【第3話:いくらなんでもトンデモ設定すぎないか!?(日本の一般家庭がタイ料理屋になりかけた件)】
皆さん、こんにちは!
なんと! 本作、初日で『54PV』を達成いたしました! うおおおおお!(一人でスタンディングオベーション)
「たった54PVで騒ぐなよ」と笑うそこのあなた。甘いですね。作者にとっては、54人もの読者様が全裸でサンバを踊りながら押し寄せてきたかのような、圧倒的で感動的な数字なのです! 本当にありがとうございます!
……ただ、その喜びとは裏腹に、現在作者の脳内はすでにソムタムの汁しか残っておらず、深刻な「脳内フリーズ(ネタ切れ)」を起こしております。誰か俺の脳みそに再起動ボタンを押してくれ。
というわけで、作者のなけなしの脳細胞が完全に死滅する前に、ツッコミ不在のカオス空間と化した第3話をお楽しみください!
ガチャッ……ギィィィ……
B級ホラー映画のワンシーンのように静まり返った廊下に、ゆっくりと開く洗面所のドアの音が響き渡る。完全に閉まりきっていない蛇口から滴る「ポツン……ポツン……」という水音が、さらにこの場の緊張感を煽っていた。黒瀬明は、ドロリとした唾を飲み込んだ。ドアノブを握る手は冷や汗でじっとり濡れ、背後では60年代ロックスターの幽霊こと父親の『竜二』が(半透明の幽霊の分際で)息子の背中に隠れるような素振りをみせていた。
ドアが大きく開き、廊下の薄明かりが、そこに立つ者の顔を照らし出す……。
その人物は、星凛高校の男子制服をジャストサイズで着こなし、ワックスも何もつけていない無造作に跳ねた黒髪、そして何よりも……この世のすべてを憎むかのようなあの『死んだ魚の目』を持っていた!
「うおおおぉぉい!! マジでもう一人の俺じゃねーか! ドッペルゲンガー! ソムタム・プラーラー(青パパイヤの激辛発酵魚サラダ)から生まれたクローン!!」
明は震える指で闖入者を指差し、悲鳴を上げた。
「イェァァァア!! 親父の『量子有糸分裂』理論が実証されたぞ! 世界は『ソムタム物理学の父』として黒瀬竜二の名を歴史に刻むことにな――」
父親の霊が歓喜の叫び声を上げ、偉業達成を祝うエアギターをかき鳴らした、その時。
目の前のクローンは眉間に皺を寄せ、腕を組み、深々と大きなため息を吐き出した……そして、死ぬほど聞き慣れた声でこう言ったのだ。
「何がソムタム・プラーラーよ。お母さんよ! あと、近所迷惑だから大声出さないの明。うちの家系がイカれてると思われるでしょ!」
洗面所に再び静寂が降りた。明はパチパチと瞬きをし、目の前の人物を頭の先から足の先まで観察した……少しダボついた男子制服に身を包んだ華奢な体つき(よく見ると背中側を安全ピンで留めてシルエットを誤魔化している)、ボサボサの黒髪ショートウィッグ、そしてよくよく目を凝らせば、あの『死んだ魚の目』も、アイライナーで無理やりタレ目メイクを施し、無理して無表情を作っているだけのシロモノだった。
「お……オカン!?」
明は脳の血管がブチ切れそうな感覚に襲われ、その場にヤンキー座りで崩れ落ちた。
「何やってんだよオカン! なんで俺のコスプレしてんだよ! そのウィッグどこから持ってきたんだよ! ビビりすぎて俺の寿命が10年縮んだぞ!」
「なんだ! 美月ちゃんだったのか!」
息子の背後から顔を出した竜二の霊は、サングラスを外して甘く熱い視線を送った。
「オー・マイ・ゴッド! 俺のハニー、女子高生の姿だろうが男子のコスプレだろうが、まるで天界から舞い降りた天使のように完璧に美しい! 俺のロックンロール・スピリットが君を求めて泣いているぜ!」
「あらやだ、あなたったら~♡ 相変わらず口が上手いんだから」
明の格好をした美月は頬をポッと赤らめ、モジモジと身をよじった。死んだ魚の目の男子高校生というキャラ設定は完全に吹き飛んでいた。
「ストップ! 二人とも今すぐストップ!」
明は勢いよく立ち上がり、両手でバツ印を作った。
「オカンが俺のコスプレをしてる件について問いただす前に……まずはさっきの件を片付けさせろ!」
少年は凄まじい眼力で父親の霊を睨みつけた。
「いいか親父! 冷静になって周りをよく見てみろ! 俺たちの苗字は『黒瀬』だ。日本に住み、おにぎりを食い、味噌汁をすすり、温泉に浸かる! 超純度100%のオリジナル・ジャパニーズ・ファミリーなんだよ! なのに、さっきの『ソムタム・グリーンカレー・ココナッツミルク・プラーラー・カプサイシン量子理論』ってなんだよ! 設定がトンデモすぎるだろ! 日本の一般家庭にしては、いくらなんでもタイ料理の要素が強すぎんだよ! これ以上、うちの家系にイカれたエセ科学を混ぜるな!」
竜二の霊はビクッと肩を震わせ、霊体のくせに滝のような冷や汗を流しながら、頭の後ろを掻いて乾いた笑いを漏らした。
「ハハハ……いやぁ、マイ・サン……実を言うとな……」竜二は天井へと目を逸らした。「今日の夕方、パリでエッフェル塔の近くにあるタイ料理屋でディナーを食ったんだよ。そこで食ったソムタム・プー・プラーラーとグリーンカレーが、あまりにもエキサイティングで魂の奥底まで刻み込まれちまってな……脳の処理装置がバグを起こして、絶品グルメと物理学理論が混ざっちまったんだ。スマン、スマン! 次からは『うなぎ寿司による細胞活性化理論』か『豚骨ラーメン質量分離理論』を使うことにするよ! これなら100%ジャパニーズ・スタイルだろ!」
「なんの理論もいらねーよ!!」
明は肩で息をしながら、全力のツッコミを入れた。彼は大きく深呼吸し、限りなく非現実に近い現実世界へと意識を引き戻した。「よし……次はオカンの番だ。なんで俺の格好してんだ! なんで家中をウロチョロしてんだ! そしてその星凛高校の男子制服はどこから持ってきた!」
美月は長いため息を吐くと、ボサボサの黒髪ショートウィッグをスポンと外した。その下から、艶やかな明るい茶髪がサラリと零れ落ちる。彼女は服の乱れを整え、キラキラと目を輝かせながら説明を始めた。
「だってねぇ……可愛いアキラ。最近、お母さんが暇つぶしに楽しいこと探してたの知ってるでしょ?」美月はニヤリと笑った。「実はね……お母さん、編集部に持ち込みするための漫画をコッソリ描いてるのよ!」
「はぁ? 漫画? オカンが?」明は目を丸くした。「毎日ネットショッピングと韓国ドラマばっかり見てるくせに、いつの間に漫画なんて描き始めたんだよ!」
「16歳の女子高生スキルを甘く見ないでよね! 今、私のファイティング・スピリットは最高潮に燃え上がってるの!」美月は両拳をギュッと握りしめた。「タイトルは『JUST HiT』! お母さんが心血を注いだ超大作よ! プロットは全部完成してて、今は作品のムード&トーンを伝えるための表紙のモックアップを一生懸命描いてる最中なの! でもね、そこで一つ大きな壁にぶつかっちゃって……」
「どんな壁だよ……」
「お母さん、男の子を描くのが苦手なのよ!」美月は身振り手振りを交えて文句を言った。「クールでカッコよくて、でも少しダウナーな男子高校生のポージングの資料がどうしても欲しくて。最初はアキラの気を抜いてる姿を隠し撮りして使おうかと思ったんだけど……あんた、全身から滲み出る『生きる屍』のオーラが強すぎて、全然カッコよくないんだもん! だから、クローゼットを漁ってあんたの予備の制服とウィッグを引っ張り出して、自分で鏡の前でポーズをとって自撮りすることにしたってわけ! 今の私の体型、華奢な男子高校生にピッタリのサイズ感だしね!」
明はポカンと口を開け、脳の処理能力が追いつかなかった。「ちょっと待てよ……じゃあなんだ、自撮りした写真をトレス(なぞり描き)するつもりなのか?」
「その通り! iPadのアプリに写真を読み込んで、AIの自動背景切り抜き機能でパパッと背景を透過させて、それを下敷きにしてペン入れしていくのよ!」美月は新しいオモチャを手に入れた子供のようにはしゃいだ。「アキラ、知ってる? 最近のお絵描きアプリって本当に進化してるのよ! ワンタップで背景が消えちゃうんだから! お母さんが若い頃にちょっと漫画を描こうとした時なんて、Gペンでガリガリと紙にペン入れして、手は真っ黒になるし、線引きを失敗したらもう……地獄よ地獄! デジタルの『取り消し(Undo)』ボタンなんてないから、修正液で紙がボロボロになるまで消すしかなかったの。でも今は最新テクノロジーのおかげで、スラスラ描けちゃうのよ!」
明は、母親が語る漫画制作のプロセスをただ呆然と聞き流していた。俺のオカン、いつの間にデジタル作画のオタク漫画家志望になっちまったんだ? しかも背景透過とか、アナログ原稿のペン入れの苦労とか、妙に解像度が高いし。
「オォゥ! マイ・ワイフ! 永遠の美しさを誇るだけでなく、巨匠レベルのアートの才能まで持ち合わせているとは! 『JUST HiT』は間違いなくアニメ化されて、日本中を席巻する大ヒット作になるぜ! 親父が会社のみんなに配るために10万部買い占めてやる!」
竜二の霊は感極まって大声でエールを送り、妻を抱きしめようとダイブした(が、当然すり抜けて壁に激突した)。
「要するに……」明はこめかみを軽く揉みほぐした。「オカンは漫画の表紙を描くための資料写真を撮るために、俺のコスプレをしてただけ……。クローンでも、細胞分裂でもなく、ソムタムとも一切関係ないと……」
「当たり前じゃない! 誰がそんなアホみたいな細胞分裂するのよ。アキラったら妄想癖が激しいんだから!」美月はクスクス笑いながら、今やすっかり背丈の変わらなくなった息子の頭を撫でようと手を伸ばした。
明はその手を軽く払いのけた。「ソムタムの妄想してたのは親父の方だっつーの……。はぁ……まあいい。とにかくドッペルゲンガーの謎は解けた。俺は今日、マジで疲労困憊なんだ。もう寝――」
ピンポーン♪ ピンポーン♪
明が言葉を最後まで紡ぐ前に、深夜の静寂を切り裂くようにインターホンの音が鳴り響いた。
壁掛け時計はすでに夜の8時を回ろうとしている。こんな時間に誰だ?
「あら、お客様かしら? それとも宅配便?」美月は首を傾げた。自分が今、息子の制服姿であることを完全に忘れている。「お母さんが出てあげるから! アキラは顔でも洗ってスッキリしてきなさい!」
「ちょっ! オカン! その格好のまま下に行――!」
だが時すでに遅し。16歳の少年の姿をした美月は、タタタッと軽快な足取りで階段を駆け下りてしまった。
明は洗面所の前で顔面を蒼白にして立ち尽くした。もし宅配業者の人間が、オカンの今の姿——俺の制服を着た姿——を見たら、「黒瀬家には隠し子の双子の兄弟がいる」という噂が近所中に知れ渡ってしまうと気づいたのだ。
しかし、ドアの向こうで待ち受けていた現実は……宅配業者なんかよりも何百倍も最悪なものだった。
玄関に到着した美月は、カチャリと鍵を開け、愛想の良い笑顔とともに勢いよくドアを開け放った。
「はーい! 黒瀬家です! お荷物のお届け——あら?」
彼女の挨拶は途中で消え失せた。玄関の前に立っていたのは宅配業者ではなく、短めのスカートに私服を合わせた、可愛らしい黒髪ロングの美少女だったからだ。
だが……彼女の全身から放たれているオーラは、背筋が凍りつくほどドス黒く、冷ややかだった。彼女の大きな瞳は、殺意すら孕んだ視線で美月をねめつけていた。
橘陽菜! 己を明の恋人であると勝手に自称する、ヤンデレ妄想彼女である!
陽菜は明の住所を徹底的に洗い出し、新手の泥棒猫(※実は明の母親)が、明の家まで押しかけていかがわしいことをしていないか『抜き打ち検査』しに来たのだ。
しかし、目の前に現れた光景は、陽菜の脳天に凄まじいショックを与えた。
ドアを開けて出てきた少年は……彼女の愛する『明くん』と瓜二つだった! (アイライナーで描かれた)死んだ魚の目も、輪郭も、制服も……だが、なぜ……明くんの身長が縮んでいるの? しかも、なんだかお肌がモッチリと柔らかそうになっている? そして何よりも……どうして明くんは、あんなあざと可愛い顔つきをしているの!?
「あ……明、くん……?」陽菜は声を震わせ、ジリッと一歩後ずさった。
「えっと……あなた……」美月はパチパチと瞬きし、やがてハッと気づいた。目の前にいるこの美少女は、今日の昼間、教室のど真ん中で「明の彼女です」と高らかに宣言していたあの女の子じゃないか!
瞬間、美月の(息子の恋愛事情を覗き見したいという)『母親の血』がメラメラと燃え上がった。
しかし、漫画の資料集めのための『明のコスプレモード』に入り浸っていた美月の脳は、ここで致命的なエラーを引き起こした。彼女は、息子の自称彼女の反応を楽しむため、あえて『乗っかる』という選択をしてしまったのだ!
美月はコホンと咳払いをして、無理やり低音ボイスを作り(どう聞いても女性が無理して出した男声なのだが)、少女漫画のヒーローばりに胸を張ってカッコをつけた。
「フッ……どうしたんだい、僕の子猫ちゃん……。こんな夜更けに僕の家までやってくるなんて……僕に会いたかったのかい?」
美月は陽菜の顎を指先でクイッと持ち上げ、『JUST HiT』の告白シーンで使う予定だった甘く蕩けるような視線を送った。
パリーーンッ!
陽菜の理性の糸が、音を立てて木っ端微塵に砕け散った音だった。
息を切らして階段を駆け下り、玄関にたどり着いた本物の明は、その光景を目の当たりにして七色の血を吐きそうになった。
「オカンンンンッッ!! お前は何をやってんだァァァッッ!!」
明は裏返った声で絶叫し、母親の襟首をむんずと掴んで、陽菜から力ずくで引き剥がした。
陽菜は、今しがた走ってきた『本物の明』と、キザなポーズを決めている『偽物の明(美月)』を交互に凝視した。少女の脳内回路は完全にショートした。明くんが二人いる! 一人は背が高くて死んだ魚の目をした明くん。もう一人は少し背が低くて、やたらとチャラい明くん!
そして、カオスが限界点を突破する直前……。
「イェァ! マイ・ガール! 黒瀬家へようこそ! ロックンロールの殿堂へ!」
天井をすり抜けて一階へ降りてきた、60年代ロックスターの出で立ちをした竜二の霊が、明と美月の頭上の空中に颯爽と現れた。ご丁寧にも彼自身を照らす眩しい霊体スポットライト付きである。
陽菜は、空中に浮かぶ半透明の男を見上げた……。二人に分裂した明くんを見た……。まるでホラーテーマパークと化した家を見た……。
「キャアアアアアアアァァァッッ!! 幽霊のホログラムぅぅぅッ!! 明くんが分裂したぁぁッ!! この家族、絶対宇宙人だぁぁぁッ!!」
学園のアイドルは鼓膜が破れんばかりの絶叫を上げ、腰を抜かして玄関のたたきにへたり込んだ。極度のパニックによる混乱の涙が、滝のように溢れ出す。
「ちげぇぇぇよ!! うちの家族は極めて普通の一般ジャパニーズだっつーの!!」
明は、陽菜の絶叫と、腹を抱えて大爆笑するオカン&幽霊親父の笑い声に負けじと、必死の形相で叫んだ。
新学期初日の夜……。黒瀬明の思い描いていた平穏な高校生活は、文字通り完膚なきまでに崩壊した。オカンのデジタルお絵描きアプリのように、『取り消し(Undo)』ボタンでこの惨劇を帳消しにすることは絶対に不可能なのだ。
本物のラブコメ地獄は……まだウォーミングアップを終えたばかりだった!
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
いやー……カオスですね。書いてる作者自身が「これ、この後どうやって収拾つけるの?」とリアルに頭を抱えながら執筆しました。
そういえば、ふと過去の自分の執筆歴を振り返ってみたんですが……前作の『転生したら女子高生のバッグだった俺、中身で装備が決まるんだが!?』を連載していた時、私、初日に「5話連続」で一気に更新してたんですよ。
……えっ、怖っ。当時の俺、一体どんなヤバい粉(※合法のエナジードリンクです)をキメてたの!?
今なんて1話書くだけでHPが赤ゲージになってピコンピコン鳴りっぱなしなのに! どう考えても当時の自分のテンションがおかしすぎて、今の自分がドン引きしています。過去の自分よ、少しは手加減というものを知れ。
さて! 玄関先で「女装(男装?)オカン」「ヤンデレ美少女」「パリピ幽霊親父」による地獄の三つ巴が爆誕しましたが、明くんの胃袋は無事なのでしょうか!?
「明くん不憫すぎワロタ」「作者の脳みそ休ませてやれ」「とりあえずオカンの男装写真アップしろ」と思った心優しいそこのあなた!
ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】をポチッと押して【★★★★★】にして、作者の削られきったHPを回復させてください!
ここで評価とブックマークをしてくれないと、今夜あなたの夢の中に、徹夜明けで死んだ魚の目をした作者が、女子高生のバッグを被ってエアギターを弾きにいきますよ! 逃げられませんよ!
それでは、何とか脳みそを絞り出して次話を書きますので、次回の更新をお待ちください!




