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TS転生? いいえ、元からでした?  作者: 在間 薙
一章 「瑞希」と「ミズキ」

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十二話

 ご飯を食べていると、ディナが店を開けて、ちらほら人がやってくる。

 一人で厨房を回すのは苦労するんじゃないかと思ったが、メグ曰くディナは「料理効率」という能力(スキル)を持っているらしく、料理速度が人よりもかなり速いそうだ。メグに連れられ厨房が見える場所まで行くと、高速でディナが動いているのが見えて少しおもしろかった。


 食べ終わる頃には人が多く入ってきたので、三人は一度外に出た。

 

「ふぅ、食べた食べた」

「ミズキさん、おじいちゃんみたい」

「あはは」


 外は暗くなっていて、辺りには人がうろついている。

 看板をよく見ると、「こもれび」と書いてあって、今更この宿の名前を知る。


(そういえば、文字は違うのに読めるな)


 日本語とは違う形のはずなのに、頭の中で日本語として処理されているようだ。

 なんとも言えない不思議な気持ちになっていると、メグが「ちょっとおばあちゃんを手伝ってきます。キュアさん、お店が出来たら行きますね。ミズキさんも、先におやすみなさい」と行って店の方へ戻っていった。


「キュアは、他の宿に泊まってるの?」

「う、うん」

「そっか。もう日が暮れそうだから早めに帰ったほうがいいね」

「そ、うだね」


 じゃあ、と言いかけて、瑞希は止まる。

 なにか忘れているような。何だったけか、考えていると、キュアが「あ、あの」と声を出す。


「どうかした?」

「連絡先を交換したいなって」

「……ああ。ごめん。通信時計、失くしちゃって。だから……」


 そういえば、最初に連絡先を交換しようと思って、忘れていた事を思い出す。

 せっかく来てくれたのに、申し訳ないなと思いつつ、どうすることも出来ないので断ろうとしたら、キュアが「あの!」と瑞希の言葉を遮る。


「これ、よかったら使って」


 キュアがカバンから何かを取り出し、瑞希に差し出す。その中身は包装されていて、確認すると、新品の通信時計が中に入っているようだ。


「え、ええと。受け取れないよ」


 通信時計はそこまで高級品というわけではないが、それなりの値段がする。

 それもそうだが、流石に受け取れないだろう。


「え……?」

「いや、だって、キュアのものでしょ? 通信時計ってそんなに安くないし。大丈夫、お金が全部取られたとか、そういう訳じゃないから。明日にでも買うつもりだったし」


 まさか断られるとは思ってなかったのか、キュアが悲しみの表情を浮かべるので、咄嗟に弁明の言葉を口にする。


「あの、この通信時計は、その、昔貰ったもので。今も壊れていないので使い道がなくて、だから、その……」

「貰ったものなら、なおさら駄目じゃない? 誰か大切な人に貰ったんじゃないの?」

「いえ、あ、貰ったというか、……くじで当たったの!」


 本当だろうか、モゴモゴとどもった後にそんな事を言われては信じることが出来ない。


「ほ、本当だから!」


 訝しむ瑞希に向かって大声でそう叫ぶキュア、周りの人が何事かと一斉にこちらを向いて、瑞希に憐れみの表情を向けた。


(なんか勘違いされてそうだな)


 さながら痴話喧嘩とでも思われているのではないだろうか。

 どうしようかと戸惑っていると、キュアが「いらないなら捨てるし、捨てるぐらいなら貰って」とダメ押しのように通信時計を押し付けてくる。


「……わかった。貰うよ」


 もう、そこまで言われたら貰うしかないだろう。ちらりとこちらを見ていた人が、もう終わったのかとそそくさと退散する。


「ありがとう。正直言うと嬉しいよ」


 正直、自分のせいじゃないのに高い買い物をするのは好きじゃない。裕福な人間ではないので無料で貰えるならなんでも嬉しいのは事実だ。


「よかった」


 ホッとしたように胸を撫で下ろすキュア。やっぱり新品の通信時計なんじゃないだろうかと聞きたい気持ちを抑えて、瑞希は笑顔で受け取る。


「じゃあ、連絡先を交換しよう?」

「……わかった。ちょっと待って」


 先程までオドオドしていたキュアは、あっさりともとに戻って、瑞希に笑顔を向ける。

 ちょっと、いや、かなり疑念が残るが、それ以上言い合うのはやめておこう。

 瑞希が通信時計の設定を済ませると、キュアが自分の通信時計を見せて、連絡先を交換する。

 交換方法は簡単だ。通信時計で「交換する」を選択して、お互いの通信時計に指を数秒間当てるだけ。

 そうすることで、自動で登録されて、通信が可能になる。


「じゃあ、また連絡するね!」

「うん」

「ミズキも、困ったことがあったらいつでも連絡して。力になるから」

「……うん」


 もやもやとした何かが心のなかに残るが、キュアのしていることは善意からの行動だろうと結論づけて、瑞希は苦笑する。


「じゃあ、私はこれで、おやすみ!」

「うん、おやすみ」


 バイバイ、と手を振って上機嫌に去っていくキュア。

 少し不思議だ。なにか目的があるのだろうかと考えるが、その目的が分からなくて困惑する。

 一瞬、通信時計になにかウイルスのようなものでも仕込まれているのかと考えたが、この世界にコンピューターウイルスはそもそも存在しない。


「うーん?」


 去っていくキュアの通信時計をよく見ると、瑞希が今つけているものとバンドの部分がよく似ている。

 バンドの部分は色んな種類があって、シンプルなものから派手なものまで、多種多様だ。

 瑞希が今つけている通信時計は、白と水色のストライプ柄、キュアの持っているのは白とピンクのストライプ柄。

 派手ではないが、適当に買って被るようなデザインではない。


(気にしないでおこう)


 これ以上考えたらやっぱり駄目な気がして、瑞希は頭を振った。

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