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第八話

第八話

 吸血鬼にも好みの異性と言うものが存在する。第一条件に血がおいしそう。それ以降は各吸血鬼の趣味によるものが多い。基本親子は好きなタイプが似るとか何とか、昔見せてもらった親父の本に載っていた。

「愛があれば血のうまさまずさは関係ない」

 そんなことを親父は言う。まぁ、俺もそう思うけどな。

 こっちに引っ越してきて一週間たった放課後。一週間ってあっという間かもしれないけど、放課後は帰宅部の青木千華と共に毎日帰ってヒーロー物を時代別順に見るなどして親交を深めた。そして、カメラを持った緑川小次郎ともそれなりに仲良くなったおかげで素晴らしい一枚をもらう事が出来たのだ。

「おおおっ。お前、これは…」

「いいだろう、生の真白りっこちゃんだ」

 そういえば親父に貸したりっこちゃんの写真集が未だに帰って来ない。俺のりっこちゃんは今頃どうしているんだろうか。

「くれ」

「いいぜ」

「おおー、ありがとう、隣人よ……」

 写真の中で俺に向かって微笑んでくれているりっこちゃんの表情がいつもに比べて能天気で、バカっぽく見えた。

「って、これは青木千華じゃないかーっ」

「ありゃ、ばれたか」

 何故か掃除用具入れから青木千華が出てきた。何でそんなところに入ってるんだよ。

「かつらかぶってポーズも同じにすれば大丈夫だと思ったんだけどな」

「あのなー…」

 どこから説明すればいいんだろう。

「青木と違ってりっこちゃんは儚げだけど元気なんだぞ。ひまわりに手足が付いたようなお前さんとは違う」

「えへへ、あたしってひまわりのイメージなんだ!ありがと、義人君っ」

「……はぁ」

 嫌みがうまく伝わりません。どうしたらいいんでしょうか、先生。

「でもさ、義人君もこういったアイドルって好きなんだね」

「ん、まぁ、そりゃ……」

 一番の理由は血がおいしそうだから……なんて言えないな。今時珍しいじゃないか。数だけ出して好きなの選べとか、あとでばら売りとかそんなアイドルじゃないし。

「ふつーに可愛いからな」

「え、じゃあ…あたしもアイドルになってみようかなー」

「それは無理な注文だ」

「えー、なんで」

「そりゃお前……千華は大きくなったらヒーローになって世界を救わなくちゃいけないだろ」

「あ、そっか」

 高校二年生がこんな事を言っていたら駄目だろう。そう言えば…以前いた高校の英語教師が一度だけ地球防衛軍に入りたいんです、どうしたらいいんですかって質問(※実話です)をマジで受けたっていってたっけな。

 俺達のボケを見ていた小次郎は立ち上がるとため息をついた。

「そろそろ次の授業に行ったほうがいいだろ」

「そうだな」

「準備準備っと……あれ」

 ふと廊下の外を見て動きを止めた千華。何となく俺も廊下の方へと視線を向けるとお化けのような、幽霊のような異様に髪の長い女子生徒が東から西へと歩いて行った。男子トイレで倒れていた相手だと言う事に気が付く。

「どうした」

「今の人……吸血鬼っぽい」

 っぽい……ねぇ。

「今の子は二組、隣のクラスの須黒美咲さんだぜ」

「だぜって……お前なんでそんなアルバム持ってるんだよ」

 しかも何気に女子専用(注意:男子は載っておりません)って書かれてるし。

「いや、ほら、おれも将来的には大仁みたいに青木っぽい何かを相棒にしてイエティとかカメラに収めたいんだよ」

「おお、相棒認定出たよっ」

「……」

「事件は会議室で起きてるんじゃない、そこら辺で起きてるんだ!」

 机を叩いて憤る千華に俺はため息をついて突っ込んだ。

「いや、そんな事になったら警察足りねぇから……大体、作品間違ってないか」

「あは、そうだっけ?」

 相棒はもうちょっと頭脳明晰な人間の方がいいんだけどな。

「ぴったりじゃないか。ボケと突っ込みで」

「将来的には俺の方がボケに回りたいぜ」

「大丈夫だよ、ボケなくてもあたしが突っ込んであげるからっ」

「それじゃ意味ないだろっ」

 ふと、視線を感じて廊下の方を見ると長い黒髪がちらっと見えた……気がした。


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