【第4話:というか……親父が半透明の幽霊になって科学のトンデモ方程式を語ってるのに、なんでオカンは全くビビってないんだよ!】
読者の皆様、こんにちは。執筆のしすぎで脳内が古代ローマ帝国までタイムスリップしている作者です。
皆さんは、夜眠れない時にふとこんな疑問を抱いたことはありませんか?
『古代ローマの英雄、ジュリアス・シーザー(カエサル)の“股間のエクスカリバー”は、史実の偉大さに比例して本当にデカかったのか?』と。
これは歴史学と流体力学における最大のミステリーです。
考えてみてください。ガリア遠征において、彼があれほどの機動力を発揮できた理由。それは彼の『古代ローマの槍』が規格外の質量を持っていたため、下半身の重心が安定し、どれだけ馬上で揺られても体幹がブレなかったからではないでしょうか?
さらに、彼らが着ていたトガ(布を巻きつけるだけの服)。あんな風通しの良い服を着ていたのは、巨大すぎる『帝国の柱』が放つ熱量を逃がすための、高度な空冷式冷却システムだったと推測できます!
……というわけで、作者の脳細胞がルビコン川を渡って戻ってこなくなる前に、本編をお楽しみください!
黒瀬家の玄関先で巻き起こったカオスは、もはや限界点を突破して制御不能に陥っていた。
自ら明の彼女を名乗る学園のアイドル・橘陽菜は、キャパシティを完全に超えた光景を前に、阿鼻叫喚の地獄を見たかのように瞳をカッと見開いて床にへたり込んでいた。
陽菜の目に映っていたもの。それは――
顔面蒼白で立ち尽くす『本物の明くん』。
(漫画の作画資料のために息子の制服を着てコスプレしている16歳姿の母親である)『偽物の明くん』。
そして、天井をすり抜けて「ロックンロォォォル!!」と叫びながら降臨した、60年代ロックスターの格好をした『半透明のオッサンの幽霊』。
「お、お化けぇぇっ!? 宇宙人!? 国家の極秘クローン実験!? きゃあああああああっ!!」
陽菜の悲鳴は、窓ガラスにヒビが入りそうなほどの超高音域に達していた。少女の生存本能がフル稼働し、彼女は陸上の日本代表選手もかくやという驚異的なスピードで立ち上がると、クルリと踵を返し、振り返ることなく黒瀬家の敷地から全力ダッシュで逃亡した。
後に残されたのは、舞い上がる土埃と、夜の路地裏へと消えていく悲鳴の余韻だけだった。
「待て、陽菜! 誤解だ! 違うんだよ! 戻ってこーーーーい!!」
明は虚空に向かって必死に手を伸ばし、叫んだ。だが時すでに遅し。少女の姿は闇の中へと消え去っていた。
伸ばした手はそのままに、ポカンと口を開けて固まる明。彼の『死んだ魚の目』は、かつてないほどの深い絶望に染まっていた。
明は己の運命を悟った。明日の朝、星凛高校の校内には「黒瀬家は宇宙人研究施設だった」というヤバすぎる噂が光の速さで広まっているに違いない。
少年は、陽菜の後を追って魂まで抜け出てしまいそうなほどの特大の溜息を吐いた。伸ばしていた腕を下ろし、「ガチャリ」と玄関の鍵をかける。そしてドアを背にしてズルズルと座り込み、この世の終わりみたいな顔でうなだれた。
よし……。とりあえず招かれざる客は逃げ帰った。あとはこの『身内の問題』を片付けるだけだ。
明はゆっくりと顔を上げた。
目の前には、腕を組んで小首を傾げ、「あらあら?」という顔をしている(男子制服&ショートウィッグ姿の)母親。
そして、地上から約10センチほど浮遊しながら、自慢のリーゼントヘアを櫛で整えている(半透明の)父親の霊。
さっきから……どうしても引っかかっていることがある。
明はジト目で美月を見つめ、次に竜二の霊を見た。
「ちょっと待て……」明は沈黙を破り、ポツリと呟いた。「オカン……一つだけ聞かせてもらっていいか?」
「ん? なあに? さっきのお友達、すごい勢いで逃げていったわね。きっと巨大なゴキブリでも出たのね」
美月は、先ほどの猟奇的ホラー展開がまるで日常のワンシーンであるかのように、ケロッとした顔で答えた。
明のこめかみに青筋がピキッと浮かんだ。
「ゴキブリじゃねーよ! お化けから逃げたんだよ! 宇宙人から逃げたんだよ! この家の異常事態から逃げたんだよッ! ……いや、今はそれはいい。俺が本当に聞きたいのは……」
少年はブルブルと震える指で、空中に浮かぶ半透明の親父を指差した。
「親父が半透明の幽霊になって家の中をフワフワ浮いてるのに、なんでオカンは全くビビってないんだよッッ!!」
明の魂のツッコミが家中に響き渡った。
そう、これがこの状況における最大のバグだ! 夫が幽霊になって天井をすり抜けてきたというのに、この母親は恐怖するでも、ショックを受けるでも、悲鳴を上げるでもなく、まるで壁に張り付いたヤモリでも見るかのようにスンッとしているのだ!
美月はパチパチと瞬きをし、夫の霊を頭の先から足の先までマジマジと見つめた後、クスクスと笑い出した。
「ビビるって、なんで? お母さん、むしろ感動してるのよ!」
美月は竜二の半透明な体に近づき、彼の着ている革ジャンの袖を撫でようと手を伸ばした。しかし、彼女の手はスカッと夫の体をすり抜けてしまった。
「うっわぁぁぁ! 最近の3DホログラムAR技術って、ここまで進化してるのね! 触れない! 透け感も超リアル! おまけに物理演算に基づいた影の落ち方まで完璧じゃない!」
美月は目をキラキラと輝かせ、夫の霊に向かって満面の笑みを向けた。
「あなた! 私のために、アメリカから最新鋭のホログラム投影機をこっそりお取り寄せしてくれたのね! もう、気が利くんだからぁ~♡」
「は……はい……?」
明の口がアホみたいに半開きになり、脳の処理装置が完全にショートした。
「さっきお母さん、言ったでしょ? 『JUST HiT』の表紙モックアップを描いてるって! あとね、こないだお父さんにLINEで愚痴ってたのよ。最近、乙女ゲーム(女性向け恋愛ノベルゲーム)の制作プロジェクトもやりたくて、色んなポーズの『キャラの立ち絵』の資料が欲しいなぁって!」
美月はものすごい熱量で捲し立てた。
「2Dのイラストをトレスするだけじゃパースが狂うし、昔ながらのアナログ原稿でペン入れするのって難しいのよ! 消しゴムかけられないし、一発勝負でミスったら終わり! また一から資料探しよ! だからお父さんに『部屋の真ん中に置けて、360度グルグル回せる3Dモデルがあれば作画の資料にしやすいのになぁ』って言ってたの……。そしたら、まさかお父さん、こんな大盤振る舞いして、自分の姿をしたホログラム投影機を家に送ってくれるなんて! 愛してるわ!」
明は両手でこめかみを強く押し込み、ズキズキと痛む頭をマッサージした。
要するに……。オカンは、親父の幽霊を『漫画作画&乙女ゲーム制作のための3Dホログラムモデル』だと思い込んでるってことか!? この家の厨二病とオタク気質、いくらなんでも極まりすぎだろ!
美月が『最新テクノロジー』に感動しきっている横で、宙に浮く竜二の霊はコホンと咳払いをし、得意げに胸を張った。実際にはホログラム投影機なんて一ミリも買っていないのだが。
「エヘン! いやいや、愛しのマイ・ハニー美月よ……。君の目の前にあるこの事象は、アメリカのホログラム技術なんて目じゃない、もっともっとグレートな代物なんだぜ!」
竜二はパチンッと指を鳴らした。(音は鳴らないが、最高に腹立つドヤ顔だった)
「あら、ホログラムじゃないの? じゃあ何なのかしら?」美月は不思議そうに首を傾げ、メモを取るためにiPadを構えた。
竜二はキリッとした顔を作り、サングラスを鼻柱の上へと押し上げた。
「これは俺自身の魂だ! ロックンロールの力による、大陸横断アストラル・プロジェクション(幽体離脱)さ! だがな……今夜俺がここに現れた背景にある物理理論は、俺がたった今発見したばかりの『究極の科学方程式』によって導き出されたものなんだ!」
「また始まったよ……」明は喉の奥でうめき声を上げ、両膝に顔をうずめた。「狂気のエセ科学セミナーが始まるぞ……」
竜二は息子をガン無視し、再びどこからともなく『幽霊ホワイトボード』を召喚すると、マジックペンを握りしめ、マッドサイエンティストよろしく妻の前で講義を始めた。
「ハニー、なぜ俺の魂がこんなにも半透明で、重力に逆らって宙に浮いているか分かるかい?」竜二は自身の浮いている脚をペンで指した。「これは魔法なんかじゃない。これこそが『タイ風卵焼き(カイジョー)量子フワフワ次元跳躍理論(クァンタム・オムレツ・フラッフィネス・リープ・セオリー)』なんだよ!!」
「カイジョー……卵焼き次元跳躍理論!?」美月は目を丸くし、ノーベル賞クラスの論文発表を聞いているかのように興奮した。「なにそれ! すごく美味しそう……じゃなくて、すごくロマンチックね!」
明は死んだ魚の目で顔を上げた。
「今度は卵焼きかよ。前回はグリーンカレーとソムタム・プラーラーだったのに。親父、パリでタイ料理屋でも開く気かよ……」
「よく聞け、明! 美月!」竜二はホワイトボードにフライパンと卵の絵を描き殴り始めた。「今日の夕方、俺が食った本場タイの卵焼き(カイジョー)。あいつの揚げ焼きのプロセスは、まさに物理学のアートなんだ! 卵液を空気を含ませるように限界までフワフワに泡立て、高温に熱したたっぷりの油に一気に流し込む! すると超高温によって気泡が急激に膨張し、重力すら無視するほどの極限まで軽く、サクサクでフワフワな構造体が生み出される!」
竜二は偉大な賢者のように両手を広げてポーズをとった。
「人間の魂も、その卵焼きと同じなのさ! 俺がカリッカリに揚がったタイ風卵焼きにチリソースをぶっかけて食った瞬間! その宇宙レベルの熱さとフワフワ感が、俺の体内にある『霊魂の周波数』を卵の気泡のように膨張させたんだ! 結果、俺の魂の質量は極限まで軽くなり、肉体を抜け出し、次元の狭間をすり抜け、ヨーロッパから日本へと、この半透明のフワフワな状態で量子ジャンプを果たしたってわけさ!!」
「おおおおおっ!! 凄いわあなた!!」美月は割れんばかりの拍手を送り、目をキラキラさせた。「ロマンチックでお腹が空く、最高の理論ね! あなたの魂、フワフワの卵焼きみたいに軽いのね! だからそんなに綺麗に透き通ってるんだわ!」
「その通りさ、ハニー! これぞ、卵4個分のカイジョーよりも大きく膨らんだ愛のパワーだぜ!」竜二は妻に向かって指ハートを飛ばした。
それを聞いていた明は、これが夢じゃないことを確かめるために、自分の頬を思いっきりつねらなければならなかった。
「オカン……マジで親父のトンデモ卵焼き理論を信じるのかよ! この世にそんなイカれた理論あるわけねーだろ! 親父はただ食あたりか何かで幽体離脱しただけだっての!」明は裏返った声で抗議した。
「もう、アキラったら科学のアートが全然分かってないんだから!」美月は息子を叱りつけ、すぐさま熱狂的な顔で夫の霊に向き直った。「まあ、卵焼き理論はさておき! せっかく今、あなたが動く半透明の3Dモデルになってるんだから、ちょっと手伝ってもらうわよ!」
「君のためならいつでもOKさ、ハニー! この執事になんなりとお申し付けを!」竜二は(ロッカーの格好で)英国紳士のようにお辞儀をした。
「ちょうど乙女ゲームのヒーロー役の『立ち絵』が欲しかったのよ!」美月はiPadを掲げた。「まずは基本の表情セットね! ……最初は『ツンデレで照れてる顔』から!」
「オーライ!!」幽霊の竜二は空中でクルリと一回転し、人差し指同士をツンツンと合わせながら、思春期のツンデレキャラのようなしかめっ面を作った。「べ、別にお前のために、このフワフワの卵焼きを作ったわけじゃないんだからな、このバカッ!」
カシャッ!
美月のiPadからカメラのシャッター音が鳴り響いた。「最高よ! 次は『嫉妬に狂うマフィアのボス』!」
「ウオォォォ! 俺のグリーンカレーを食った奴はどこのどいつだ! 殺してやるッ!!」竜二は壁に向かって牙を剥き、眼光鋭く吠えた。
カシャッ! カシャッ!
「パーフェクト! じゃあ次は、漫画『JUST HiT』の表紙用のポーズね! ヒロインを守るために敵に殴りかかる主人公! 下から煽るようなパース(遠近感)をつけたアングルでお願い!」
「ロックンロォォォル!! プラーラー(発酵魚)メテオ・ストライクゥゥゥッ!!」竜二は天井スレスレまで飛び上がり、腕を限界まで引き絞って、最高にシリアスな顔で拳を振り下ろすポーズを決めた。
カシャッ! カシャッ! カシャッ!
「キャーーッ! 素晴らしいわ、あなた! 画像も超クリアだし、背景透過もワンタップで一瞬よ! もう手が痛くなるまで紙にペン入れしなくて済むわ! あなたって世界最高の漫画アシスタント兼ゲームクリエイターね!」美月はiPadを抱きしめ、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んだ。
明は玄関のドアに背を預けて膝を抱えたまま、目の前で繰り広げられる(頭のおかしい)アットホームな家族の風景を眺めていた。
16歳の少年の姿をした母親が、空中でツンデレポーズを決める半透明の父親の霊に向かってiPadのシャッターを切りまくっている。そのバックグラウンドでは、量子卵焼き理論についての議論が交わされているのだ。
「もう……好きにしてくれ……」明は消え入りそうな声でポツリと呟いた。彼の死んだ魚の目は、己の運命に完全降伏して静かに閉じられた。「俺はもう何も考えない……。明日は学校に行かなきゃならないし、トラウマを抱えた陽菜にも会うし、おまけにオカンが俺の隣の席に座るんだろ……」
黒瀬家の狂乱は深夜まで続いた。竜二は霊体が痙攣を起こす寸前まで乙女ゲームのポーズをとり続け、美月は狂ったように漫画の表紙モックアップを描き進めた。
その傍らで、一人息子だけが玄関の床で死んだように眠りこけている。空気中には、未だにタイ風卵焼きの物理方程式がフワフワと漂っていた。
これが、アルバート・アインシュタインでさえ、いや、マスターシェフの審査員でさえ、絶対に正解を導き出せないであろう宇宙レベルのハチャメチャ家族コメディの幕開けである!
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
さて、前書きの『シーザーのあそこデカい説』の科学的考察の結論ですが、私の導き出した答えはこうです。
「ブルータス、お前もか!(お前もデカいのか!)」……はい、すいません。作者の脳みそは完全に滅亡しました。
古代ローマの話はさておき、シーザーはかつて言いました。「来た、見た、勝った(Veni, vidi, vici)」と。
ならば、現代のWeb小説作家である私はこう言いたい。
「書いた、投稿した、だからブックマークしてくれえええええええ!!!」
皆さん、ブルータスのように私を裏切らないでください! 「読者よ、お前もか(ブラウザバックするのか)!」と私に言わせないでください!
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どうか、どうか慈悲深き元老院(読者)の皆様、作者に星とブクマの施しを!
評価してくれないと、今夜あなたの夢枕に、トガ一丁の作者がシーザーのコスプレをして「評価……評価を……」と囁きにいきますよ!
それでは、次回もお楽しみに!




