第一話
リバーの街に放り出されてから数日、瑞希はいろいろと街を回ったり、ギルドを見たりして、この辺りの散策に時間を費やした。
リバーの街は観光地と言われていた通り、人が多く、面白い店も多くあった。
宿を出て、少し歩けば広大な海が見えて、その先に次の街があるそうだ。
展望台のようなものもあって、そこからみたリバーの街は、平地が多くて穏やかな雰囲気だった。
「うーん」
瑞希は宿の部屋で、メグから貰った就職希望者向けのパンフレットを眺める。
その中にはアルバイトと、正社員の募集要項が混ざって書いてある。
やっぱり日雇いは瑞希には難しそうなものばかりだった。どれも体力関連の能力を持っている人積極募集! と書いてあって、どんな職場か如実に表している。
基本的に〇〇能力募集、というのは、職場に〇〇能力の人が居て、その人基準で職場が回っているということだ。何の役にも経たない能力を持っている人は暗にお断りしている文ともいえる。
(就職したいってわけじゃないんだけど)
マウントの街に戻るという選択肢もある。よく考えたら、多分瑞希のことを知っているパーティーメンバーはいても、周りの人は知らない人も多いだろう。
日雇いの仕事をしていた時も、基本的に言いふらしたことはない。むしろ知らない振りをしていた。
(でも、食事がね)
想像以上に自分がリバーの街の食事を気に入ってしまったようで、瑞希は少し悩む。
(取り敢えず、ここに生活基盤を作って、折を見てマウントの街へいろいろ取りに帰るのもありかな)
壊れたものは、直すことは出来ても元には戻らない。それは人間関係も同じだ。
もし、ダジルと仲直りしたところで、これから同じように過ごせるとは思わない。
少し悲しいけれど、それもまた人生なのだ。
(そういえば、害力がどうとかって話をしたな)
メグとした話を思い出して、考えを巡らせる。
害力の影響で、ダジルはミズキにあんな事を言ったのだろうか。でも、あんな事を言うのが始めてだっただけで、ダジルなら言いそうなことでもあった。
(シルヴァとヴォル、彼らの能力は何だった?)
頑張って思い出そうとしても、何も思い出せない。だけど一つ、思い出したことがあった。
(ヴォルはかなり凶暴な性格だった)
能力差別主義者なんて言う言葉がある。その名の通り、能力で差別をする人のことを言う。
どうしてあの能力差別主義者がリーダーと仲が良いのだろうか。なんてことを喋っていたメンバーがいた。その記憶が正しければ、ヴォルが何かダジルに吹き込んだのだろうか。
じゃあ、シルヴァは何だろう。シルヴァの記憶は殆どない。知らないうちにパーティーメンバーが増えることはあるが、名前だけはリンナが教えてくれていた。だけど、シルヴァの名前をリンナから聞いた記憶がない。
(怪しいな)
シルヴァ、彼女は怪しいが、それだけだ。
悩んでいるとパンフレットにある一つの募集要項が目に入った。
(「短期バイト募集。店の開店準備を手伝ってくれる人を募集します。能力は不問(本当だ!) 内容は掃除とか、荷物の持ち運び。道具はあるから、そこまで体力はいらないと思う!」)
曖昧な書き方だが、瑞希でも出来そうな内容だ。別に少々ゆっくりする時間にしてもいいが、ぼうっとしていても変なことを考えてしまうだけだから、働くのもいいだろう。
(このバイトが終わるまでに、結論を出そう)
これからどうするか、どうしたいか。もう少し考える時間が必要だ。
通信時計が鳴って、キュアからのメッセージを確認する。
「『マウントの街へは帰らないの?』、か……」
丁度同じ事を考えていて、盗聴機能でも備わっているのかと疑心暗鬼になりかけるが、流石に偶然だろう。
瑞希はバイトのこと、そしてそれが終わったら結論を出すつもりだとメッセージを送って眠りについた。
◇
「お、早速来てくれたのか」
「こんにちは」
あのバイトを見た翌日の朝、ギルドでそのバイトについて気になっている旨を伝えたら、「では今日から行ってください」と言われ、瑞希は急遽、目的地に向かった。
馬車?(という名前ではあるものの、馬が引っ張っているわけではない)に十分程揺られ、到着すると、瑞希よりも遥かに大きな体の男性が迎えてくた。ムキムキで、薄めの茶髪は短く、肌が少し浅黒い男の人だ。
(メグはこういう人も可愛い服を着るべきだと思ってるのかな)
ムキムキすぎて、体のラインを隠そうと思っても目立ってしまいそうだ。
変な想像をしてニヤけそうになった顔へ力を入れる。
「まずは自己紹介をしよう。俺はジン。武器屋を開くために、開店準備をしようって妻と話してたんだけど、事情あって一人でやることになって、ギルドで募集させてもらったんだ」
「ミズキです」
差し出された右手に手を重ねると、ぎゅっと手を繋がれる。
すこしカサついていて、厚い皮膚。瑞希よりも一回り程大きくて、戦闘経験がありそうな手だ。
「よろしく。一応確認だけど、何か能力のことで言っておくことはあるか?」
「いえ、僕の能力はこのバイトには全く使い道がないですね」
「それなら大丈夫だ。俺のは大した能力じゃないから、期待しないでくれよ」
「そうなんですね」
身体がとても大きいので筋力とかなんだろうか、と勝手に予想していると、ジンが瑞希の全身を眺める。
「ちょっと細すぎねえ? ちゃんと食べてるか?」
「食べてますよ。小さい頃から少食気味でしたけど」
「そうなんだな。でも成長期にはちゃんと食べなきゃ大きくならないぞ」
「……僕は二十二歳なんですけど」
そう告げると、ジンは瑞希の全身をもう一度眺めた後、ため息をついた。
「悪い。俺、身体がデカいからか、他人が皆子供に見えるんだよ」
「そうなんですね……」
つまり、ジンの言葉はからかっている訳ではなく、単純な心配の気持ちだったというわけだ。
流石に子供だと間違われたのはミズキとしても始めてだ。
変わっている人かもしれない。だけど明るい人であるのは間違いなさそうだ。
「じゃあ、仕事の説明をするぞ」
ジンはそう言うと、瑞希を建物の中に手招く。




