ガラスの靴
友情と愛情、そのどちらも私にとっては大切なものなんだ。
「わざわざ呼び止めて、ごめんね」
そう言う私の前には、私の想い人。そして……親友の想い人。
「これ……」
差し出した手紙の宛名は彼の名。差出人名は……彼女の名。
自分ではどうしても渡す勇気がなくて私に頼んだその手紙には、彼に対する彼女の想いがたくさん詰まっている。たった数gの物なのに、すごく重く感じるほど。
でもそれは、私に後ろめたい気持ちがあるからなのかもしれない。
私は彼女のように伝える勇気はない。それどころか、好きだと認めることすら出来なかった。
だからこれは、罰なんだ。
彼女は悪くない。何も知らないのだから。私が、言わない私が悪いんだ。
「……ごめん、受け取れない」
「え? どうして?」
「俺が好きなのは、お前だから」
周りの音が一瞬聞こえなくなった。足元から何かが崩れていく感覚。
両想いだって分かって嬉しいはずなのに、浮かんできたのは親友の笑顔。嬉しいなんて感情はどこにもない。
「……私は、キミのことそんな風に見たことなんてない」
嘘で固めた私は、さらに嘘を重ねる。
「これからも、きっと……ない」
せめて心の中がバレないように、必死で自分を作り、手紙を押し付ける。
「返事、してあげて。イイコだから、きっと……付き合えば好きになるよ。こんな私じゃなくて、さ」
彼女を傷つけたくなくて出た言葉は、私はもちろん彼も傷つけている。そして、実は彼女も傷つける言葉だということに、私は気付けなかった。
「ちょっと待てよ! 俺が好きなのはお前だって……!」
「私は」
虚勢を張るので精一杯だ。
気を抜いたら、涙が出てくる。
「私は、好きじゃない」
もう、これ以上は無理だ。
私は走って昇降口を後にする。
やっぱり、言わなかった罰が当たったんだ。
泣きながら帰り道を進む。
彼が彼女を好きだったら諦められるのに。
どうして私なんですか?
何故私達は同じ人を好きになってしまったんですか?
教えてください、神様……。