第六話
第六話
転校生がやってくる、しかも四月にやってくるとか狂気の沙汰としか思えない云々……ともかく、一歩遅れての友達百人できるかなー。高校二年生だから中途半端に友達で来ているだろうし、俺、大丈夫なんだろうか。
「転校生の大仁義人君です。みなさん拍手」
何故、拍手なんだろうかと思っている人なんて誰もいないだろう。朝からぼけーっと……いや、一名必死に叩いたりする人もいるけどさ。
「どうも、大仁義人です」
転校生がやってきたのにクラスは別の話で盛り上がっていた。ひそひそと話されている事を聞こうと思えばすぐに聞ける。
「こんな時期に転校生って珍しいよねぇ」
「うん、何かの調査員だったりするかも」
「あはは、それはないよ」
そんなひそひそ話。彼女たちが真実を知ったらどんな顔をするんだろうな。
「じゃあ大仁君はあの席に座ってね。一番後ろの席だからってサボらないで授業は真面目に聞くように」
「わかってます」
昨日助けた少女が隣の席になるなんて所詮、小説の話である。隣の席はカメラを丁寧に拭いている男子生徒だ。
「やっぱり転校生だったんだねー。上級生かなって思ったけど同い年なんだ。あ、留年していたりして年上だったらごめんね」
「いや、同い年だ」
いや、前の席にいた。さっき拍手を一生懸命していた生徒だ。
「あ、名前はねー、青木千華。青木とか千華ちゃんとかそんな呼び方でいいよ」
「……え、あ、ああ…」
「詳しい事は休憩時間に教えたり聞いたりするからっ」
好奇心の塊は吸血鬼にとって害でしかない。根掘り葉掘り聞かれたり、中には色々と試そうとしたり……吸血鬼の中にも他人の身体をいじくったりするのが大好きな人たちもいるけどな。ともかく、面倒な事にならないように祈るばかりだ。
どうせ休憩時間になれば俺の周りに人がやってきて色々と話さねばならないのだろう。ちょっとぐらい嘘とかついてもどうせ知り合いは居ないんだからいいよなぁ。
休み時間、俺の考えは見事に当たった。
「吸血鬼に襲われたんでしょ」
「大丈夫だったんだよね」
「よく助かったよなー、青木さん」
「まーね。私が襲われた時にさっそうと現れて助けてくれたすっごくかっこいいヒーローがいたんだよっ。まだ現代日本も捨てたものじゃないねっ」
ちらっと俺の方を見てウィンクをしてくる。どう返せばいいのかわからない……というか、転校生よりやっぱり事件の被害者の方に興味があるんだな。
ちょっとだけがっかり来て教科書を引っ張っていると隣の男子生徒から声をかけられた。
「転校生、このおれが質問してやるぜ」
「……は」
「おれの名前は緑川小次郎だ。趣味はオカルト全般…今はこの界隈を恐怖のずんどこに陥れている吸血鬼に興味を持ってる」
「恐怖のずんどこって…」
「昨日、偶然おれはお前の前の席に陣取っている青木千華が何者かに襲われているところを目撃した」
「……」
こりゃまた厄介そうな奴に目を付けられたものだ。
「当然、俺は上空に放り投げられた青木千華なんぞに目などくれてやらず、襲った犯人の方へとシャッターを切ろうとした。しかし、奴は人間業とは思えない素早さで俺の視界から逃げて行き、追いかけても遅かった」
「そうか」
「ああ、そうだ。おいかけられないと踏んだ俺はせめて上空に放り投げられた青木千華がどうなったかだけを写真に収めようとした。なんと、転校してきた大仁義人が既に青木千華と話しているではないか……人助けもできなかった俺は肩をがっくりと落とし、家に帰った」
「……それからどうしたよ」
「どうしたって……これで終わりだ」
こいつは何かを俺に伝えようとしているのかと思った。幸か不幸か単なるアホらしい。どうも見当外れの的外れだったようだ。
「へぇー、転校生君に助けてもらったんだー」
「運命の出会いってやつかも」
そんな話をしている女子連中にため息をついて俺はウィンクをまたしてきた青木千華とやらに手をふってやった。ショートカットがお似合いの女子生徒が早速知り合いになるなんて俺は運がいいかもしれない。
次の授業、俺は先生から借りた教科書を眺めながらノートを取る。現代社会の先生は年老いており、時折何かを思い出すかのように動かなくなる事がある。ちょっと不安だ。
先生が本日三度目のぼーっとした瞬間に前から二つ折りの紙が回されてきた。
「放課後、会議室の前で待ち合わせしよっ」
直接休み時間に言ってくれればいいものを……どの道、この時間が終わればお昼だ。面倒だからその時に話をしてやったほうがいいだろうな。
「せんせー、今日転校してきた大仁義人君が女子からもらった秘密の手紙を見てにやにやしてますー」
突如、緑川次郎が手を上げてそんな事を言い始めた。思考停止していた老人は動きだして俺をじっと見つめるとにやっとした。
「……大仁君か。ふむ、今日だけは多めに見てやろう。清純な年頃じゃろうからなぁ」
「……」
嫌な生徒に嫌な教師だ。
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