表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/30

第十八話:み:ホラー

第十八話

 怖い話は様々な種類がある。それこそ話し手によって変わるし、アレンジの加えられたものは大体聞いていれば数多の話を聞いてきた者たちには大体わかるものだろう。涼しくなる為、ではなく、今回は使い回しの多い件について一言物申したい。

「そんなもの(念仏)聞かないよ」

 耳元でささやかれるパターンなら本当の話かどうかも怪しい。そもそも、白い服装に長髪、細い顎をした女が出てきたり、おかっぱ少女が出てくるといった話は怪しすぎる。ショートカットの幽霊が出てくる話なんてほぼ聞かないし、坊主頭の少年だっていいはずだ。兵隊の幽霊が出てくるならそれこそ、原始人の霊が出てきても不思議ではないだろう。

 夜中に幽霊の類は出るともいうが、他には夕方と夜の間、逢魔時に出ると言う説もあるのだ。実際、夕方と深夜、どちらに出やすいか試すために作者は隣町のはずれにある自殺者の多いと言われているダムに向かう予定にしている。



 この本を書いた作者が行方不明になった、そう帯に書かれていた。行方知れずになって半年以上が経っているらしい……

「全く、ライブに行くまでの時間つぶしに読むもんじゃないな」

 適当に本を見繕って買ってみたら失敗だったぜ。今日は怖くて眠れないかも。しかし、ライブ会場に着いてからどうすればいいんだろうなぁ。

 俺以外の乗客もどうやらライブが目当ての連中が多いらしい。徹夜組とか居るんだろうか?ともかく、はっぴを着ているところをみると相当なファンらしいな……。

 ふと、夕焼けを見る為に電車の外を見ると空を飛んでいる人型の何かが目の前を通り過ぎて行った。他の乗客は誰一人気が付いていない。いちゃついていたり、話しこんでいたりしていたからだ。

 あれはなんなんだ。きっと一般人ならそういうだろうな。あの飛び方、電車の中からでも鼻につく血の匂い、黒いマント……はさすがにつけてはいない。

 どうやら吸血鬼のようだ。これまで行動を見せなかったのに俺にとって大事なようが出来たら姿を現すなんて本当、ふざけてやがる。

 もちろん、俺には二つの選択肢がある。一つはりっこちゃんのお姿を生で見る為に吸血鬼を見なかった事にしてこのまま電車に揺られてライブ会場を目指すことだ。そしてもう一つは俺がこの町にやってきた本当の理由の為に頑張る事、だ。

「……しょーがねぇか」

 須黒の奴を誘わなくて(誘えなくて)正解だったな。もし、一緒にいたら何かしらの理由を付ける必要があったからな。ちょっとトイレに行きたくなったとかじゃ通用しないだろうからなぁ。

 車両の一番後ろまで移動し、辺りに人がいない事を確認してから窓を突き破って外に出る。そして俺はそのまま先ほどの吸血鬼を追いかける事にした。

 力の強い吸血鬼は飛ぶスピードも速い。頭が悪いが力は強いと言ったタイプは例外で能力表を六つに分けたレーダータイプの表で表すなら大体まとまった六角形になる。俺?俺はちょっと小さな六角形かな。

 何とか吸血鬼の背中が見えてきたところで既にふらふら……これから襲われたりしたら大変な事になるな。一方的な攻撃、俺はまるでサンドバックのように相手にもてあそばれて終わりだ。まぁ、吸血鬼の中に好戦的なタイプもいれば話し合いで解決できるような奴もいるので一概に俺がぼこぼこにされるわけでもない。

 吸血鬼が一人の少女に目を付けたおかげで何とか追いつく事が出来た。そして俺に気が付いていないのか少女から少しだけ離れたところで着地する。もちろん、俺も相手にばれないようなところから追跡を開始する。

 相手を仕留めたいのなら気の緩んだ瞬間…つまりは餌にありついているときに背後から襲えばいい。逆に話し合いで解決したいならば襲いかかる前に普通に声をかけることだ。声をかければ狙われている人間も助けられるし、未知数の吸血鬼を前にして食事を取り始めるとは思えない……と、親父は言っていた。

 しかし……どこかで見た事があるような後ろ姿だな。白衣なんて着てるし……。

 吸血鬼はターゲットの五十メートル近くまで接近している。そして、小走りし始めた。俺もそのあとに続く。まだ、声をかけるには早い。

「須黒さーん」

「……はい?」

 吸血鬼に声をかけられた少女は後ろ……つまりはこちらを振り返った。まるでパイナップルみたいな頭をした少女は白衣の吸血鬼を目に入れた後、電柱に隠れていた俺に視界を映して信じられないと言った表情をした。

「須黒さん、今日ライブがあるんでしょ?先生、応援してるから頑張ってきてね」

 そして俺は白衣の吸血鬼が誰だかようやく気がついた。俺の担任で、部活の顧問だ。

 吸血鬼は玉宮先生だったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ