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第十七話:ち:偉い人は高いところが好き

第十七話

 吸血鬼がどれだけ丈夫な存在なのか…疑問に持つこともあるだろう。よくある話じゃ銀の弾丸とやらで一発らしいな。俺自体銀の弾丸を喰らった事はない。ただ、親父は心臓に一発もらった事があるそうで感想を聞いたところ『それなりに痛かった』そうである。ちょっとグロテスクな話だが、それじゃあ首と胴体を離してみたらどうか?その状態を二週間保てば吸血鬼は死んでしまうらしい。江戸時代にさらし首にされた吸血鬼は己の首を探してさまよい、その光景を見た人たちが後世に『首なし武者の話』を伝えたそうである。

 ともかく、現行武器に対してめっぽう強い吸血鬼だ。それこそ専用装備ではないと倒すのは難しい。たとえ、俺みたいなへっぽこ吸血鬼だったとしてもな。

「ねぇ、義人君」

「なんだよ」

「……偉い人ってどこにいるのかな?やっぱり、屋上だよね」

「どうだろうなぁ」

 今からでも教室に連れて帰った方がいいのかもしれない。しかし、途中でまた面倒な事になるのもごめんこうむりたいものだ。結局、他にあてがない為に千華のいうとおり屋上へと向かう事にした。

 四階へ続く階段のところで見張りを見つけたため、千華に隠れているよう指示。手早く気絶させてパンツ一丁にしておいた。

「義人君、なんで裸にする必要があるの?」

 縛り上げている最中に尋ねて来たので物騒な代物を指差しておいた。

「そりゃ、目を覚ましてナイフとか隠し持っていたら逃げられて大変だろう。だからこうやって裸にしておくのさ」

「ふーん、そうなんだ。手慣れてるね?」

 そういうのは俺の手元を見て言ってほしいものだな。切らない限りほどけないし、ほどこうにも吸血鬼の腕力で縛っておいたから難しいだろう。

「あ、義人君…見張りがいるよ」

「ん、ああ…じゃ、気を付けて気絶させてくる」

「ちょっと待ってよ」

 廊下に出て行こうとした俺を階段踊り場まで連れ戻す。不謹慎だけど腕の部分にむ、胸が当たって……いや、何でもない。

「なんだよ?気付かれたらやばいだろ」

「あたしに作戦があるんだ」

「作戦って…俺がちゃちゃっと終わらせた方が早いだろ」

 出て行く、殴る、終わり…簡単スリーステップで見張りの人をあっちの世界に送ってあげられるんだからな。一番楽なんじゃないだろうか。

「それもそうだけどさ、もうちょっと目立たないやり方でやったほうがいいと思うんだ。さっきから義人君が見張りの人たちを壁にのめり込ませたりして校舎に被害が出ているし…」

「た、確かに…」

 非常事態と言う事もあってそれなりに対処させてもらっている…だが、やはりまずいかもしれない。

「それにさ、これ終わった後に僕がやりました~って義人君言わないでしょ」

「そりゃそうだろ。そんなことしたら柔道部とか空手部からお誘い受けるぞ」

 意外なところでアームレスリング部かもしれないな。

「だから、もうちょっと校舎に被害が出ないようにした方がいいよ」

「でもよぉ、今更やってどうするんだよ……」

「……そこの二人、両手を上げろ」

 後ろを振り返ると目だし帽の特殊兵みたいな見張りが俺たち二人に銃を向けていた。

「怪しい奴らだ」

「あ、あたしたちは全然怪しい奴じゃないですよっ」

「そうだ、俺たちはこの学校の生徒だ。自分の教室に行く為に一階から上がって来たんだよ」

「ちょっと、義人君っ」

「何、一階から上がってきただと?見張りがいただろう…動くなよ、動くと撃つぞ」

 もうっ、義人君のせいでこんな事になったんだからねっ。どうにかしてよっ。そんな千華の視線を受けて俺はため息をついた。

「あのー」

「なんだ……うっ」

 ちょっと睨んでやると相手は倒れてしまった。トランシーバーで誰かに連絡するつもりだったらしい。

「あれ、なんでこの人倒れたの。貧血かな」

「さぁなぁ、貧血なんじゃないのか。とりあえず、裸にして縛り上げだな」

 千華に説明するのが面倒な為になんで倒れたのかは伏せておくとしよう。きっと説明したところでうまく伝わらず『すっごーい、吸血鬼って目からビームも出せるんだ』と言われるに違いない。どうも最近、千華に『吸血鬼とはびっくり人間』と思われている気がする。

「そう言えばさ」

「ん、何だよ」

「一人捕まえてこの学校に何人でやってきたのかとか、目的は何だとか…色々聞いたほうがよかったんじゃないかな」

「……いや、俺もさ、考えてたよ。うん、屋上に一番偉い人がいるのならその人に聞けばいいだけだからな。さ、急ごう」

「えー、嘘っぽいよ」

 肉体的に優秀な吸血鬼は頭の方も優秀……と言うわけでもない。やはり、こればっかりは勉強とかして鍛えないと頭の回転が悪いみたいだな。

 次の見張りは捕まえようと心に固く誓ったはずだが、屋上までの道のりに一人もいなかったので諦めた。

「やっぱり、屋上だよ。普段鍵がかかっているはずなのにかかってないもん」

 なるほど、言われる通り開いているようだ。

「あー、千華」

「何?」

「お前も放送聞いただろ。多分、この扉にも爆弾が付いていると思うから下で待っててくれ」

「……わかったよ。下で義人君が勝てるように祈ってるよっ」

「そうか、ありがとよ」

 千華の後ろ姿を見送る。適当な事を言ってみたけど、あるわけないだろう。さすがに此処には爆弾なんて付いてないだろうな。だってさ、どう考えてもこの扉を開けるのは学校を占拠した奴らだろうし、絶対につけてないって、うん。



 ドアノブをひねって押してみると本日二度目の派手な音が校内に響き渡った。


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