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レントの潜在技術

pixivで連載している小説の3話目です。

シミュレーター内部は、想像に反して天井が高かった。その反面、奥行きは

少し狭く感じる。レントは注意をそちらに反らしていたが、その後

再び前を向いた。見ると、前面180度にはスクリーンが広がり、もう一度

頭上を見ると、サブモニターや様々なスイッチが、所狭しと並べられていた。

レントはシートに座ると、スイッチの場所を見直し、目で覚えた。

「メインコンソール、オン。第一、及び第二エンジンはアイドリングにして

・・・よし、一応起動準備完了。早いとこゴーサイン出してくんないかね」

だが、レントにとっては、このコックピットの感覚は初めてではなかった。

このところデジャヴが多い様な気もしないことはないが、何となく、

以前に乗ったような感覚だった。それも、大分昔に。レントは、一応

記憶を掘り返してみたが、それでもピンとくるものは無かった。

ただ、何となく分かってしまうのだ。知らないはずではあるのだが、

それでも、このコックピットの扱い方を知っている。

レントは少し戸惑っていたが、それも教官の声で消えてしまった。


「いいか、今から実際に動かしてもらうわけだが、MWはかなりの震動がある。

何トンもの重さのものが動くわけだからな。まずはそれに慣れてもらう。

適当にMWを歩かせてみろ。終了の合図はこちらが送る。では、始め!」

教官がいうのと同時に、シミュレーターのあちこちから、叫びが聞こえてきた。

やはり、揺れがきついからだろうか。だが、レントは冷静に操縦桿を

握り締め、ペダルを踏んだ。そして、あろうことか、機体をジャンプさせた

のである。これが、素人にできることだろうか。サレンは、驚嘆していた。

「うそ・・・、レント、あなた出来るの!?私なんて歩かせるのが精一杯

なのに・・・。平気なの?」

「馬鹿、シミュレーターにはわざと衝撃吸収剤積んでないんだよ。だから

歩いた程度であんなに揺れるのさ。着地する時は、スラスターで微速調整して、

後は姿勢制御システムに任せたらOKさ」

レントは、既にこの機体の性能を知り尽くしていた。というよりは、

事前に誰かに教えられていた。そうでなければ、素人がいきなり機体を

ジャンプさせることや、シミュレーターの構造まで知っていたとは思えない。

サレンは、少し疑問に思いながらも、レントのいう通りに機体を動かしていた。


「すごい!ほんとに出来た・・・。レント、あなたすごいよ!こんなすぐに

機体を動かせるなんて!ちょっとは見直したかな?でも、何でそこまで詳しいわけ?」

「やかましいよ。サレンこそ、よく飛ばせるじゃないか。自分でも、

いまいちよく分かってないんだよなあ・・・。何でだろ?」

二人は無線通信で会話していた。本来は有線通信機能もあるのだが、

シミュレーターにはさすがに積み込まれず、無線のみとなった。

目の前には、CGで作られた空が広がっている。一応飛んでいるので、

それなりのGはあるが、可動シートのおかげで、幾分か軽減されている。

「ねえ、地上でだったらどういう風に動かすの?今は空中だけど、

そのうちスラスター切れるよね?いい降り方とかあるの?」

「ああ、そういう時は地上に降りるさ。それで出来るだけ相手から離れた

所に着地するんだ。降りてすぐは動けないからな。それで何秒後か後に・・・」

「おいレント、教官の仕事を取るな。給料泥棒になるだろうが」

と、ここで教官から通信が入ってきた。どうやら、シミュレーターの内部は

教官に見られているらしい。レントは嫌そうな顔をして返事をした。

「へいへい。にしても、人の話を盗み聞きするとは、いやらしんですね」

言うな、と教官は苦笑いしていた。そうしているうちに、基礎訓練は終わった。


午前中3時間の訓練が終わり、レントは教室へ帰った。思いの他楽に操縦できた

ので、さほど苦ではないのだが、やはり窮屈な場所に長くいると、どうも

体は疲れてしまう。レントは、自分の席が窓側にあることを幸いに思いながら

体を伸ばしていた。周りを見てみると、教室に帰ってきた生徒はほとんど

いない。ほとんどが、MWの振動に耐えられずに保健室送りとなった。だが、

これはどうやら当たり前のことであるらしく、そもそもいきなり普通の人間が

Gに耐えるということ自体が不可能に近い。保健室前は、生徒で行列が出来ていた。

レントは体を大きく伸ばして、サレンの方をちらと見た。今日のことを

熱心にレポートにまとめて、忘れないようにするとさっき言っていた。

(こうも熱心にできてしまえるの、サレンはまじめでいいやなぁ・・・)

レントは何となくサレンが羨ましく思えた。自分は勉強だとかそういうものは

嫌いな性分だし、何よりまとめが出来てしまえるという時点で、レントは

羨ましいと思えるのだ。だが、レントはそう思いながらも、机に向かって

居眠りをしてしまう。レントでもやはり、MWを操縦すると疲れてしまうのだ。

レントは、眠りに入りながら、今日一連のことを思い出すのだった。


訓練が終わってすぐ、教官は生徒の様子を見て呆れていた。あまりにも

酔いを感じる生徒が多く、32人いる内25人が保健室へ送られるはめに

なったのだから。レントも、この様子を見て少々の情けなさは覚えていた。

「はぁ・・・やっぱりいきなりでは無理ということか。このざまでは、

 うちの学校からエースが出ることはないだろうな。今のところは」

レントは、教官がいった「エース」という言葉が少し気になった。

エースパイロットという言葉を今まで聞いたことはあるが、ここでいう

「エース」というのは、なにがどうであればエースなのか。レントは

一応尋ねてみることにした。どうにも自分とは関係がありそうだったからだ。

「教官殿、エースってどういうもんです。ここでいうエースってのは」

「何だ、興味があるのか。ここでいうエースってのは、学校で数十人ぐらい

しかなれないやつのことだ。そいつには国軍から大会への出場権利が与えられたり、

いろんなパーツが送られたりする。ま、ひとつの特権階級だよ。もっとも、

きっちりMWが操縦できて、学校でも成績よくなきゃなれんがな。お前も頑張れよ。」

特権階級。レントは、どうもその響きが嫌いだった。どうにも偉ぶった感じが

するからだ。だが、大会に出られる権利が与えられるというのも、レントには

興味があった。今、世界の覇権を決めているのはこのMW-巨大な人型兵器だ。

その大会に出るというのは、自分がこの国、ラサキアの命運を背負うとも

いうことになる。その後ろから来るプレッシャーが、レントはある意味好きだった。

「エースねぇ・・・。おもしろそうじゃないの。」

レントは、そういった後、「ラスゲージ」のメンテナンスに入った。



「レント!起きなさいよ!レント!」

サレンの大声でレントは目を覚ました。しかし時計を見てみると、まだ授業が始まる

ような時間ではなかった。第一、今日は昼から何をやるかということはまだ聞かされて

いないし、別に非常事態という訳でもない。レントは、少し機嫌を悪くしながらも、

渋々と意識をこちらに戻した。サレンが慌てた顔をしてこちらを見つめている

様子から、直感的に‘ああ、これはなにかあるんだな‘という考えに行き着いた。


「ノイオルグ教官が今すぐ校長室まで来いって。多分データキーについてじゃ・・・」

どうせそんなことだろうな、とレントは思った。自分は大して校則違反も

何もしていないし、第一朝方あれほど騒ぎになったことだ。放って置く筈は

ない。レントは一応の決心をした。幾ら自分に原因が分からないといえども、

一応は国家機密だ。下手をすれば-銃殺刑もあり得る。データキーを扱う、

というよりはMWの「ライダー」となるということには、これほど重い責任が

降りかかってくるのだ。

「さらば青春。さらばわが人生よってか。辞世にしちゃ早すぎだと思うがね」

「よく今になってそんな皮肉が言えるわね・・・。感心するわ」

これが最後の会話になるのかもしれない。レントはそう考えていた。

だからこそ、「皮肉」で済ませておきたかったのだ。

‘あいつ、死んだな‘、‘馬鹿やるからだろ‘

周りの冷やかしをよそに、レントは一人校長室へ向かった。

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