三話
「ミズキ、お前をこのパーティーから追放する!」
冒険者パーティー「銀の覇者」のパーティーリーダーであるダジルの放った言葉が、大きな部屋に響いた。
先程まで談笑していたパーティーメンバーは一斉にだまり、何事かとミズキとダジルの方へ目を向ける。
「な、なに言ってるんだ。冗談よせよ」
「銀の覇者」は幼馴染であるダジルとリンナ、そしてミズキの三人で作った冒険者パーティーだ。
ミズキを誘ったのはダジルだった。三人からパーティーを作れるんだと渋るミズキの肩を組んで、パーティー登録できる十五歳の時に、「これから何があっても三人で頑張っていこう」と約束したのを今でも昨日のことのように覚えている。
「冗談? それはこっちの台詞だ! 今までお前のせいでどれだけの苦労を強いられてきたか、わからないとは言わせない!」
声を荒らげるダジルの顔は怒りに歪み、眉はキッと釣り上がっている。
ここ最近のダジルは大きく変わってしまった。
七年前から活動を始めた「銀の覇者」は徐々にとその活動を広げ、メンバーが一人、また一人と増えていった。その結果、「銀の覇者」はこの辺りでは知らない人はいない程有名な冒険者パーティーになった。
そのせいか、三人は昔のように好きなことを好きなようにできなくなって、特にその負担は、リーダーであるダジルに大きくのしかかった。
昔の明るかったダジルは消え、時には非情な言葉を荒々しく口にする。
ミズキはどうにかダジルの負担を軽減させようと協力を申し出たが、ダジルは頑なな態度でそれを断った。
どうやらダジルはリンナに好意を抱いているみたいで、ミズキとリンナが仲良くするのを嫌った。だから余計な問題を増やしたくなくて、ミズキはリンナと距離を置き、ダジルとも距離を取った結果、三人の関係は大きく変化した。
加えて、ミズキは有用な能力を持っているわけでもないので、他のメンバーからダジルとリンナの引っ付き虫として見られることも少なくなかった。
ミズキはそんな現状をどうにかしたくて、以前、パーティーからの脱退をダジルに申し出たのだが、それを一蹴したのはダジルだった。
あの時「お前がいなくちゃいけないんだ」と言っていたダジルの急な豹変具合に、ミズキは違和感を覚える。
「お前の能力『超再生』はお前自身にしか効かない。その癖、前線に行くのも渋る。役立たずだけならまだしも、使える力を使わないのは傲慢じゃないか?」
「それは、そうかもしれないけど」
能力――それはこの世界で一人一人が持つ特別な力だ。
生まれた時からその能力は決まっていて、一種の才能といっても良い。
ダジルは「剣聖」という特別な剣を扱うことのできる力を持ち、リンナは「治癒再生」という冒険者パーティーなら誰もが欲する、他者の治癒を促す力を持っている。
対するミズキの「超再生」は他の人より自己再生力が少し上がるだけのものだった。
もともと、戦うことに消極的だったミズキは、小さい頃からダジルの補佐をする事がほとんどだった。
今も、戦いには行かず、雑用ばかりをしているし、それはダジルとリンナも承知の上でのことだった。
ダジルの言っていることは否定できないが、今更、と言う気持ちもある。
副リーダーでもあるリンナはどう思っているのだろう。この場にいない彼女を不思議に思っていると、ダジルの隣に居る大柄な男ヴォルと若い女シルヴァがフン、とミズキを鼻で笑う。
「ほら、パーティーの皆も、お前がいなくなるのを望んでいるんだ。分かるか? これがお前の行動の結果なんだよ。お前のせいで皆が嫌な気分になる。全てお前自身のせいだ」
ダジルが周りを見るので、ミズキも同じように見ると、全員が顔を逸らす。聞かなくてもダジルの言葉を肯定しているのが分かる。
ふとシルヴァと目が合い、彼女は嫌悪感を滲ませる顔でミズキを睨んだ。
「その気持ち悪い目を向けてこないで。そうね……パーティーから抜けたら、この街からも出ていって頂戴」
「流石にそこまで決められる筋合いはない」
犯罪を犯したわけじゃないのに、それはないだろうと反論すると、ダジルが机を力強く叩く。
「……お前に拒否権があるとでも思っているのか? おい! こいつを街の外に放り出せ!」
ダジルがそう叫ぶと、ヴォルが了解、と言って近付いてくる。
ミズキは自分より頭二つ分ほど大きなヴォルに、思わず後ずさる。
「手を煩わせはしない、一人で出ていくよ」
説得するのを諦めて、立ち上がろうとするが、ヴォルはその場を動かない。
「余計な口を開くなよ」
ドン、と鈍い音が響いて、ミズキは口から胃液を吐き出す。
(殴られた?)
なぜ、と考える暇もないまま、二発目が腹に落とされる。
ミズキは状況を理解する時間もないまま、一瞬で気を失った。
◇
ゆっくり目を開けると、ぼんやりとした視界に鮮やかなピンク色が映る。
「……キュア?」
視界がはっきりしていくと、同じ鮮やかなピンク色と目が合う。
キュアは目を見開いて、小さな声で「大丈夫ですか?」と聞いてくる。
気絶していたのだろうか、返事をして起き上がろうと頭を動かすと、自分が寝転んでいるのが草むらじゃないことに気がつく。
(この体勢、もしかして……)
膝枕、と言うやつではなかろうか。じんわりとした体温を頭に感じる。
見上げると、キュアは真っ赤な顔で「す、すみません……」となぜか謝ってくる。
そんな反応を示されると、少し気まずい。
瑞希は急いで体を起こし、キュアから距離を取って座った。
「こっちこそごめん。えっと……何があったんだっけ」
「ミズキさんが急に倒れたので、少し様子を見てたんです。本当は街まで運びたかったのですが……」
キュアは申し訳なさそうに言ってくるが、その細い腕では難しいだろうし、むしろそこまで考えてくれていたのが嬉しくて、ちょっとでも警戒していたのが申し訳ない。
「ううん。心配かけてごめん」
瑞希はキュアに笑顔を向ける。
「その……よかったら敬語とかなしで喋って欲しいんだけど、駄目かな」
「ミズキさんがよければ、大丈夫……です」
キュアは瑞希を不思議そうに見る。「さん付けもなくていいよ」と続けると、「わかっ……た」とぎこちない返事が返ってきた。
「あの、体は大丈夫?」
「うん。いろいろ思い出したんだ。倒れる前のことか、ちょっと記憶が混乱してたみたいだけど、全部思い出したよ」
瑞希は余韻で痛む頭を抑えて小さくため息をついた。




