第十二話:み:ファンタジー
第十二話
アステラッド王国から北へ進む。途中、二つの村を挟むことになるが、その先にはミハラ荒野が広がっている。
「姫、直に吸血鬼の根城につくころでしょう」
「そうですか」
「ええ、これからは気をつけて進みましょう」
ミハラ荒野の先に城をかまえる吸血鬼は王国の人々を襲い、近隣の村をも恐怖の底へとたたき落としていた。
数度の討伐隊が組まれ、幾度となく争いがおこったりもしたのだが誰一人としてこの吸血鬼を倒せたものはいない。
数えて十七の歳になった姫は自ら討伐隊に名乗り出て少数精鋭で倒すことを王に誓ったのだ。
「姫、あれを見てください」
宮廷魔術師が指差す先には暗雲が立ち込めていた。
「あれは…」
「…大仁君?」
「うわ、須黒かよ…驚かせないでくれ」
少々集中しすぎたようである。下駄箱前で偶然出会った須黒美咲に声をかけると図書館に行くとのことでついてきたのだ。
羽津吸血事件の新聞をもう一度読もうかと探していたら吸血鬼の小説を見つけたのでついつい読んでしまった。絵は最近の萌え~が入った感じのもので少し残念だけどな。
「…ごめんね」
「いや、もういい。どうせ最後まで読むつもりはないから」
持っていた小説を本棚に戻し、鞄を持って立ち上がる。
「で、須黒は何の本を借りにきたんだよ。まさか呪術とかそんなんじゃないだろうな」
暗い、話し方が独特、影がある…ファーストコンタクトなんて男子トイレの床だったからな。ちょっとした学校の怪談だ。
「…呪術とかじゃないよ」
「そりゃそーだよな。そんな本が図書館にあるわけ…」
「…家にたくさんあるから借りる必要ない」
「………」
ま、まぁ、趣味は多様でいいんじゃないかな。
「じゃあ何借りたんだよ」
「…………」
黙って借りた本の後ろに顔を隠した。俺は緑の文字で書かれた文字を読む。
「えーっと、『友達と仲良くする方法(序)』か」
「………」
読まれたことでさらに恥ずかしくなったようでさらに頭を隠すようにしている。どうでもいいけど、本の下から顔が出ちゃってるぞ。
「…私たち…友達…なんだよね」
「あ、ああ」
そう言ってくれるのはうれしい、しかし、無表情でどうでも良さそうに言うのはやめてほしいな。さっきみたいに本で顔を隠すとかしてくれるともっと嬉しいんだが。
「…これで大仁君と仲良くなって友情波を出す」
聞きなれない単語である。一体友情波ってなんだよ。
「で、仲良くなるにはどうしたらいいって書いてるんだ」
「………第一ステップ『同じ部活に入ったり、グループに所属しましょう』ってある」
「同じ部活…ねぇ」
二年でこっちに転校してきたから部活なんて入ってないな。向こうでは一応入っていたんだぜ?『古城研究会』って部活だな、うん。
「…大仁君の部活は?」
「俺はまだ転校してきて間もないからな。入ってねぇよ」
「……そう」
しばらく考えてから俺を置いて図書館から出ていく。
「あ、須黒っ」
「図書館では静かにっ」
「すみませんっ」
図書委員に頭を下げてあわてて須黒のあとを追う。帰るつもりなのかと思って追いかけるも、下駄箱とは違うほうへと歩いていく。
「え、どこに行くんだよ」
「部室。先生に大仁君の入部届けを持ってく」
「持ってくって…」
須黒が入っている部活って何だろうか。どうせ黒魔術同好会とか山羊を生贄にする会なんてそんな暗いものなんだろうな。そんなところには絶対に入らないぜ。
俺が連れてこられた場所は理科室。うーん、何とも言えない薬品の匂いが俺の鼻を襲うぜ。
「ここが部室か」
「…うん、入って」
須黒はさっさと扉を開けて中に入る。俺もそれに続いた。
「あら、須黒さん」
「…先生、新入部員」
そこにいたのは俺の担任をしている玉宮菜穂子先生だった。ちゃんと覚えているだろうか?俺が初めて図書館に行った時に出会った人物である。
「あのー、先生」
「何かしら」
「この部活って名前何ですか」
「須黒さん、教えてないのね」
そんなことをいう先生に須黒は本日借りてきた本を見せていた。しばらくの静寂を経て、先生は納得したようで俺にこういうのだった。
「この部活はね、『吸血鬼研究会』よ」
「え…」
その後、あれよあれという間に俺は『吸血鬼研究会』の部員となってしまった。
こっちの偶数話ではいろんな話を入れていきたいと思っています。勿論、義人がやってきた事件も同時に進行していく予定なので期待しないで待っていてください。