金髪碧眼クール系同級生
──初めて会ったのは入学式の時だろうか?
いや、出会ったというより一方的に見つけたというのが正しいか。
初めて彼女を目にした時、まずその美しさに目を奪われた。少し鋭いが意志の強さを感じさせる瞳。腰まで伸ばした絹糸のような髪の毛をなびかせながら歩いていく。まるで糸で釣られているように完璧な姿勢で進んでいく様子は迫力があるものであった。
そして一つ、どこか懐かしい感覚を覚えた。
──そうだ、初恋の人に似ているのだ。
10年以上前、特殊な髪と目の色を馬鹿にされていた際、慰めてくれた彼女の声を思い出す。
『あなたの髪の毛キラキラしていてキレイ。それにおめめも宝石みたい。みんなは変だってゆってたけどそんなことはない。私は大好きよ。だから、泣かないで!!』
彼女は満面の笑みを浮かべて手を引いてくれた。
◇
「瑠璃川君!おはよう」
「おはようございます…」
私は朝一番に瑠璃川君に声をかけた。
「あの、昨日うちに来てくれたよね?その時家にいなくて、出られなくて、本当にごめんね」
瑠璃川君は少し口をつぐんでからすぐに
「いえ大丈夫です」
と言ってくれた。
「それで何の用だったのかな」
「…学園祭の出し物についてです」
学園祭。それは2年に一度の大イベントである。クラスや部活ごとに催し物を考えて運営するのだ。そしてもちろん学級委員はその中で重要な役割を果たす事になる。皆の意見を総括し計画書を生徒会に提出、そして実際の準備を取り仕切るところまでやらなければならない。
「今日のホームルームで投票を行うと急遽担任から告げられたので…」
それはなかなか大事な事である。咲夜に邪魔されて出られなくなったことが悔やまれる。
──それにしても不便だ。そういえば連絡先は交換していなかったっけ?
「瑠璃川君ってLIMEやってる?」
「いえ。スマートフォンを持っていないので」
──そうかあ、珍しい。
「じゃあ電話番号教えてよ。また何かあったら不便だしさ」
メモ帳にスマホの電話番号を書いて渡す。瑠璃川君は少し戸惑っているようだった。
「ごめん。もしかしてこういうの嫌、だったりする?」
「…いえ。そのようなことは特には。私も番号を教えます」
「ありがとう!じゃあ連絡帳に登録しとくね」
◇
ホームルームの時間にて。話し合いによる催し物決めは熾烈を極めた。まずクラスの方向性は二通りに分かれた。飲食系と出し物系である。前者はレストランカフェ(一部の層からはメイドカフェが猛プッシュ)など。後者はお化け屋敷、演劇などなど。
話し合いは膠着状態に陥る。そのためクラス全員による投票が行われることとなった。
開票の時間の重たい沈黙の中、正の字で人数を記していく。お化け屋敷、カフェなど横並びに票が流れていく中唐突に流れが変わっていった。
「メイドカフェ一票。メイドカフェ一票。メイドカフェ…」
私は目を丸くしながら読み上げる。何人かの男子がヒソヒソと盛り上がっている様子が見えた。これは、男子達が結託しているのではないか。
結果なぜだかメイドカフェが40票中15票と圧倒的大差をつけて当選した。ここで女子達から圧倒的なブーイングが起こる。
「男子達キモい!こんなの無効でしょ」
「いいや。これが多数決の結果だ!認めやがれ!」
男女二分しての大騒ぎが始まり収拾がつかない状態になってしまう。
そこでボス格の女子が口を開いた。
「あのさあ、メイドカフェってもちろん女子だけってことじゃないよね?男子達もちゃんと女装、してくれるよね」
それは鋭い一言であった。男のメイド姿とはなんと見苦しいことが。各々がゴツい自分が短いフリフリスカートを履いている姿を想像してしまった。
途端に訪れる沈黙。教室は水を打ったように静まり返った。
そしてしばらくしてその重苦しい沈黙を破ったのは1人の漢であった。
「おれは…やってやるよ!どうしてもメイド服姿が見たいんだ!」
彼は熱い炎を目に宿して叫んだ。
その途端盛り上がる漢達。彼らも次々と決意を口にし始める。
呆気に取られる女子陣。かくして、勝敗は決した。
◇
放課後私と瑠璃川君は教室に居残りしながら提出する書類を記入していた。
「意外な事になっちゃったね。男女関係なしのメイドカフェなんて」
もしかして瑠璃川君も女装してメイド服をきる事になるのだろうか。けど彼は中性的な顔立ちで線が細いから案外似合うかもしれない。心の中でそんなことを考えてニコニコしていると瑠璃川君が不思議そうにこちらを見ていた。
「ごめん。瑠璃川君がメイド姿になっているのを想像しちゃって」
すると瑠璃川君の頬に赤みが差した。
──もしかして、照れている?
普段無表情でいることが多い彼のそんな姿を見るのは新鮮であった。
手を口に当てて微笑んでいると、彼はふっと顔を逸らす。
嫌だったのだろうか。
太陽を覆い隠していた雲が動いていく。窓の外から陽が差してきた。
──綺麗だな。
ふわふわの金色の髪が太陽の光を反射して輝いている。宝石のような青い瞳にまつ毛の影が落ちていた。
「…キレイだな」
ふと言葉が漏れてしまう。
「その言葉は…」
瑠璃川君が反応してしまい私は慌てて弁解した。
「いや金髪がキラキラしてて綺麗だなって思って。あと瞳も宝石みたいで、それで思わず言葉が出ちゃったの」
すると彼はふっと微笑んだ。それはほとんどの人が気づかないであろう小さな変化だった。
「──ありがとうございます」
瑠璃川君の綺麗な瞳が私の顔をまっすぐ見ている。その端正な顔立ちは言葉で言い尽くせないほど美しかった。




