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プリシラ

ブリタニア帝国。

ここはそう呼ばれている。父であるセラルド・ブリタニア皇帝は、野心に燃える男と呼ばれていた。

そう。それは過去の事。そうであったのは、グローディアという壁の高さを知るまでで現在はそのような志はない。


残ったのは残飯を漁るような意地汚い野心だけだ。絶対に勝てない。勝てないからその時が来るまで待つ。彼はそう言っていた。

それに反対する者はいなかった。

王の近くに常に居た参謀であるラドラーク・フォリッツもそうだ。いや、彼の場合はそう思わせられていた。


私は見ていた。ただただ意地汚く怠惰を貪り、内政を疎かにし、外交にのみ注力する父の姿を。

国民からの父の評価は、高いとは言えない。

当然だ。税を上げて搾取するだけ搾取して、たった一代で最も奴隷商の盛んな国にしたのだから。


クォーラに勝てずとも、我々はルーンで二番目の国として居ればいいと、そう常に言っていた。

資源は腐るほどあるのだと。誰もその言葉に反論はしなかった。

地位を下げる。私が見て来た貴族達はそれだけを恐れていた。


グローディア。目の前に立ちはだかる絶対的なルーンの力を持つ大国。その相方を務めるのは魔法で絶対的な力を誇る国。

この二つだけでも厄介なのに、加えて二つの国に惚れこみ忠義を尽くす国がある。

我が国と同等の力を持つ魔法の国レミングトン。


この三国の絆はとても固かった。それ故に双国の傘下の位置に甘んじている国々は反抗する機など起きなかった。

今の立場に文句を言えば、現在より立場が悪くなり、そして、傘下の国の全てが決起して立ち向かったとしても到底勝ち目がないからである。ほんの一パーセントの可能性すらない。だから、無駄な野心は捨てるに限る。それが、双国以外の掟になりつつあった。


あの二つの国が我々を導いて美味しい思いをさせてくれる。父や皆はそう信じてやまなかった。

今日もそう。母と私に目もくれずに定期的に行っている奴隷狩りの成果を自らの目で確かめている。


そう。この男は国民を道具扱いしているのだ。奴隷狩りをしたり、奴隷志願制度を作ったり、国民を絶望させてばかり。多分母がいなくなれば私は父の毒牙にかかるであろう。

本当に欲望に忠実な男だ。


というより、この世界には誠実な男がいないのかもしれない。

ブリタニア王国には、誠実な男がいない。

目の前には、ブクブクと欲望に身を太らせた不埒ものしかいないのだから。

貴族の全てがそうだと言っても過言ではない。


あぁ、横を見れば母は私だけを見て、視線を王の間に移せば、父はまだ連れて来たばかりの奴隷と口づけを交わしている。

気持ち悪い。そう思う。中でも特に気持ち悪いのは、放置する割に独占欲だけが強くて私と母の顔には仮面をつけさせている事だ。誰にも見せはしない。そう言っていた。何の為か。それは父にしかわからない。だから、私は母と父にしか顔を見せた事がない。そして、これがおかしいって事も理解している。


歪んだ世界だ。こんな世界なら、壊して母と共に遠くへ行って幸せに静かに暮らしたい。そう私は切に願った。

しかし、その願いは半分しか叶わなかった。

どうかなったのか。壊れるだけ壊されたんだ。


野心が本当に強かったのは父ではなかった。

配下の参謀であるラドラーク・フォリッツだった。


鮮やかな謀反だったと思う。しかし、奴はしてはいけない事をした。母を手にかけたのだ。

私の目の前で悲鳴を上げる母を。

止めようとした。しかし、昔から母に忠誠を誓い私と共に守ってくれていたドレイク・ミュラーという男に強制的に連れて行かれた。

母にろくに別れも言えず、息絶えた父に恨み辛みも言えず、私はドレイクと共に国に潜伏した。


それからは、少しの帰還、じっとしているだけの過酷な生活を余儀なくされた。

何故少しなのか。ドレイクの芝居が上手かったのだ。

彼は、私を一月分の食料のある隠れ家に隠すと、それまでの間に私が普通に生活出来るように地盤を作った。

まずドレイクは私を隠した後に自らの顔を剥いだ。

ルーンには顔移しという技がある。それをやられたと説明していた。自らで行った事を伏せて。


回復のルーンを使い三日で復帰したドレイクは、ラドラークが用意した偽の遺書に従い、任務をこなしながら私が出てこれるように尽力した。

あぁ、想像の通り。この国では王が変わろうが関心が向けられることはなかった。

誰が王になろうが変わらない。そう思われていた。誰も不思議に思わないし、誰かやるかもしれないと思われていたし、自分たちは唯々今まで通りの成績を他国に示せばいい。そういう考えだった。


だから、王が他界したとしても、決起しようと思う者は少なく。しない者の方が圧倒的に多かった。

それよりもどう沈静化しようか。皆そればかり考えていた。


そんな状況の中、ドレイクは焦らずに冷静にこの国にある派閥の一つである女王に忠誠を誓った師団に密やかに呼びかけて、口裏合わせの協力を乞うた。一人でできる事は限られている。どうしても協力者が必要だったんだ。

その後の設定はこうだった。

私がクォーラにいるドレイクの友人の娘で、よく遊びに来るのだと。

この事を相談したのは、クォーラの国王。


彼はこの事を承認し、私の身柄を家臣へと預けた。

これで安全は保たれる。何故なら、野心に燃えるラドラークの手綱を何としても二大国は引きたい。その為に私は利用する駒としてキープ。

ラドラークはクォーラを相手に何かをする事はできない。例え私が国王の娘だったとしても。


しかし、今では名前も容姿も変わっている。当然だ。あれから十年もの時が経ち、今では私は15歳になったのだから。

あれから、自分の国を外側から眺める事になった。

そして、絶望した。想像通りの国の姿ではあった。

しかし、現実と想像では違った。

元老院や貴族が贅を尽くし、その下で職人や商人や奴隷商人が贅を尽くし搾取する様を。


何もない民の餓死率は年々上がっていた。

町のいたるところに白骨が見受けられるほどだ。

ラドラークが王になった今でも国の現状は変わっていない。

時が経つと、不思議な物だ。私は、その状況を変えたいと、心から思うようになったのだ。


だから、私は変わりたい。そして変えたい。

その思いが限界に達したのは10歳の頃だろうか。

アルカークに無理を言ってフォリッツの職につけて貰えるように頼み込んだ。

その所為で現在はアルカークの右腕の立ち位置に居れる。あぁ、実力は伴ってない。


冷たい目線や蔑みの言葉も、もう慣れっこだ。でも、私には譲れない負けられない思いがある。

ブリタニア皇族正統継承者である。このプリシラ・ブリタニアには。

だから、今、クォーラ第一王子であるシャルレイ・クォーラの前で膝をついて乞うている。


願いを聞き入れてもらえないかと。


「顔を上げてください。プリシラ。我々にとってもラドラークは目の上のたんこぶでございます。資源を無駄遣いし、民を虐げる。これは賊がする事であり、王がする事ではない。手を貸しましょう。ブリタニアの未来の為に。我々連合の未来のために。面白い人を送りますよ。直ぐにでも。」

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