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【第5話:手作り乙女ゲームシステムと、完全に手遅れな学園アイドルの除霊スタイル!】

読者の皆様、こんにちは。今日も今日とて、脳内が現実逃避という名の異世界へ旅立っている作者です。

最近、タイと日本の間で「カップ麺のお湯をレジの前に注ぐか後に注ぐか」という、なんとも熱い(温度的な意味でも)論争が起きていたみたいですね。

正直なところ、作者としては「お腹に入れば同じじゃない?」という悟りの境地に達しているので、どっちでもいいかな……なんて思ったりしています。

ただ、これを無意味に科学的な視点で考察するなら、あれは『空腹による相対性理論のバグ』と言えるでしょう。お腹が空きすぎると、レジに並んでいる3分間が3光年くらいに感じられる。その結果、時空を歪めて先に熱湯を召喚してしまう……。科学(というか妄想)って奥が深いですね。

まあ、お湯の順番よりも、この物語の展開がどうなるかの方が重要です! というわけで、本編をどうぞ。

翌朝。夏の爽やかな陽光が黒瀬家の窓から差し込んでいた。窓の外からは小鳥のさえずりがチュンチュンと聞こえ、まるで日常系スライス・オブ・ライフアニメのオープニングのような、心癒される平和な朝……。

だが、黒瀬明くろせ・あきらにとって、この世界は昨晩の時点でとうの昔に崩壊していた。

「ガシャァァン! カンッ! ズガガガガッ!!」

一階のキッチンから、まるで第三次世界大戦が勃発したかのような轟音が鳴り響いた。玄関の床で一晩中丸まっていた明は、ビクッと飛び起きた。

3ヶ月間徹夜したパンダのようなドス黒いクマを擦りながら、明は己の魂の抜けた肉体を這わせるようにして、爆発音の発生源へと向かった。

キッチンを覗き込んだ瞬間、彼の死んだ魚の目は眼窩からこぼれ落ちそうになった。

「ロックンロォォォル!! 燃え上がれ! 魂の聖なる炎!! 量子鉄鍋の力よッ!!」

60年代の革ジャンを着た父親・竜二の幽霊が、ガスコンロの前にフワフワと浮遊していた。

半透明の霊体である彼は現世の物体に触れることができない。そこで竜二が編み出した解決策……それは彼が『ロックの念動力サイコキネシス』と呼ぶ力(要するに、霊体の血管がブチ切れそうなほど目を血走らせて凝視すること)を使って、宙に浮かせたフライ返しでチャーハンを炒めることだった!

問題は……親父のサイコキネシスが全く安定していないことだ!

炒飯の米粒、豚の挽き肉、そして卵がキッチンの天井めがけて縦横無尽に飛び交い、醤油が空中でミニ竜巻のようにキリモミ回転している!

「凄いわ、あなた! エフェクトが超ド派手! 飛び散るお米があなたのホログラムをすり抜ける時の光と影の描写、パーフェクトよ!」

ピチピチの16歳になった美月オカンは、星凛高校の女子制服をフル装備した姿でダイニングチェアの上に立ち、iPadのシャッターを連写していた。彼女の漫画『JUST HiT』のアクションシーンの作画資料にするためだ。

「オカン……親父……」明は喉から絞り出すように掠れた声を出した。「朝っぱらから、キッチンで……何やってんだよ……」

「あら! アキラ、おはよう!」美月は満面の笑みで振り返った。「お父さんね、アキラが学校に持っていくお弁当を作ってくれてるのよ! 光の速さで炒めた特製『霊体ガパオ・激辛乾燥唐辛子10本入り』だって!」

「物理干渉できないから、念動力で料理してるんだよ、息子よ!」竜二はパチンとウインクを決めた。(その間もフライ返しは宙を舞い、換気扇にガンガンぶつかっている)「これぞ魂とタイ料理のフュージョン・アート! ガパオの暴力的な辛さと、父さんの卵焼きソウルが衝突することで生まれる抗酸化エネルギーは、来世までお前の目をバキバキに覚醒させてくれるぜ!!」

明はこめかみを押さえた。血圧が限界突破しそうだ。

「作らなくていい! 今すぐやめろ! キッチンが地獄絵図になってるだろ! それに『量子ガパオ』とかいう妄言を吐く幽霊が作った弁当なんて絶対に食わねえからな!!」

少年はコンロに突進して火を消し、虚空からフライ返しを叩き落とすと、両親をキッチンから追い出した。キッチンの惨状を片付け(そして親父に念動力の永久使用禁止令を出し)、学校へ向かう頃には、明のHPはすでにゼロに近かった。

——星凛高校への通学路。

本来なら爽やかなはずの朝の通学風景が、明の目には完全に『狂人のパレード』に映っていた。

この世の全ての不幸を背負ったような顔で前を歩く明。その横には、女子高生の制服を着てご機嫌に鼻歌を歌う美月。

そして何より頭が痛いのが……竜二の霊までフワフワとついてきていることだ!

「親父……なんでついて来るんだよ。家で留守番してろよ!」明は歩道から50センチ浮いている霊に向かって吠えた。

「何言ってやがる! 俺は愛する妻を守る『守護霊』としてついて行くに決まってるだろ!」竜二は(存在しない)筋肉をアピールするポーズをとった。「こんな美少女の姿になった美月を、飢えた男子高校生の群れの中に放り込めるか! もし母さんにちょっかいを出す命知らずな野郎がいたら、俺が『覇王色のロックンロール』でチビらせてやるから見てろ!」

「そもそも他の奴らに親父の姿が見えるわけねーだろ!」

「おっ、アキラったら心配ご無用よ!」美月がiPadを掲げた。「お母さんね、脳内の視覚設定をアップデートして、お父さんのことをお母さん専属の『スタンド』として認識するようにしたの! 漫画みたいで超クールでしょ!」

このオカン、どこまでも漫画脳(中二病)かよ! 狂いそう! 明は心の中で絶叫した。

そんな3人(2人と1匹の霊)が星凛高校の校門前に到着した時、彼らを待ち受けていたのは風紀委員でも生活指導の教師でもなかった。

それは、明が思わず前のめりに転びそうになるほど、常軌を逸した光景だった。

「そこまでよ!! この悪霊どもッッ!!」

校門前に甲高い声が響き渡る。登校中の生徒たちが何事かと足を止め、好奇の目で野次馬の輪を作っていた。

その輪の中心にいたのは……学園のアイドル、橘陽菜だった。だが、今朝の彼女の姿は『アイドル』という言葉から銀河系レベルでかけ離れていた!

陽菜は指定の制服ではなく、なんと真っ白な『陰陽師』の装束を身に纏い、首には巨大なニンニクを繋ぎ合わせたネックレスを3重に巻いていた。右手にはバカでかい十字架、左手にはペットボトル(マジックで『九つのお寺で祈祷済み・聖水』とデカデカと書かれている)、そして極めつけに、額には黄色い『おふだ』が貼り付けられていた!

「ひ、陽菜……なんでお前……そんな『多国籍除霊ミックス』みたいな格好を……」明はあまりの痛々しさに、今すぐアスファルトの隙間に潜り込みたくなった。

「アキラくん! 迎えに来たわよ!」陽菜は世界を救う勇者のような悲壮な顔で、美月に向かって十字架を突きつけた。「昨晩、私は家に帰ってから一晩中ネットで調べ尽くしたの! そして全ての真実に辿り着いたわ! その女は人間じゃない! アキラくんの生命エネルギーを吸い尽くそうと憑依している、『遺伝子組み換えされた宇宙人の九尾の狐の悪霊』なんでしょ!!」

「どんな検索の仕方したら、そんな宇宙規模の結論に行き着くんだよ!!」明のツッコミが炸裂した。

「私を誤魔化そうったって無駄よ! 昨日の夜、この目でバッチリ見たんだから! そいつはアキラくんに変装した上に、頭の上に男の幽霊のホログラムまで浮かべてた! まぎれもない宇宙人ファミリーよ!」陽菜は荒い息を吐きながら高らかに宣言した。「でも安心してアキラくん! あなたの彼女である私が、YouTubeで学んだ除霊術で奴らを退治してあげる!!」

陽菜が『聖水』のペットボトルを振りかぶったその時。

美月は突如として、大いなる真理を発見したかのように目をキラキラと輝かせた。彼女は素早く自分のスクールバッグをごそごそと漁り始めた。

「あっ! もしかしてこれ……乙女ゲームの『ヤンデレルート確定イベント』じゃない!?」美月は最高潮の興奮状態で呟いた。「ヒロインが主人公への嫉妬で完全に理性を失ってる! まさにクライマックスシーン! いけないわ、VNビジュアルノベルゲームの開発者として、この神イベントをただ見過ごすわけにはいかない!」

美月はバッグの中から、(なぜか用意していた)巨大なプラスチックボードを取り出した。そこには、大きな文字で書かれた『3つの選択肢』が貼り付けられていた。

彼女はそれを自分の顔の前に掲げ、明の目の前に突きつけた。まるでゲームの『選択肢ウィンドウ』のように!

「さあ、主人公! 手作り乙女ゲームシステムが起動したわ! 物語を進めるための選択肢を選んでね!」美月は機械のシステム音を真似たモノトーンの声で言った。

[ 選択肢が出現しました! 制限時間10秒! ]

▶ 選択肢 A: 陽菜を強く抱きしめ、耳元で「君だけを愛してるよ、ヤキモチ焼きの子猫ちゃん」と囁く(好感度+100)

▶ 選択肢 B: 「お前、頭おかしいだろ! 俺の人生に関わるな!」と怒鳴りつける(バッドエンド突入。陽菜が包丁を取り出す)

▶ 選択肢 C: 必殺スキル【プラーラー(発酵魚)メテオ・ストライク】を使って陽菜を気絶させる!(格闘ゲームルート解放)

「オカン、何やってんだよぉぉぉ!! そのふざけた選択肢ボードを今すぐしまえ! これは現実だ、乙女ゲームじゃねえんだよッ!!」明は絶叫し、美月の手からボードを奪い取ろうとした。

「チクタク……チクタク……制限時間が迫ってるわよ主人公! 選ばないと、システムが自動的に『選択肢 C』をランダム選択するわよ!」

「カウントダウンすんな! だいたいなんだよその発酵魚スキルは! なんで乙女ゲームにそんなもんが実装されてんだよ!」

親子が選択肢ボードを巡って揉み合っている様子を見て、陽菜の怒りゲージはついに限界を突破した。残されたわずかな理性は完全に吹き飛んだ。

彼女には、明が宇宙人の悪霊(美月)の持つ謎のボードによって、強力な洗脳魔法をかけられているようにしか見えなかったのだ!

「アキラくんから離れなさい、この悪魔ァァッ!!」

陽菜は金切り声を上げ、『九つのお寺で祈祷済み・聖水』のキャップを開け、美月めがけてありったけの水をぶち撒けた!

「ザパァァァッ!!」

しかし、その水しぶきが16歳のオカンの顔にかかる直前……黒瀬家の(自称)ヒーローが立ちはだかった!

「やめろォ! ロックンロール・プロテクションッ!!」

幽霊の竜二が凄まじいスピードで妻の盾となり、聖水はその半透明の霊体に直撃した!

「ジュワァァァァァァッ!!」

聖水が霊体にぶつかった瞬間、まるで熱した油の鍋に氷を放り込んだかのような激しい音が鳴り響いた!

「な、何が起きたの!?」その場にいた全員が目を剥いた。

通常、悪霊が聖水に触れれば、悲鳴を上げて蒸発して消え去るはずである。……だが、竜二の霊体は『怨念』や『闇の力』で構成されているわけではなかった。

彼の霊体は、『量子フワフワ卵焼き次元跳躍理論』と『霊体ガパオ・激辛乾燥唐辛子10本入り』のエネルギーによって構成されていたのだ!!

聖水(H2O+お経)が、フワフワの卵焼き霊体と衝突した結果……人類史上最も奇妙な『霊的化学反応』が引き起こされた!!

「ギャァァァァッ!! 熱い熱い熱い! いや! 熱くない! なんだこれ……ふ、膨らんでるぅぅぅぅ!!」

竜二が絶叫を上げた。なんと、革ジャンを着た彼の半透明の体が、風船のようにみるみるうちに膨張し始めたのだ!

通常サイズの人間から、二倍! 三倍! 四倍!

彼の質量を持たない霊体は、まるで『黄金色に輝く巨大な卵焼きの雲』へと変貌し、校門周辺には香ばしい卵焼きの匂いが猛烈に立ち込めた!

「うおぉぉい!! 親父が『卵焼き味のミシュランマン』みたいな巨大マスコットになっちゃったぞ!!」明は究極のショック状態で己の父親を指差した。

「きゃああああっ!! 悪魔が巨大化したぁぁ!! 退魔の呪文が効かないぃぃ!!」陽菜は顔面蒼白になってへたり込み、ガタガタと震え出した。額のお札は風に乗って虚しく飛んでいった。

「おおおおっ!! 第二形態のラスボス降臨ね! 隠しイベントだわ! 最高! 霊体がフワフワに膨張する光と影のシミュレーション、めっちゃリアルよ!!」

美月は恐怖するどころか、頭上に浮かぶ『巨大卵焼きバルーン幽霊』と化した夫に向かって、狂喜乱舞しながらiPadで写真を撮りまくっていた。

「アキラ! 美月! 膨張が止められねえ! ガパオ卵焼きのエネルギーがオーバーロードしてる!!」

上空から竜二の声が響いた。拡声器を通したかのように無駄にエコーがかかっている。「親父、このまま成層圏まで飛んでいっちまうぜ! あとの黒瀬家は頼んだぞ、バカ息子!! ロックンロォォォル……ネバーダァァァァイ!!」

言い残すと同時に、竜二の巨大卵焼きバルーン霊体は、ふわり、ふわりと高度を上げていった。

校門の桜の木を越え、広大な青空へと吸い込まれ、やがて白い雲の彼方へと消えていった……。後に残されたのは、ほのかな醤油とコショウの香りだけだった。

異常すぎる超常現象を前に、登校中の数百人の生徒たちがポカンと口を開けて静まり返る中……。

黒瀬明は、コンクリートの地面に両手をつき、四つん這いの体勢でうなだれていた。

彼の死んだ魚の目は、すでに輪廻転生のことわりから解き放たれ、一切の感情を失った涅槃ニルヴァーナの境地に達していた。

陽菜は巨大な十字架を抱きしめたまま震え、「世界が終わる……」と涙声で呟いている。

そして美月……16歳のオカンは……ご機嫌な鼻歌を歌いながらiPadの画面をスワイプしていた。

「VNゲームのボスモンスターの神資料がゲットできちゃった! アキラ、今日はとっても良い日になりそうね!」

明は何も答えなかった。ただ、果てしない疲労感と共に、一筋の涙が頬を伝ってコンクリートに落ちるのを放置した。

まだ一時間目のチャイムすら鳴ってないのに……。俺の高校生活……完璧なまでに終了したよ、神様……。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

さて、前書きのカップ麺事件の件ですが、結局のところ「郷に入っては郷に従え(現地のルールを守ろう)」というのが一番平和的な解決策なんでしょうね。作者も次からコンビニに行くときは、しっかりお会計を済ませてから、3分間の瞑想(という名のスマホいじり)を楽しもうと思います。

話は変わりますが、皆さんはこの物語を読んで「お、意外と悪くないじゃん」と思ってくれましたか?

もしそうなら、カップ麺にお湯を入れて待つ間のその隙間時間で、ついでにブックマークや評価をポチッとしていただけると嬉しいです。

「別にしなくてもいいけど、してくれたら明日の作者の夕飯がカップ麺からちょっと豪華なカップ麺にランクアップするかも……」くらいの、ゆるい気持ちでお願いできればと思います。

それでは、また次回の更新でお会いしましょう!

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