第十五話:ち:反旗を翻す一生徒
第十五話
NKKでもちゃんと報酬は支払われる。無論、保護者などがNKKに所属しているならばそちらの方に振り込まれる。職を持っていない者は一人前と思われない為、身元引受人もいない吸血鬼はお金も貰う事が出来ない。
大抵の吸血鬼はちゃんと職を持っているし、学業を疎かにするようなものがNKKからの仕事をもらえると言うわけでもない。その為、報酬をもらっている吸血鬼の割合は全体的に見て少ないが川でおぼれている子供を助けたとかそういった行為を行うことによって一般の吸血鬼だってもらえるわけだ。
つまりは高校を占拠するような連中をけちょんけちょんにしてやれば、俺はかなりの額を手に入れる事が出来るのだ。
男は実に物騒なものを持って学校の廊下に佇んでいた。彼の仕事は今のところ見張り。高校時代にスカウトされてその道に入り、特殊部隊の一員として生活しているのだ。高校を襲撃した事に関しては特に何も思ってはいない。仕事は仕事と割り切るタイプなのである。
誰も見ていないからさぼっちゃえとか授業風景ってこんな感じなのかなぁなんて教室を覗いたりしない、プロだから。
先ほどの爆発音の時も動じることはなく、見張りが一人見に行った。そろそろ戻ってくる頃合いだろう。
「…ん」
気のせいだろうか…足元から何か音が聞こえてくる。男はしっかりと足元を確認しようとしてすごい速さで天井に頭をぶつける事となった。
「ふぅ…ったく、高校が占拠されるなんて信じられないね」
扉を開けたら爆発するし、テレビで見たような重武装した人がこっち来て俺に銃を向けてくるし……一体何が起こっているんだろう。もちろん、そんな恐ろしい相手にはそれなりの対処をさせていただいた。爆発で制服も吹き飛んじまったけど、トイレで誰かの忘れ物の体操服を手に入れられたからラッキーだったかな。
「…この階には見張りがいないのか…ってここは五階か。三年生の教室がいっぱいだよなぁ……」
他に見張りは居ないのだろうか、スパイ映画よろしく壁に背中をくっつけて近くの廊下へと移動する事にしたのだった。壁をこつこつと叩いても頭に『!』マークが出たかどうかも確認できない。
「うん、いないな。とりあえず俺のクラスの生徒達も監禁されているだろうから偶然を装って助けに行こう」
三階に下りる途中でも見張りを一人発見したので背後から強襲。
その後はひん剥いて廊下の壁に貼りつけておいた。ついでに血も吸っておいたので目を覚ましたとしても貧血で倒れるに違いない。
「今思えば三年生を助けておけばよかったかな……いや、後で助ければいいか」
後悔するよりも前に進むことだけを考えよう。もし、負傷者が出たとしても俺のせいではない。俺はこの学校の何の変哲もない生徒だ。
曲がり角を曲がって見張りっぽい人が立っていた。すぐさま股間を蹴りあげたのだが反応が無い。焦った俺は腹部に五発、そしてアッパーを格ゲーよろしく綺麗に決めて相手を吹き飛ばした。壁にめり込むなんてそうそうみられないだろうな。
「……あ」
そしてその見張りがトイレから出た時に遭遇した相手だと言う事に気が付いた。もちろん、既に気絶している。
「…あまり手加減せずに殴ってしまってすみませんでした」
間違って相手を傷つけてしまった時は急いで謝らなければならない。しかし、あっちが悪いのである。学校を占拠した挙句に爆弾なんて取り付けるから罰が当たったんだと思ってもらいたいものだな。
自分の教室前までやってくると扉の部分に爆弾が取り付けられていた。『爆弾です。取扱い注意』と書かれているから間違いないだろう。
「うーん、どうすりゃ解除できるんだろうか」
もしかしたら専用の道具とか必要かもしれないな。いやいや、赤か、青か、そういった選択をして初めて解除できるような代物かもしれない。
もう少し情報が欲しかった俺はじっくりと爆弾を眺めた。
『ON/OFF』
電源の下には扉を開けるとスイッチが即入るように仕掛けられていた。とりあえず、爆弾ごと引っ張ったら扉が開いてしまった。
「………」
「あ、義人君っ」
当然、俺の教室だから千華がいるわけで、ついでに授業が行われていた。授業中にトイレに行ったんだから戻ってきても授業中だろうな。しかし、普通に授業をしているっておかしくないだろうか。
「あのー、先生、今って学校占拠されてませんか」
「そうだが、授業中だろう。それに廊下に出たら扉に付けられている爆弾が爆発するそうだぞ。さっき爆発音がトイレの方から聞こえてきたのだからまちがいないだろうな」
その通りである。被害者は俺だ。
「でも、今なら逃げられますよ」
「何、そうなのか」
「ええ」
おおー、そんな声をクラスメートたちがあげる。
「多分、見つかったら撃たれるんじゃないかなぁ」
千華の一言でクラスはまた静かになった。
「それに、占拠している人たちがここにきたらまずいんじゃないかな。扉も壊れてるし…」
「大仁、扉を直してきなさい」
「わかりました」
「あ、私も手伝うよ」
千華と一緒に廊下に出て扉をはめなおす。もちろん、爆弾も元に戻ってしまった。
「これさ、開けたら爆発するんだよね?」
「そりゃー、そうだろうな。さっき扉開けたら爆発したから間違いないだろうな」
「え、じゃあさっきの爆発音って義人君だったの?」
「ああ、開けたらいきなり爆発したからびっくりしたぜ」
「なるほど、だから体操服なんだね」
納得したとばかりに頷いている。
「怪我とかしてないの?」
「あの程度なら大丈夫だよ。とりあえず、他の見張りも何とかしてくる。そうしたらまた呼びに来るから教室内にいるといい」
「えー、あたしもついてくよ」
「いや、危ないだろ。相手は銃を持っていたからなぁ。近くで見たからまちがいない、あれは本物だな、うん」
そんな時に千華から何か手渡された。
「なんだこれ」
「もうっ、忘れちゃったの?今朝あげた奴だよ」
「あー、あれね。で、これが何か役に立つのかよ?」
役に立つよと頷いて千華はその包みを俺の前で広げてくれた。
「じゃじゃーん、吸血鬼の必須アイテムのマントだよっ」
「………」
「前々から義人君が吸血鬼って言っていても何かおかしいなぁって思っていたんだけどこの前やっとわかったんだ。マントを付けていないってね。だから作ったんだよっ……って、あれ、義人君?」
「……いや、別にマントはいらねぇよ」
「あ、そっか。マイマント持ってるってことだよね?でもさでもさ、せっかく作ってあげたんだからこれからこっちを愛用してくれると嬉しいんだけど」
「……マントはもってねぇよ」
「じゃあよかった!はい、これをこうしてこうやって……出来上がりー」
裏地は真紅の黒マント。これを着用すればあっという間に貴方も吸血鬼に……はぁ。
「それにね、襟も立っているから…横から見られたり、後ろから見られたぐらいなら義人君だってばれないと思うよ」
「…なるほど」
「うん、義人君はヒーローだからね。顔はちゃんと隠さないと駄目だよっ」
そういって千華は俺に親指を立ててくれた。
「じゃ、行こっか」
「…いや、あぶねぇよ」
「一般人はヒーローが護らないと駄目だよ。だから危なくなったら護ってね」
「……はぁ、わかったよ。その代わり、俺の言う事はちゃんと聞いてくれよ」
「はーい」
大丈夫なんだろうか…かなり不安だ。