ヤンデレ幼なじみ?
私の名前は柏木蓮。地元の偏差値そこそこの公立高校に通う一年生である。焦茶の瞳にセミロングの黒髪と一般的な日本人の容姿だ。化粧っけもなく普段からメガネにノーメイクという美意識のかけらもない地味子として生きている。
さて、そんな私であるが一つだけ一般的な女子とは違う状況にあるだろうか。それは、隣の家にハイスペ幼なじみが住んでいることだ。
「蓮~~!一緒に映画見よう!」
うれしそうな顔で駆け寄ってきた天真爛漫な青年。彼は百合咲夜という。
咲夜とは両親同士の仲が良かったため生まれたときからの付き合いだ。幼稚園、小学校、中学と同じ進路を順当にたどってきたが、高校にてついに別々の進路になってしまっていた。何分彼はハイスぺである。そのため地元の公立校など歯牙にもかけず、毎年日本の最高学府への進学率が高い私立名門校へと旅立ってしまった。
そのため長年の付き合いが途切れてしまうのではないかと私は少しドキドキしていたが、そんなこともなく咲夜は相変わらず仲良くしてくれている。
「咲夜!」
女子の私よりよっぽどサラサラで艶やかな黒髪を揺らしながら彼が抱き着いてきた。
学校から帰ってきたばかりなのにもう気配を察知したのか、と思いながら咲夜を家に招き入れる。
「蓮はどんな映画が見たい?アクション系?それともコメディ系かなあ」
「いいね!あっ、ホラー特集もある」
ソファに肩を並べながらリモコンを操作して映画を選ぶ。わいわいがやがやと選んでいき、そして最後に選ばれたのはなぜか往年のラブロマンス映画であった。
映画の内容は二人のカップルが悲劇に見舞われ離れ離れになってしまうというもの。立ちふさがる困難、紆余曲折を経てついに二人は再開することとなる…。
ピンポーン
「へ?」
チャイムの音で意識が現実に戻る。私は涙がにじんでぐちゃぐちゃになり、ちょっぴり頭痛がするという状態で立ち上がる。ティッシュで顔のコンディションを整え、ドアカメラの映像を確認するとそこにいたのは同級生の男子であった。
「蓮、誰だったの?」
咲夜が映画を止めずに駆け寄ってくる。何だか彼は見たことのない表情をしている。不安げというか、焦っているというか…。
いつも余裕のある優しい笑顔を浮かべている咲夜とは様子が違って見えた。
「えーと、同じクラスの…友達かな?」
横目でカメラ映像を見ながら答える。
──金髪碧眼のこの容姿は見間違えようがないよね。
どこかのクウォーターだと噂される超絶美形な人物。クラスで同じ学級委員を務めている瑠璃川君である。
──わざわざ訪ねてきてくれたってことは何か大事な用事でもあるのかな。
急いで出ようとすると咲夜が腕をつかんだ。
痛みはないけどその場から動けないぐらいの強さだった。
「咲夜、離して」
「外にいるのって男だよね?なんでわざわざ家まで来るの」
「…それがどうしたの。彼とは委員会が同じなの。だから大事な用があるかもしれないの。ちょっとでいいからっ」
動こうとするがびくともしない。咲夜はさらに退路を断ってきた。
両手を壁に押し付け私の両脇を固める。真正面に咲夜の顔が鎮座していた。嫉妬してしまうようなきめ細やかな白い肌。目立たないが、鼻筋が通ったきれいな形の鼻。そして光を映さない漆黒の吸い込まれるような目で見つめられて何も言えなくなる。
──これはもしや壁ドン?
この状況で出てきた感想がこれとは…いかにも女オタクであるが、すぐに正気を取り戻す。美形の顔面が目の前にありドキドキするが、隙を見てサッと両手の壁を抜け出し、玄関へ突進した。
口に出してお願いしても聞いてもらえないなら動くまで。あと少しでドアに手が届くというところで、何かが私の顔に触れた。
──咲夜の手のひらだ。
私はたちまち後ろからハグされてしまう形となる。
「これでもドア、開ける?」
咲夜の顔は見えない。ただ、穏やかではない声色だ。いったい彼はどうしてしまったというのだ。抗議しようと後ろを向いたとき、なぜか彼が寂しそうな顔をしているのが一瞬だけ見えた。
その一瞬の後、目の前に綺麗な顔が迫ってきた。唇に柔らかい感触を感じて思わずのけぞる。咲夜が舌なめずりしながら微笑んだ。
「ふふ、かわいい」
私は呆気に取られる。
「蓮のことは誰にも渡さない」
リビングからクライマックスに突入した映画の壮大なBGMが聞こえてくる。メロディアスで優雅な美しい調べだ。
目と目が合う。私は無意識のうちに目を閉じていた。
祝福の鐘が鳴り響く。
そしてなぜだろう。英語は苦手なはずなのだがはっきりとこのセリフだけは聞こえた。
…I love you so much.




