第五話
第五話
午後七時過ぎ。これからもっと明るくなってくるんだろうな。ともかく、吸血鬼が活動するには少し早いくらいの暗さだ。足元が暗いからと言って札束を燃やす必要性はない。
部活動を終えて生徒たちが帰路についている頃合いだろう。
目当ての女性を見つけたら後は簡単。缶を蹴飛ばすなり、指を鳴らすなりして振り向かせ、速攻で相手の目に術をかければ…はい、終了。煮るなり焼くなり好きにしろという状態になるのだ。
多用すれば自分の体調を著しく悪くするし、下手すると協会に目を付けられる。大人しく此処は血を抜き取ってから飲んだほうがいいだろう。直接血を飲むとたまに変な人間に追いかけられちまうからな。
「お、いたいた」
俺が通う事になる高校の制服を着ている女子を上空から発見する。このまま急降下して襲っちゃってもいいが万一と言う事もあるだろうから背後から行かせてもらうかな。
近くの路地裏に降り、相手が一瞬のすきを見せる場所…たとえば、家の前や暗い道を抜けた街灯間近で狙えば一発である。
しかし、考えてみればこの町の女性を襲っている吸血鬼はそのまま襲っているんだよなぁ。協会の存在を知っていればばれるのが怖くて力を毎回使うだろうし、血を飲めばその分回復もするもんだ。知らないなら使わない、というわけでもない。町で一人だけ襲うのと、その場所にとどまって毎週人を襲うのでは話が違う。警戒されるからだ。
中には鍵を開けて部屋に忍び込んで寝込みを襲うなんてのもある……しかし、ここの犯人はそれを一度もしてないから何かしらのポリシーでもあるんだろう。もしかしたらNKKの事を知らないだけかもしれないな、だってローカルな組織だから。
人のおまんまの心配をしている場合ではなかったな。うん、放っておいたらそろそろ大きな道に合流しそうだ。
俺が部活帰りと思われる女子生徒に襲いかかろうとしたその時、別の何かがその女性を背後から襲っている真っ最中だった。
「何……」
「むーっ……」
口をふさがれ、身体を動かしている少女はあまりにも無力すぎた。黒いマントで姿を隠し、ちらりと見えた顔、吸血鬼が血を吸うときにだけ見せる深紅の瞳、そして口元には鋭い牙が二本……月明かりに照らされている。
こいつは吸血鬼に間違いないっ。
俺はさっさとこんな仕事を終わらせたかったので嬉々としてその吸血鬼に殴りかかった。一応、両刃の剣とか家にある。そんなもの持って血を飲みに行くバカはいない。
人間だったら絶対に反応できないスピードで殴りかかった。相手はすぐさま反応してあろうことか掴んでいた女の子を宙に思い切り放り投げたのだ。
ぽーんとお月さまに女子生徒が照らされたのも一瞬。すさまじい悲鳴が聞こえてきたために俺はその子を助ける為に飛んだ。どの道、女子生徒に気を取られている間に相手は逃げてしまったので助けるしかないだろう。見捨ててアスファルトが血に染まるのは気分が悪い。
「よっ……っと」
「きゃあぁぁあ?」
近くの民家の屋根に降り立ち、そのままアスファルトの道へと降り立った。まー、空を飛んだの見られたりはしていないだろう。空に放り投げられて何かを見る暇なんてなかったはずだしなぁ……。
「ん、どうしたの」
俺の事を熱心に見てくる。
「今、空飛んだよねっ」
いやー、あははは……見る暇ある人はあるんだな。吸血鬼の特殊能力的な何かで記憶を操作しようか悩んだ……ただ、これを使うと前後数分の記憶が飛ぶ。眠らせたり、気絶させたりは結構長い時間できるけど記憶は残っているからな。選んで消せると言うわけじゃあない。
大体、記憶操作なんてしたらさっきの事まで忘れちゃうだろうし、もしかしたら犯人の顔を覚えているかもしれないからな。
「詳しい事は明日、この時間この場所で話す」
「あ、待ってよーっ」
一番厄介な性格の人間に目を付けられたんじゃないかと思った。あの時、記憶を消しておけばよかったと思ったのは次の日の事であった。
最終的に30話ぐらいでけりをつけたいと思っています。10話まではサブタイもなしですが、それ以降は二つに分けて話を進行させる予定です。