでもうそろそろわし掴んだ腕を離してください」


「あぁ、すまんな」


俺が手を離すと、目の前の銀髪は頭を押さえていた。そんなに強くは掴んでいないんだがな。


「だから、お前はお留守番な」


「んなっ!なーんて」


指さして言うと、彼女は驚くようなふりをして笑った。


「わたくしはフロウ様ともはや一心同体。いつもは、異空間に居るのでそこから主人の眼を通して現状を把握することなど造作もないのです。だから一緒に……あれ?待ってください。まだ異空間に入って――」


俺は銀髪の言葉を待たずにステルスを発動してこの部屋を後にした、部屋を出ると直ぐに人とすれ違った。

あれは、アーノルドという女だ。様子でも見に来たのだろうか。


気付かない彼女を見ていると、独り言が始まった。


「国に帰ったのかな。そんなはずはないよね。強い人は必要だから。ドレイクを許してくれるといいんだけど。この町を知ってもらう為に町案内出来なかったな。ううん。考えていても仕方ない。とりあえず教会に行かないと」


(これは着いていくしかないですね)


心の中で銀髪が囁いてきた。


(お前が知っているんじゃなかったのか)


(いいえ)


俺は銀髪を無視してアーノルドという少女の後を追った。

先ほどまで居たのは、城の中ではなく、少し離れた酒場の地下だったようだ。

大きさはそこまでではない。この町では中位くらいだろう。


聞いた話しによると酒場は一軒ではないという。

酒場を出たら当然街でアーノルドという少女はその中で歩を進める度に商人ではなく、街に稼ぎに来ている近くの農民に声を掛けられていた。


そして、それ以外の商人達には蔑んだ視線を向けられていた。

その一つ一つを観察しながら、俺はアーノルドの後をついていった。

しばらくすると、彼女は町の入口辺りにある教会に……ではなく、そこには目もくれずに進んでいき、街はずれの丘の上の教会の中に入っていった。


彼女がそこに入ると、途端に人が寄ってきた。

主に子供だ。子供達は笑顔でアーノルドと会話をしていた。

子供達の服はボロボロとはいかないまでも味気ない物だった。


恐らくここで生活出来ているのは、この女とドレイク。そして、この者達とつるんでいる者達のおかげなのだろう。


(酷いですね)


(あぁ)


俺は天井を見た。そこには今にも崩れ落ちそうな天井があり、壁は穴だらけだった。

少し衝撃を与えたら、今にも崩れそうだ。

俺はアーノルドと子供の方にもう一度視線を向けた。


「ねぇ!お姉ちゃん!俺達劇考えたんだよ!見てみて!」


2人の少年だ。とても活発そうな姿は、孤児出なかった場合を連想させる。

彼らが環境に恵まれていたらきっと勇敢な騎士になっただろうな。

微笑ましい光景。しかし、これは本来止めるべき事だった。


何故なら先ほどの通り建物が脆いからだ。

あまりにも微笑ましくて眩しくて、俺ですら止められなかった。

目の前でチャンバラ劇を始めた二人は、勢い余って柱へと衝突してしまっていた。


鈍い振動が周囲に伝わる。


「ダメ!」


アーノルドは周囲の子供を抱え込み、他の大人達も同様の行動を取った。


(大変ですよ。これは)


(いや、試すのには、いい機会だ)


(えっ?)


驚く銀髪、デュラハンの事を気にもせず、俺は手を天に掲げた。

すると、透明の腕は巨大化し、周囲の人々を覆い尽くし影を落として崩れていく瓦礫を受け止めた。


俺は、その落ちて来た瓦礫を手を左右に振る事で払い、呆然とする子供達に平等になる様に財布の中身を忍び入れた。


(いいんですか)


(うるさい)


数時間後、部屋に戻った俺はクォーラに子供達の保護を打診した。

それにしても、少しくらいお金を残しておけばよかったか。食べる物がない。

そんな事を考えていると、突然にドアが開いた。


「いますか?」


「あぁ」


「先ほどはすまなかった。ドレイクが飛んだ失礼を……」


ぐー。

鳴る物なのだな。こういうタイミングで。間が悪く格好のつかない俺は、溜息を吐いた。


「お腹すいてる?店を紹介しようか?」


「いや……」


何だか気持ち悪いくらい歯切れが悪くなってしまっている。


「……財布を落としてしまった」


「探しに行きましょうか」


「それを盗賊に盗まれた」


「取り返しましょう」


「それは無理だろう」


「貴方ほどの人でも」


「俺が言うんだから間違いないかもな」


俺の気まずそうな表情を見て、アーノルドはハッとした後に柔らかく笑った。


「おかしいな。何て言うか。ありがとう」


深々と頭を下げてくる彼女に俺は言う。


「そうだな。当分の飯代で手を打とう」


次の瞬間、俺達は顔を見合わせて笑った。



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