第二十八話:み:吸血鬼
第二十八話
現代によみがえった吸血鬼を追い詰めた博士。彼は最終的に吸血鬼の血液から作り出された薬を吸血鬼に打ち込み、息の根を止めることに成功したのだった。
「くくく、これで全世界の吸血鬼を根絶やしにする事が可能なのだな」
顔をにやつかせ、液状になった元吸血鬼を足蹴にして博士は何処かへ消えて行った。
「んで、先生はこの薬とやらを作るつもりなんですか?」
須黒のいない部活動。当然、部員は二人中一人の俺だけだ。あとは先生が珍しくいる。どうも、アジトを突き止めたらしい。
「そうよ」
「そうよって、先生の持ってきた本は創作物ですよ。うまく作れるってわけじゃ…それに、出来たとしても実際に効くかどうかどうやって試すんですか」
「簡単よ。大仁君に打ち込めばすぐに結果はわかるわ。試作段階の物から徐々に打ち込んで行って一番効果が高かったものを改良、そして実戦に投入するから問題はないわ」
「……」
げに恐ろしきかな、この人は俺の事を実験台とマジで思っているようだ。
「そんな渋い顔しなくても大丈夫よ。これは冗談だから…本みたいに液状になったりしないから」
「ほっ…じゃあどうやって効果を確かめるんですか?」
「あら、そんなに死にたいの?」
「死にたくはないですけど吸血鬼を倒せないなら意味がないかなって思っただけです」
先生が準備している機械は注射器などだ。後は試験管とかそこら辺の理科室…主に生物室にあるようなものばかりである。異色なものとしたら弾丸と拳銃だった。
「詳しくは教えられないけど、大仁君の血から数種類の薬を既に作ってるわ」
「え?もうあるんですか…」
「ええ、試してみたいって言うのなら撃ってあげるけど?」
右手で銃の形を作って俺の頭を撃ち抜くような仕草をする。本当、この人を相手にしなくてよかったと思ってる。
「遠慮しておきます……出来ているのならなんで道具の準備しているんですか」
「大仁君から血を採ってそれに薬を使うのよ」
「血に何か異変が起こったら成功って事ですね」
「いいや、失敗よ」
「え?」
「この薬がそれこそ吸血鬼の全てを滅ぼせるというのなら頭のおかしくなった連中が絶対に欲しがるわ。もし、出回っちゃったら全世界の吸血鬼はあっという間に死滅するもの」
まぁ、そうだろうなぁ。吸血鬼を倒すために作ったものだ。吸血鬼を滅ぼしたい連中にとっては喉から手が出るほど必要なものだろう。
「でもね、安心していいわ」
「え?なんでですか?これって相当やばい代物なんでしょ?」
「一部の吸血鬼にとってはね……これは人間が恐怖を感じた時の血をすすった者だけに死を与えるものなのよ」
「つまり…?」
「つまり、良い、悪い吸血鬼の定義なんて曖昧なんだけど今回の吸血鬼は人を襲って血を吸っている。もちろん、血を吸うときに人間が悦に入るような分泌液を出していたりするけど多少なりとも吸っているでしょうから効果が期待できるわ。もちろん、あなたがこれまで生きてきた中で一度でも恐怖におののいた人間から血を吸っていると言うのなら……あなたの血は一瞬にして蒸発するわ」
恐ろしい話である。
「…多分、大丈夫です。生まれて十七年ぐらい経ってますけど人から直接血を吸った回数はちゃんと覚えていますし、襲った事はありませんから」
「そう、意外と若いのね」
「先生はどうなんですか?」
「……まず、撃ちこまれたら瞬時にミイラになるでしょうね」
そうとう悪い事をして生きてきたのだろう……しょうがない、長く生き過ぎた吸血鬼は精神のどこかがおかしくなってしまうとか聞いた事があるからな。
「あ、何か失礼な事を考えたわね?言っておくけど、たとえ私が人間だったとしても人を傷つけて悦ぶような性格だと思うわよ」
「先生、仮にも生徒ですからそういうことは言わないで下さい」
「……そうね」
先生は俺から採血した後、さっさと液体を垂らしていた。垂らされても血は一切変化が無い。
「ほら、ね?」
「よ、よかった……」
「で、これが私の血となると……」
シャーレの上に自分の指から血を流しこむ。そして、液体を注ぐと一瞬にして蒸発し、そこに残ったのはかすかな血痕だけだった。
「お、恐ろしい代物ですね」
「そうね……今回の相手はこうなる事を望んでいるのよ」
「え?」
いまいち意味がわからなかった。説明する気もないようで道具を片づけた後、先生は携帯電話を差し出した。
「今晩、七時前に校門前に集合」
「はぁ…で、この携帯電話は何ですか」
「今から須黒さんに電話をかけるのよ」
「何故ですか」
「立ち会ってもらう為。約束したからよ」
「約束って…」
電話帳に登録されていた須黒の名前を押す。するとすぐにコール音に変わった。
「女の子同士の秘密よ、男の子には教えないわ」
はっ、女の子だってさ。
そんな事を思った俺の耳、すぐ隣を何かすごく危ないものが通過していった。
「試し撃ちよ」
「……そ、そんな物騒なもんを撃たないで下さいよっ。当たったらどうするんですかっ」
「当たっても消えはしないんだからいいじゃない」
よかぁない。死ななかったとしても痛い思いをするのは間違いない。
『もしもし、先生?』
「あー、俺だ。先生からの伝言で…何時でしたっけ」
「今晩の七時よ」
「今晩の七時、学校前に集合してくれだってさ」
『………わかった』
俺にそれだけ言うと切ろうとした雰囲気が伝わってくる。何か言ったほうがよさそうだったのでいざ口にしようとしたところで電話を取り上げられた。
「もしもし、えっと……さ、帰っていいわよ」
「え」
「今日の活動はこれでおしまい。解散よ。今度は身体に撃ちこんでほしいっていうのなら残っていてもいいけどね」
そんな事を言われたら帰らなくてはいけない。
「失礼しまーす」
先生が須黒と何を話そうといしているのか気になる……気になるが、黙って帰らないと風穴を開けられる可能性が高いのでやめておいた。
ま、後で須黒に聞けばいいだけだからな。ところで、俺ってこの事件が終わったらどうなるんだろうな。この町にこのまま居るのか、それとも前の町に戻るのか……どっちなんだろうか。