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TS転生? いいえ、元からでした?  作者: 在間 薙
一章 「瑞希」と「ミズキ」

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3/13

二話

「私は……キュアといいます。歩いていたら、倒れているあなたを見つけたんです。あなたの他には誰もいなくて……。何があったか聞いてもいいですか?」


 キュアと名乗ったその人は、ピンク色の瞳にピンク色の長い髪の毛をたなびかせ、薄ピンク色のワンピースを着ていて、全身ピンク色だ。

 とても人を害するようには見えない。むしろ、華奢でとても可愛らしい少女のようだ。


(この子は、悪人じゃない)


 そう思った瑞希は、ひとまず目の前にいるキュアを信用することにして、辺りを見回す。

 周りには、一面に広がる草原、そして奥の方には深い森が見える。

 自分自身を確認するが、殴られて痛くてたまらなかった全身は、いつの間にか痛みが綺麗サッパリ無くなっている。


「あの、鏡って持ってませんか? 持っていたら貸してほしくて」

「持ってますよ」


 どうぞ、と手鏡を渡される。その手鏡が女児向けのアニメのグッズみたいにキラキラしていて、キュアの可愛らしい見た目から想像するものにぴったりだ。

 

(やっぱり)


 瑞希は驚いて目を見開くが、ある意味想像通りでもあったので、困惑の表情を浮かべる。

 鏡に映る顔は、瑞希とよく似ていて、少し違う。髪は元々ショートボブぐらいの長さだったが、さらに少し短くなっていて、どこか男性的な雰囲気を醸し出している。

 先程自分から出た声は明らかに低くて、だからといって、喉を痛めているわけでもなかった。


(まさか)


 瑞希は自分の胸、そして下半身に目をやるが、キュアの前で確認できないし、見たいとも思えない。

 それも謎だが、もう一つ大きな謎がある。


(なんで顔がきれいなんだろう)


 男は瑞希の顔も殴っていた。殴られる間、視界がぼやけていたから、てっきりひどい状態だと思ったが、鏡に映るのは傷一つない綺麗な顔だった。

 しかも、その顔にはどこか既視感がある。自分の顔だから当たり前かもしれないが、そうじゃない、何か別の……。

 どういうことだろうと顔の下に視線を移すと、見たことのないデザインの服を着ているのが見えて、その服が赤黒く汚れているのが確認できた。


「キュアさんが私を見つけてくれた時、私の身体に怪我の痕とかってありませんでしたか?」

「えっと、特にそんな風には見えなかったんですが、どこか怪我しているんですか?」

「……男に殴られて、気絶していたはずなので、なんで傷一つないんだろうと思って」


 キュアは瑞希の言葉に目を見開いて「え」と声を漏らす。

 そして瑞希の顔をじっと見た後、着ている服を見て「あ」と声を出した。

 もしかして、顔の傷が自然治癒してしまう程の間、気絶し続けていたのだろうか。


(流石にありえないでしょ)


 じゃあ、そもそも殴られたということが夢だったのだろうか。なら、なんで服に血のような汚れがついているのだろう。一つの辻褄を合わせると、もう一つが破綻する。


「もしかして、治癒関連の能力(スキル)を持っているんじゃないんですか?」


 悩んでいると、キュアがそんな事を言う。


能力(スキル)? 治癒?」

「はい」


 当然のように出てきた言葉に困惑する。どういう意味なのか聞こうとする前に、更にキュアが口を開く。


「あの、お名前を聞いてもいいですか?」

「……瑞希です」


 キュアと名乗られたから、思わず名前のみを答えたが、逆のほうが良かっただろうか。

 そう思ってキュアを見るが、彼女も不思議だ。

 そもそも、キュアという名前や根本から毛先まで綺麗なピンク色の髪は、日本人には見えない。

 じゃあ外国人かと言われると、それも微妙だ。何人と言われてもしっくりこない。言葉で表すなら、写真加工して現れるような美少女みたいな感じというか。

 でも、喋っているのは日本語だし、通じている。


(ここはどこで、私は誰?)


 そんな言葉が自然に出てくる日が来るなんて、と妙に冷静な頭で考える。


「ミズキ……。素敵な名前ですね」

「はは……」

「殴ってきた男に見覚えはありますか?」

「いえ……」

「嫌なことを思い出させたらすみません。でも、一方的な暴力は犯罪です。街の警備隊に報告するべきです」

「警備隊?」

「はい」


 警察じゃないのかと思って思わず聞き返すが、なんとなくここが瑞希の知っている世界ではないと予想し、警察のようなものなのだろうと推測する。


「まあ、証拠もないし、そもそも男に見覚えがないので、言っても無駄だと思います」

「……そんな」


 そんなことよりも、キュアの言っていたことが気になる。能力(スキル)、治癒……。なんというか、ゲームにでてくるような単語だ。

 瑞希は手鏡をキュアに返して、小さくため息をつく。


(私はあの男を知らないけど、あの男は私を知っていた)


 ミズキくん、と彼は言っていた気がする。

 そもそも、この体は瑞希のものではない……はずだから、男が知っているのは「ミズキ」であって「瑞希」じゃないということなのだろうか。


(乗り移ったってこと?)


 幽霊が人間に取り憑くように、瑞希の魂がこの身体に取り憑いたとでも言うのだろうか。

 じゃあ、この体の持ち主の意識はどこにあるのだろう。

 瑞希は殴られる前、この草原で最初に目を覚ました前、車に突っ込まれて死んだ「大塚瑞希」じゃないこの「ミズキ」の記憶を思い出そうとする。

 すると、ガンガンと頭が痛んで、知らない記憶が唐突に頭の中に溢れ出てくる。

 あまりに痛く、右手を片手に当て小さく唸ると「ミズキさん?」と心配そうなキュアの声が聞こえる。


「大丈夫ですか……? ……ミズキさん!?」


 瑞希はキュアの焦るような声を遠くで聞きながら、ゆっくり目を閉じた。

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