メイド服事件
学園祭二日前遂に学校中が学園祭ムードに入った。廊下にまでものが溢れ、生徒たちはワイワイと楽しみながら準備をしている。
そんな中私の所属する1-3のクラスの中には険悪な雰囲気が漂っていた。
「あのさあ、どーしてこれしか人がいないの!?」
明らかに人が少ない。女子はいるのだが、男子生徒の数が20人中5人だ。
そう、男子達が集団ボイコットを行なったのだ。
事の起こりは昨日である。
ある1人の男子生徒が声を上げた。僕はメイド服なんか着たくない!と。今更であるが女装する事に抵抗のある集団がいたのだ。
そこで一部の女子と派手な言い合いにまで発展したと言う。
「あいつらさあ、私がお前らがやるっつったんだろ!って言ってやったらさ、俺たちはあんなの聞いていなかった。てっきりみなみちゃんのセクシーなメイド服姿が見れるんだと思っていたんだっ!てさ。キモすぎ」
さて、ボス格の女子が口にしたみなみちゃんとは、このクラスの遠坂みなみという生徒のことだ。彼女はかなりの美少女だ。身内ネタになるが、絶世の美女である私の姉ぐらいかわいい。しかも、天は二物を与えるということで私とは比べ物にならないくらい素晴らしいプロポーションをしていた。
──私なんてブラなんて付けなくていいんじゃないかと錯覚するくらい無いからね。
そして、話は戻るが、男子たちの集団票のかなりがみなみちゃん目当てだったという。
しかし、彼らの期待は淡く崩れ去った。学校による締め付けにより、学園祭での女子の過度な露出は規制されたのだ。
スカートだけは膝下。タイツ着用。胸元は隠す。
その結果がクラシックメイド服である。
あれはあれでかわいいと個人的に思うのだけれど、思春期の一部の人間はもっと派手なものをお望みであったらしい。
対して男子は規制なしであったため、ミニスカ、胸元ガラ空きと女子の質素な装いとは対象にはっちゃけたものとなってしまっている。その強烈なコントラストにより男子たちは絶望の中に突き落とされてしまうこととなった。
──これはまずい。力仕事となるとどうしても力のある男手は欲しいし。
数少ない今いる男子も部活動の準備などで忙しくなるだろう。クラスにつきっきりでいたら立場がないだろうし。
何とか奴らを連れ戻す方法を考え出さなければならない。
「でもさーどーするよ。あいつらを戻すには不満を解消してやらなければならないじゃん」
「衣装をエロくするか、男子のメイド服を無しにするか?」
前者は不可。必然的に後者となるが…。
「じゃあ今から執事服でも買う?でも予算ないよね」
「無理じゃん!」
「諦めてあいつらが存在しないものとするしかないのか」
というわけで限られた人数で作業をする事になった。
部屋をきれいに掃除して幕を張る。そして、テーブルを何とか運び込み、あらかたの準備は終わってしまった。
「意外と何とかなるもんだね」
少ない人手であるが、何とか店が開けそうな形にはなる。あとは細かい装飾と明日の食材の仕込みや準備だけだ。
であるが、私は少しモヤモヤしていた。
準備に参加していない彼らはどうなるのだろうか。このままだと学園祭から弾き出されたまま全てが終わってしまうのではないか。
それでは勿体無い。思い出が作れないし、それにこの対立が残ったままだと今後のクラス活動に響くだろう。これは学級委員として見過ごせない。
私はボイコット勢が集まっているという空き教室へと向かう事にした。その途中瑠璃川君とばったり出くわす。一緒についてきてくれる運びとなった。
──いざ出陣!
教室に入ると10人ほどの男子がスマホゲームなど各々好きに遊んでいた。そんな中勇気を出して入っていく。
「皆さん、今からでも遅くないので準備に参加することはできませんか?」
私に向けて視線が向けられる。だけどその言葉に頷く人はいなかった。
「では、どのような条件なら参加してくださいますか?」
「それはもちろんみなみちゃんのセクシーメイド服に決まってんだろ」
「それは無理です!」
「じゃあ俺らにメイド服を着せるなんて横暴はよせ!人権侵害だ!」
だんだんと文句が飛び交ってくる。
「それは今考えています。予算の範囲内で執事服を買うことも。それでも一部の方には不満が出てしまう結果になってしまうかもしれませんが…」
そうは言っても状況は沈静化せず…。
「じゃあ私がセクシー要因になったろか」
とひとりごちる。
しかしすかさず瑠璃川君がやめてくださいと止めた。
そりゃあ絶壁じゃあなれないしね。と納得する。
どうやって男子をその気にさせようかと考えていると瑠璃川君が姿を消していた。一体どこへ行ったのだろう。
そして、1人分の悪い説得を続けていた時教室の扉が勢いよく開けられた。
コツコツとヒールが床を踏む音が響く。
そして、背の高いきれいな女性が現れた。
──いや、女性じゃない。瑠璃川君だ!
彼女、いや彼はご丁寧に胸元にパットまで詰めて完璧なメイド姿となっていた。
銀髪のツインテールのウィッグをかぶり、口紅まで塗っている。
「貴方達はいつまでそこで管を巻いているのですか?」
女のような姿から男の低い声が発生され脳みそが一瞬バグる。
教卓の前まで彼が歩いていくと教室中が途端に静まり返った。
「あ、あいつは…!」
瑠璃川君がミニスカートの裾を翻した。
悲しい思春期男子の性である、男であってもついついパンチラを求めてしまうのだ。しかし下に履いているのは体育着であり鉄壁の防御の内にある。
残念そうなムードが漂うと1人の生徒がその正体に気づいた。
「お前ら正気を取り戻せ!あいつは男だ!瑠璃川なんだよ」
「何だって〜!」
「そ、その胸元の立派なものは!」
間髪入れずにパットです。と答えると彼は悔しそうに地面に膝をつけた。
「チクショウ!俺はそんなものに!」
瑠璃川君はその彼の目の前にしゃがみこんで手を伸ばした。
「えっ、る、瑠璃川…!」
彼は軽やかに座り込む少年を立ち上がらせる。至近距離で見つめあう二人。瑠璃川君は端正な顔にうっすらと笑みを浮かべる。
「ええええええ」
彼はそのあまりの美しさに鼻血を出しながら撃沈された。
瑠璃川君の女装が強烈すぎる。なんかこの教室の中に薔薇が飛び交っていると錯覚するぐらい華やかに感じるんだけど。
「皆様、私の大切な方を困らせないであげてください」
視線が私に向けられる。
──え、私?
「ここはどうか怒りを収めて、ぜひ文化祭に参加しましょう…」
いつも鋭い眼光がふわりと優しい曲線を描いた。
「うわああああ」
教室中から悲鳴が上がる。
──瑠璃川君、なんて恐ろしい子なの…!
教室内にいた男子たちは全員目をハートにして骨抜きにされていたのだ。
◇
「ここはどこ?私は誰?」
なにやら意識があいまいな集団が1-3に連行された。彼らは口々にここ一日の記憶がないとこぼした。
それは無理もない。あれほどの色香に充てられてしまえば…。
瑠璃川君はまたその後着替えていた。いつも通りの紺のジャケットをピシッと着こなしている。
もう少しあの姿を見ていたかった気がするし残念だが、あれ以上被害を拡大させないためには仕方があるまい。
さて、戻ってきた男子たちだが女子側と遂に交渉が終えられた。その結果残りの予算の範囲内で男子用の服を緊急で購入することに。
だが、中には数人目覚めた人もいてなぜか女装に乗り気になっていた。
「あーあ、今更来ちゃって。でもいいかこれからこき使ってやるって」
怒った風に言っているがなんだかんだ嬉しそうだ。
ただ、その後のあまりのこき使われっぷりは、少しかわいそうになるものであった。




