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第三話

第三話

 吸血鬼は日光に弱い。何故苦手なのかは吸血である俺でさえ知らん。

吸血鬼の医者か科学者に言わせると、血中に特殊な成分か何かがあるそうだ。それが日に当たると吸血鬼の身体にとって有害な何かになって許容範囲を超えると花坂爺さんに出てくるようなポチを燃やした後のような灰燼に帰すに違いないらしい。これ以上詳しい事は知らん、人間だってそうだろうよ。自分の体のことなんてほとんど知らないだろうし、専門家がいないと詳しいことだってわからないはずだ。

 吸血鬼の中にも学者肌と言う人がいたそうで、日焼け止めを作る会社を設立。日夜研究を重ね、俺らにとってその人が作った日焼け止めは必需品となった。

もちろん、犠牲の上に成功なんて存在しなかったそうで肌が永久的に鳥肌になってしまった吸血鬼や全身の毛が常に逆立ってしまった吸血鬼……他にも色々とやばい事になった吸血鬼がいたらしい。

 ともかく、犠牲となった吸血鬼の人たちのおかげで俺はこうやって日の下で活動できるのだ。科学って素晴らしいね、うん。俺、理科とか嫌いだけどな。

 前置きはこのぐらいにしておこう。今日やるべきことはこの町の被害者の数を改めて調べる事と、吸血鬼と思しき人物が日中も活動できるかどうかである。日焼け止めは当然ながら協会に所属している吸血鬼だけしか入手できない限定品なのだ。

「図書館だな、うん」

 地方紙とかを調べるなら図書館だろう。と言う事で、俺は図書館に向かったわけだ……途中、警察に聞いたりしてなんとかたどりついた場所は高校だったりする。警察で直接事件の事を聞けばいいじゃんかと思うかもしれない。いやー、ね、吸血鬼ってそういうのは苦手だったりするんだよ。

この町の図書館は高校の敷地内に作られていたそうで校舎とは別に地上二階、地下三階に及ぶ巨大図書館だそうだ。

 本好きにはたまらない場所だろうな。

 中に入り、新聞の置かれている場所へと移動する。とりあえず学ランを着ている為に周囲の生徒に怪しまれてはいない……いや、どうやらこの高校の制服はブレザーのようだな。ちょっとだけ注目を受けてしまった。

「はっ、いかんいかん…女の子にちょっと注目されたぐらいでぼーっとしちゃ駄目だ」

 俺の事を見ている女子生徒の中に吸血鬼がいるとも限らない。調査するときは目立たないようにと誰かに教わった気がする。

 新聞記事を持っていたメモ帳にまとめていく。

「……最初の被害者が襲われたのは半年前か。親父の奴、結構放置してたんだな……まぁ、すぐに断定できないか。一週間に大体二人襲われてるって結構な頻度だな……」

 被害者はすべて女性。しかも、十六歳から二十歳前の若い女性だけのようだな……襲われそうになったけど助かった女性は若づくりをしていてぎり二十代…吸血鬼も騙されたようだし…それで襲われている時間帯は午後六時以降だな。

 つまり、相手は協会にやっぱり所属しておらず、日中は襲えないってことだ。

「うーん…後は抜き取られる血の量が多くなっているってことか」

 とりすぎは体に毒である。お酒とか薬とか…あとは何があるっけ…別にいいか。とりあえず、血を飲みすぎた吸血鬼はさらに血を欲するようになり最終的には自分を制御できなくなる。こうなると大変でそれが太陽さんさん降り注ぐ日中でも関係なくあほみたいに出て行く。

 そうなったらどうなるか……苦しみながら血を求め、一滴でも血を飲めばその瞬間にお日様に焼かれて灰になるそうだ。なんでそうなるのかはいまだに解明されていないそうで、吸血鬼の数少ない学者たちが頭を抱えている。

吸血鬼御用達の日焼け止めを塗って拘束していた吸血鬼が逃亡、結果はやはり消滅したそうだ。どうも化学反応が起こっているみたいだねぇとこの前話を聞いた。

 ともかく、あまり人に迷惑をかけるのはよくないのと一応吸血鬼仲間である為、事件を起こしている吸血鬼と会って話をしなくてはいけないだろう。まぁ、話を聞いてくれない相手なら実力行使をするしかない……腕っ節には自信が無いのですぐさま逃げて救援を親父に頼む事になるだろうけどな。

「あら、あなたもしかして大仁義人君じゃないかしら」

「へ」

 振り返るとそこには教師っぽい人が立っていた。

「間違っていたらごめんなさいね、で、義人君かしら」

「え、ええ…あの、あなたは」

「私はあなたのクラスの担任なの」

「そう…なんですか」

「ええ、教科書とか持ってきてないようだけどあなたさえよければ今日のホームルームで転校生として紹介するわよ」

 四月の転校生ってかなり違和感あるな。絶対何かあっただろって勘ぐられるだろうし……いや、実際何かがあったからこっちに転校してきたんだけどな。家庭の事情じゃなくて吸血鬼の事情ってやつですよ、奥さん。

「明日朝から来ます。今日はちょっと調べ物で図書館に来ただけですから」

「あら、そうなの。勉強好きなのね」

「いや、そうじゃないんですけどね」

 先生はふと俺の握っていた新聞を覗きこんで一つの記事に目をやった。

「……羽津吸血鬼事件の事を調べてるのね」

「そうです。ところで先生の名前は…」

「ああ、ごめんね。私の名前は玉宮菜穂子。私も一度だけ吸血鬼に襲われちゃったのよ」

「そうなんですか。詳しく教えてもらえますか」

 これはまたラッキーと言うか、結構襲われていると言う事なんだろうな。

「……正確には襲われたっていうか押し倒されて、ちらっと相手は見て逃げて行ったんだけどね。吸血鬼かどうかわからなかったけど、きっとそうに違いないわ」

 なるほど、つまり先生は若づくりをしていた二十代後半の被害女性ってことか…。

「ところで、どうして大仁君はそんな記事を調べているのかしら。先生、手伝えることがあるなら手伝うわよ」

「あ、いえ……血が抜き取られるなんて珍しい話を引っ越してきたときに聞いたんです。それでちょっとだけ興味がわいたので調べてみただけですよ」

「そうなの?」

「はい…あ、先生、俺、ちょっと用事ありますから今日はこれで失礼します。また改めて明日来ますんで…」

 そういって俺は逃げるという選択肢を選んだ。もちろん、新聞記事はちゃんと戻しておいたから安心して欲しい。ただ、帰る時に先生が図書館の窓から探るような目で俺の事を見ていたのが非常に気になった。


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