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新着メールが6件あります。

※メール文の表現手法として一部顔文字を使用しております。

横書きでの閲覧を推奨します。

 学年末考査2日目の今日は数Ⅱ、英Ⅱ、物理の外せない3科目。

一体誰がこんな日程を組んだんだか、お陰で学年全体が朝からピリピリとした緊張感に包まれていた。

しんと静まり返った教室内にはカリカリと鉛筆を走らせる音だけが聞こえて来る。

時折生徒達が答案用紙をめくるカサリという微かな音ですら、やけに大きく響いて耳についた。



 ブブッブブッブブッ……


 そんな緊迫した状況をまるで無視するかのように、どこからともなく振動音(バイブレーション)が低く室内の空気を震わせる。

(おい、嘘だろ? テスト中くらい携帯はサイレントモードにしとけよ)


 ブブッブブッブブッ……ブブッブブッブブッ……ブブッブブッブブッ……

 ブブッブブッブブッ……ブブッブブッブブッ……


(……しつこい)

 鳴り続ける携帯電話のバイブにイラついたのだろう。誰かがコンコンと筆記用具で机を叩き始める。

それを受けて周囲の空気がじりじりと連鎖反応のように殺気立って行くのがわかった。

(ったく、誰だよ?一体)

一通り解答を終えて答案用紙を伏せた後、さり気なく辺りを見回してみる。どうやら考える事はみんな同じだったようで、何人かとチラチラと目が合った。

(ア…レ?……何コレ?みんなこっちの方見てる? ひょっとして見られてるのって俺??)


 ブブッブブッブブッ……


 再び空気が震えだす。うーん?何だかいやーな予感がするんだが。

気のせいだとは思いたいが、ひょっとして音源は机の横に掛かっている俺の鞄……か?

いやいや。そんなまさかね? ハハハハハ


 

―――ちょうどその時、ひたすら重苦しい空気を断ち切るかのように、鳴り響いたチャイムの音が1時間目終了を告げたのだった。



 * * *



 休み時間に入ると同時に、俺はこっそりとノートの影に隠すようにして鞄の中から携帯電話を取り出した。

案の定、旧式の折りたたみ携帯はチカチカとグリーンのLEDを点滅させてメール着信を告げている。


(うわっ!やっぱ俺だったか。……最悪だ。バイブOFFっとくの忘れてた)

さっきのピリピリと張りつめた教室の雰囲気からするとコレは相当気まずい。きっと何人かは犯人が俺だと感づいていたに違いない。

 次の英語のテスト範囲を確認する振りをしながらノートの内側でそっと携帯を開く。



『新着メールが6件あります』


 …6件……だと? 一体誰だよ?

そもそもこんな時間帯にメールを送ってくるような相手にさっぱり心当たりが無い。

自慢じゃないが、彼女が出来たなんて事は生まれてこの方1度も無かったし、メアドを交換している友達もみんな同じ学校の連中ばかりで、特別な用事が無い限りは滅多にメールのやり取りをするような事は無かった。男同士の友達なんて大体そんなもんじゃないだろうか?メールなんかしなくても、学校に来れば嫌でも毎日顔を合わせる事になる。しかも今は学年末考査の真っ最中だ。

 ちなみに俺の場合、広告系のメールは速攻ブロックかPCのフリーメールを利用しているから、迷惑メールの類が携帯に入ってくるような事も滅多に無い。

 つまり有体に言って、悲しいかな俺の携帯にはメールが来る事なんて普段は滅多にないのである。


(一体誰なんだよ?)

 頭の中で疑問符を大量に浮かべながら確認ボタンを押す。


 差出人:J( 'ー`)し カーチャン



「はぁっ? カーチャンっ!? てか、カーチャンって!?」 

携帯の液晶に表示された予想外の差出人名を目にして、俺は思わず声を上げてしまった。

 いや、確かに母親のアドレスをこの絵文字で登録したのは俺自身ではある。だが、実際に携帯の液晶上に表示されているのを見るとものすごい脱力感を感じずにはいられない。


(というかオカン、メールなんか出来たのか?)

極度の機械音痴で携帯は通話機能のみを使うのがやっと。その唯一の機能ですら会話を終えた後どうやって回線を切るのかわからずにオタオタしていたようなオカンが、わざわざ自分から俺にメール??……一体どういう風の吹き回しなんだろう?

 取りあえずはメールの中身を見てみる事にする。 


 **********************************

 差出人:J( 'ー`)し カーチャン

 件名:たかしえ、ぉかぁさんまいごになっちゃったみたい。どうしよう?

 本文:空白

 **********************************


……なんだコレ?

タイトルに用件(?)が書かれていて、本文には何も書かれていない。

 てか、迷子?

どこに行くつもりだったかは知らないが、いい年した大人が一体何言ってんだ? 

口があるんだから、わざわざ俺なんぞにメールして来なくても周囲の人に聞けば良さそうなものである。

 続いて次のメールを開く。


 **********************************

 差出人:J( 'ー`)し カーチャン

 件名:たかし、おかぁさんはいまもりのなかにいます。ここはどこですか?おなかがすぃてきました。さむいです。

 本文:空白

 **********************************


 はぁ!?もりのなか?……もりってあの木がいっぱい生えてる森の事か?

というか、この辺りに森なんかあったけ?さっぱり訳がわからない。


 **********************************

 差出人:J( 'ー`)し カーチャン

 件名:たかし、お母さん漢字使えるようになりましたよ!すごいでしょ?えっへん!

 本文:空白

 **********************************


 えっへん!じゃねーっての。

ていうか、いい加減件名じゃなく本文に文章書けよ。


 **********************************

 差出人:J( 'ー`)し カーチャン

 件名:たかし、どうして返事くれないの?このめーるを見たらすぐに返事を下さいああああああああ

 本文:空白

 **********************************


……何コレ怖い。

そもそも最初のメールからこの4通目のメールの受信時刻までの間隔は5分ほどしか空いていない。

こっちが学年末テストの真っ最中で無かったとしても、督促するにはいささか早急過ぎるように思うんだが。

 いや?でもあんなのでも、一応オカンも女だ。たったの数分でもメールの返事が待てないようなタイプだったのかも知れない。案外俺が知らなかっただけで、オカンもメンヘラー気質だったりするんだろうか?


 **********************************

 差出人:J( 'ー`)し カーチャン

 件名:だんだん辺りが暗くなって来ました。森の奥からぶきみな声が聞こえて来ます。こわいです。たけしに何回電話

 本文:空白

 **********************************


……電話?電話がどうしたって?途中で切れてる。

おそらく件名に入力するには長過ぎて文字数制限に引っかかったんだろう。試しに数えてみると、ちょうど50文字だった。文脈からすると「何回電話しても繋がらない」と言いたかったような気がする。

(あれ?でも電話なんか掛って来てたっけか?)

 着信履歴をチェックしてみても、俺の携帯にはオカンの携帯からの着信どころか、今日はまだ誰からも電話が掛って来たような形跡は無かった。意味がわからない。

 試しにこっちからもオカンの携帯に掛けてみる事にする。


「プププ……おかけになった電話番号は、電波の届かない所にあるか、電源が入っていない為、かかりません」

やはり繋がらないみたいだ。

 仕方なしに次のメールを開いてみた。


 **********************************

 差出人:J( 'ー`)し カーチャン

 件名:たけしえ

 本文:すっかり辺りは真っ暗になってしまいました。携帯電話を懐中電灯代わりにうろうろしてみましたが、この森の中からわ出られそうもありません。今夜はここで野宿する事にします。おやすみなさい。


 追伸:晩御飯はカレーの残りを食べて下さい。

 **********************************



 ここまで読んで、俺はさっぱり訳がわからなくなってしまった。 

真っ暗だから野宿する?一体どういう事だ?

メールの受信時刻は1時間目のテストの最中のAM9:40。どう考えてもまだ朝のうちだろう。

……何だか胸騒ぎがする。


 俺が訳のわからないオカンからのメールに首をかしげているうちに、気が付けば2時間目の予鈴が鳴ってしまっていた。

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