文化祭準備
さて、文化祭は六月の終わり頃に開催される予定だ。そして今は四月の終わりごろ。約二ヶ月の期間で衣装からメニュー、店のレイアウトを決めなければならない。
衣装は手芸部を中心に既製品にアレンジを加える方向で決まった。そして、予算には限りがあるためメイド衣装はクラスの三分の一の数に留め、着回すこととなった。
そしてメニューであるが洋菓子店でバイトしている子が手を回して材料を安く手に入れられる目処が立ったという。
準備は順調に進んでいた。
「衣装届いたよ!」
ネットで注文したメイド服が届いたのだ。サイズやデザインを変えて15着ほど届いた。
休み時間になると早速試着してみようという事になる。
「大一発目は俺が行きまーす」
サッカー部のゴツい男子が名乗りを上げ着用を試みる。xlサイズの大きめのメイド服である。苦労しながら彼が体育着の上から着用するとクラス中から笑いが起こった。
まずスカートが短い。体育着の裾が丸見えなほどだ。そして何より似合わない。筋肉が発達したふくらはぎに、大きな肩。これでカチューシャをつけてみた日には大笑いで何も手につかなくなってしまいそうだ。
「やべー足元気持ち悪い。違和感あるわ」
「なあ女子も着てみろよ」
お目当てというようにそんな声が上がる。
「女子の服はこれ!じゃんっ!」
そう言って出てきたのはクラッシックなメイド服であった。裾は長く、膝の下まで届いている。襟元もキュッとしまっていて卑猥さがかけらもない。
途端に女子達のメイド服を楽しみにしていた男子達からブーイングが起こる。
「はあ?お前らだけずるいぞ!」
「だってこうでもしなきゃ学校の許可が下りなかったんだもーん」
喧嘩が起きるも男子は分が悪いようだ。
そんなことは気にせずに話は続く。
「ねえねえ、蓮ちゃん着てみない?」
「え、私?」
私は当日は給仕係ではなく裏方として動く予定であったため関係ないと思っていたのだが。
「当日着れないでしょ?試しに今着てみればいいじゃん!スタイルいいし絶対似合うよ」
なし崩し的に着ることになってしまうのであった。
──でも地味な私がこんな衣装を着てどうなるんだろう。
渋々、ジャケットを脱いでブラウスとスカートの上から重ねて着てみる。
フリルのついたエプロンを閉めてマニュアル通りにきっちりとセットするとなんとも微妙な仕上がりになった。
「なんか、メイドカフェっていうより本物のメイドさんって感じだね」
おそらく褒めてはいないであろう微妙な言葉を頂けた。やはり地味すぎると似合わないのだろうか。
そんなふうにしょげている時いつもバチバチにメイクやヘアセットをしてきているギャルの女の子が近づいてきた。確か名前は大島さんだったかな。
彼女は私の顔をじっと見つめると、ちょっとごめんねとメガネを外した。
「あとは髪の毛をなんとかしよ!いい?」
バックからコテを取り出すと髪の毛をぐるぐると巻き始める。
そして手際よく全ての髪の束を巻き終えると小さなゴムを取り出し何やら髪の毛を縛りはじめた。
「前髪とサイドを巻いてっと」
そうして出来上がったのは見慣れない自分の姿であった。
「今はこれが限界かな。メイクしたらもっと変わりそうだけどね」
それでもこれは私にとって大きな変化であった。
ふわふわの巻き毛にハーフアップのお団子。前髪は左側に流して、サイドはぐるんとウェーブさせてある。
「写真撮ってあげる!」
そうして送られた写真はまるで他人のようだった。
「すごい。ありがとう大島さん!」
感激して思わず飛びついてしまった。
「どーいたしまして」
大島さんは照れくさそうにニカっと笑った。
ふと周りを見てみると視線が自分に集まっているのに気づく。
その中に瑠璃川君のものがあった。彼はなぜだかこっちを凝視している。
──もしかして何か変なところでもあるのかな。
少し不安になるが彼は外に出ていってしまった。
──まあいいか。
と、気にせずにいることにした。
◇
下校の際友人と共に玄関を出る。しばらく行って校門に差し掛かったところで咲夜の姿を見つけた。
「じゃあね」
と友達に手を振り別れると他の生徒に見られないようにこっそりと咲夜に近づく。
「どうしたの咲夜?」
小声で私が話しかけると彼は人目もはばからず抱きついてきた。
「蓮〜!最近会えてなくて寂しかったんだよ」
「ちょっ、ちょっと待って!こっちで話そう」
人のいない場所に引っ張って行こうとした時、咲夜の目が誰かを捉えた。
「あ、アイツは」
「えっ」
止める間も無く彼はスタスタと歩いていく。そして、たまたま歩いていた瑠璃川君の前に立ち止まった。
「ねえ、ちょっと顔貸してくれない?」
彼は険を隠さずに言った。
「何の用でしょうか?私と貴方は初対面のはずですが」
瑠璃川君も氷のような無表情で対抗する。
私は急いでダッシュして二人の間に割って入った。
「ごめん瑠璃川君!咲夜が、あ、私の幼なじみなんだけど迷惑かけたみたいで」
幼なじみ?瑠璃川君が何かに気づいた表情をした。
「ちょっと待って蓮!アイツに話があるんだ」
ざわざわと生徒たちの間に騒ぎが広まっている。名門高校の制服を着た他校生が言い争いをしていると。
我慢できなくなった私は二人を連れて戦略的撤退を試みた。
しばらく走り続け、学校から離れた人気のない公園に着く。私は息を整えながら咲夜に文句を言う。
「ねえ咲夜急にダメでしょ!ごめんね瑠璃川君。うちの咲夜がメンチ切っちゃって」
「いえ。柏木さんが謝罪する必要はありませんよ。行動を起こしたのは彼ですからね」
確かに悪いのは咲夜だけど。
2人の間に見えない火花が散っているようだ。
「で、聞きたいんだけど。君って蓮の何なの?」
「何と言われましても、同じ委員会に所属するクラスメイトとしか言えませんが」
「ふーん。じゃあそのままクラスメイト1として蓮に無害な存在でいてよね?」
咲夜は私の手を取りながら引き寄せる。
瑠璃川君はその失礼な態度に思うところがあるようだ。彼は冷たい表情を浮かべながら首を傾げた。
「分かりません。なぜ貴方がそのような態度を取るのか」
「分からない?だって蓮は僕のものだから。他のやつにちょっかい出されるのは許せない」
「そうですか」
瑠璃川君は凍てつくような笑みを浮かべる。どうやら何かに思い至ったようだ。
「貴方から彼女に対してはそうでしょうね。ですが彼女の意思は、どうなのでしょう?」
「何?」
「いえ、どれだけ貴方が動こうとも人の気持ちは移ろいゆくものです。ましてや貴方は他校の者ですからね。利は私にあります」
「…僕に対抗しようってわけ?」
「さあ、どうでしょうか。私が本気なのかせいぜい頭を悩ませてください」
険悪な雰囲気のまま理解できない会話が続く。一体彼らは何について話しているのか。あやふやな文言ばかりで話が見えてこない。
「ねえ2人ともどうしたの?」
話に割って入ろうとするも、咲夜が強引に手を引っ張り引き離していく。
何やら不機嫌な様子だ。
「もう帰るの?」
「…。」
何も答えない。後ろ姿からは焦燥感のようなものが感じられる。
「瑠璃川君、何が何だか分からないけどほんとごめんね!えーとまた明日!」
「ええ、明日またお会いしましょう」
瑠璃川君の声はとても優しかった。だけど鋭い視線をずっと咲夜に向けていた。




