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第九話

第九話

 NKKに所属している吸血鬼は知っていることだ。三カ月に一回は会議が行われてNKKの決まりごとが変更になったりする。決まり事で不利益を被ったものが一名以上いた状態で、冷静に判断された後に決まり事を存続させるか、消滅させるか決まるのである。

 基本的に不利益を被るような決まり事を提案するアホは居ない。暑い日は日傘を持ち歩こうとか誰が不利益被るんだろうか。ともかく、俺にとってはどれもくだらないものばかりの気がする。

 裁くときも血の事以外は人間達の法律と一緒。罪は裁かれて終わりだ。回避したいときはどうすればいいか……一つの方法として、古城の主とかになればもみ消しとか考えられる。残念ながら庶民的な吸血鬼の方が多い為に出来るとしたら海外への逃亡ぐらいだろう。

 逃亡したって九割が捕まる。何せ、人間より鼻がいいし一人を追いかける数が違う。他国の吸血鬼協会とも条約を結んでいるらしく外国で捕まっても送り返してくるからな。その後は逃亡したって事でそれなりの罪がプラスされる。それなりの罪?そりゃ『中年男性の脂ぎった血を飲む事』だ。

 ともかく、俺がいいたいことはルールと言うものはどこの世界にも存在しているってわけだ。簡単に言うなら基本、男子は女子トイレに入ってはいけないとかな。

「どうすっかなぁ」

 俺が今現在お尻を便器にくっつけている場所は一階女子トイレ。大きいほうがあれだったのであわてて駆け込んだ場所が何を間違ったのか女子トイレなのだ。もちろん、出した後はすぐに出ようと思ったさ。吸血鬼が大きい方を長々とやっているなんてイメージされたくないだろ?

でもな、俺が入った後、女子たちがたくさん入ってきてそこでようやく男子トイレではなく女子トイレに入った事と言う事実に気がついたんだよ。

 そして今現在にいたるわけだ。

「落ち着け、俺。この絶対的なる警備の中から何とか逃げ出す方法があるはずだ」

 赤外線センサーがあるわけでもなし、数々の盗人を捕まえて来たプロがいるわけでもないのだ。大丈夫、ちょっと授業に遅れてしまうがチャイムさえなってしまえば今そこにいる連中も授業に行くに決まっている。今のところは陸の孤島、壁際に追いやられた状態だ。しかし、いずれ活路は開く。

「あ、次は移動教室だったね」

「そうだった、もう行かないと」

「うん」

 女子たちが出て行く音が聞こえ、俺はほんのちょっとだけ扉を開けて外を確認する。

「よし、いないな」

 もし、ばれていたらどうなっていただろう。きっと今頃学校の屋上で磔にされて頭にパンツをつけらえて笑い物にされていたに違いない。

 その恐怖はバンパイアハンターにあった時と同じくらい怖いだろうな。ちなみに、バンパイアハンターにも二種類あって一つは見境なく吸血鬼を滅ぼそうとしている連中と、NKKに所属している者たちがいる。前者の場合は日中に集団で襲いかかるが今の時代ではそんなに恐ろしい相手でもないかな。だって吸血鬼も日中に活動しているからだ。それこそ人間が一個師団で襲ってきたとしてもおれでさえ負ける気がしない。

 問題は後者の方だ。以前バンパイアハンターをしていた者たちが吸血鬼の現状を知って悪い吸血鬼だけを襲うのだ。何より装備が充実していてここのメンバーには勝てる気がしない。もっとも、俺がこの街に出没している吸血鬼にやられた場合はNKK総動員で件の吸血鬼を滅ぼしにやってくる。

 NKKは暇人が多いからな。中には会社に有給を出してまでNKKのイベント事に参加するって吸血鬼もいるくらいだ。たとえどんなに優れた吸血鬼だろうと一国レベルの吸血鬼が一度に押し寄せてきたらひとたまりもないだろう。

「ん?」

 誰かの視線を感じると思ったら一番奥の個室が少しだけ開いており、鼻先まで伸びた髪の間から目が見えていた。

「ひっ」

「……」

 少女は静かに出てくると固まっている俺を引っ張って個室まで連れ込んだ。

 え、な、なんでだ?もしかして俺をこれから水洗便所に頭を付けさせて水を流し、窒息させるつもりなんだろうかと考えていると今度は口をふさがれた。ち、ちくしょう、俺が本気になって暴れればこんなか弱い拘束なんてすぐに……

「………黙って」

 怒られてしまった。

 外から誰かの歩く音が聞こえてきた。ぼーっとしていたとはいえ、まさか誰かがトイレにやってくるとは思わなかったぜ。

 ということは、この人は俺の事を助けてくれたって事でいいんだろうか。髪に隠れた瞳からは何も知ることは出来ない……出来ないんだが、色白で実においしそうな血を持っていそうだ。

 女子トイレに入ってきた人物は少しだけうろついた後、俺が先ほどまでいた隣の個室の扉を開けて中に入った。そしてすぐさま出てくると今度はこちらの個室に近づいてきたのだ。



 ノックの音が聞こえてきた。



「………入ってます」

 その声を聞くと満足したようでノックをしていた人物は出て行った。少女も俺の口から手を放し、そっと個室の扉を開く。もちろん、そこには誰もいなかった。

「助かったよ」

「………須黒美咲」

「へ、あ、ああ、あんたの名前か」

「……窓から出たほうがいい」

 窓の方を指をさしてから少女はトイレを出て行った。彼女が外に出たのと同時にチャイムが鳴り響き、俺は指示に従って窓から出た。

 俺の事を助けてくれた須黒美咲と話すチャンスが再びやってきたのは意外な事にその日の放課後だった。


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