十一話
「キュア?」
ディナと話している人影がハッキリ見えて、瑞希は声を漏らす。
今日も全身ピンク色で、髪の毛はゆるく三つ編みにしていて、可愛らしい。
「知り合いですか?」
「うん」
メグの質問に答えて、瑞希はキュアの元へ急ぎ足で向かう。
「私の孫がね、あなたみたいにキラキラした服を着てるの」
「……そうなんですね」
二人は会話をしているように見えるが、どうやらディナのお喋りにキュアが付き合っているだけのように見える。
苦笑しながらも、キュアは健気に話を聞いている。
「キュア」
「ミズキ!」
キュアが振り向いて笑顔を向ける。
しかし、どうしてここにいるのだろう。あの後、瑞希はキュアと合った記憶はないから、もしかして探しに来てくれたのだろうか。
「あら、本当に知り合いだったんだね」
「はい。キュアが最初に僕を助けてくれたんです」
「お嬢ちゃん、それならそうと言ってくれれば私も信用したのに」
「……すみません」
その会話に首を傾げると、キュアは瑞希を見つけてこの宿へ訪れたものの、ディナがここへ来たばかりの瑞希に友人はいないはずだと警戒して中に入れなかったらしい。
キュアも、どこまで瑞希のことを伝えて良いのか分からず、取り敢えず知り合いだと言っていたらしい。
双方に気を使わせていたみたいで、瑞希は反省する。
「僕こそ、ごめん。もしかして僕を探しに来てくれたの?」
「あ、その……うん」
「お店が出来たら会いに行こうと思ってたんだけど、気を使わせちゃったみたいだね」
「そんなこと、ないよ。私が勝手に来ただけだから」
わざわざ探しにきてくれたのはいいものの、何か急ぎの用事でもあるのだろうか。
お礼はしたいが、今すぐには難しそうだ。
「あの……キュアさん?」
「は、はい」
「はじめまして。私メグって言います。そこのおばあちゃんの孫です!」
「あ、ディナさんの言ってた……」
追いついてきたメグが、キュアを興味深そうにチラチラと見ている。
今日のキュアが着ているのは、小さい花柄が散らばったピンク色の可愛らしいワンピース。
キュアがちらりとディナを見ると、「そうよ、あなたと雰囲気が似てるでしょ」と微笑む。
「メグはね、昔は……」
「おばあちゃん! 取り敢えず二人を中に入れようよ!」
「ああ、そうだね、そろそろ夕食の時間だし、お嬢ちゃん……キュアも食べていくかい?」
「は、はい」
決まりだね、とディナが言い、三人は店の中に入る。
瑞希が一度荷物を部屋に置き、下に戻ると楽しそうに会話をする三人の姿があった。
「キュアさんの服、可愛いですね、どこで買ったんですか?」
「これは、自分で作ったの。一応、仕立て屋だから」
「え、すごい! 仕立て屋さんってことは、お店とかやってるんですか?」
「うん」
「若いのに、しっかりしてるねぇ」
メグがキュアの服を気に入ったのだろう声が聞こえてきて、瑞希は思わず笑う。
(予想通りだな)
メグとキュアは何となく話が合いそうだと思っていたが、やはりその通りみたいだ。
ディナが厨房に向かったのと入れ替わりのような形で、瑞希は二人の元へ向かう。
「あれ、着替えちゃったんですか?」
「うん。いつまでもメグの服を借りるわけにはいかないからね。これ、着た服はどうしたらいい?」
「そのままでいいですよ!」
メグはそのまま服を受け取る。キュアがその服をちらりとみて、瑞希の方を見るので、「メグから服を借りてたんだよ」と説明すると、困惑……しているような微妙な表情になる。
「あんまり、ミズキの好みの服じゃないなって思ってたから、納得した」
「はは。キュアもあの時着てた僕の服を見て、僕の好みが分かったの?」
「……うん」
「服が好きな人って、そういうのがすぐに分かるものなんだね」
素直に感心していると、「喉乾きましたね。ちょっと待ってください」とメグが立ち上がる。
「今日はごめんね。わざわざ探してもらったのに、更に手間をかけちゃった」
「ううん。私が勝手に探しただけだから。あのさ、メグさんって知り合いなの?」
「さっき話さなかったの?」
「うん。聞いちゃ駄目かなって」
「別にいいよ。メグは昨日ギルドに行った時、受付をしてくれた人なんだ。ここの宿を紹介してくれて」
そこまで言うと、メグが水を持って戻る。
「ミズキさん、ボロボロの服を着てギルドでふらふらしてるし、ギルドカードも無くしたっていうから、なんか可哀想だと思ったんですよ」
「そうだったんだ」
「心ここにあらずって感じで、ちょっと変でしたよ」
「本当?」
「はい!」
屈託のない笑顔でそう告げるメグは嘘をついているようには見えない。
「その、身体の怪我は治ったって言ってたけど、本当に大丈夫だった?」
「うん。どこも怪我してなかったよ」
「……よかった」
キュアのホッとしたような声に、瑞希は少し戸惑う。
(優しすぎる子だな)
初対面、しかもメグが言うには変な雰囲気を持った男をそこまで気に掛けるのは、いくらなんでもお人好しが過ぎるんじゃないだろうか。
余計なお世話という言葉がぴったりな感情だけど、キュアの優しさは嘘に見えないから、ちょっと心配な気持ちが芽生えてしまう。
「今日のご飯代は僕が出すよ」
「え?」
「わざわざ探しに来てくれたし、迷惑かけちゃったから。ご飯代ぐらい奢らせて」
「で、でも……」
キュアの反応に、逆に困っていると、メグが「そういうのは、受け取っておいたほうが良いですよ!」とキュアが言って「わ、わかった」と返事が帰ってきた。
「私の分は、奢ってくれないんですか?」
「……メグの分も出すよ」
「やった!」
メグは「給料日前なので、カツカツなんです〜」と嬉しそうにはしゃいでいる。
「なんか、妹みたい」
「いもうと」
「そう思わない? ぐいぐい来る感じとか、下に兄弟がいたらこんなかんじだったのかなって」
「ミズキは、兄弟がいるの?」
「……いや、一人っ子だよ」
兄がいたのは瑞希であってミズキではない。生まれ変わったんだったら、下に兄弟がいてもよかったのに。
(生まれ変わったわけじゃないか)
ミズキという瑞希そっくりな人間に、たまたま瑞希の記憶が入っちゃっただけ?
この事を考えるときりがないので、一旦別のことを考える。
(母さんは病弱だったからな)
小さい頃からいつも体を悪そうにしていた母の記憶を思い出す。あんな状態でもう一人子供を設けるのは不可能だっただろう。
小さい時は、勝手にダジルとリンナを弟と妹のように見立てて、勝手に兄ヅラをしていたが、ずっと昔のままではいられない。
「キュアは、一人っ子?」
「……うん。えっと、孤児院で育ったから、厳密にはちょっと違うかも」
「そうなんだ」
意外な返答に、瑞希は少し驚く。
この世界の孤児院は、そこまで一般的なものではない。もちろん、その存在が否定されているということではないが、子供を捨てる親というのが少ないように感じる。
しかも、そういう子どもたちの多くがいわゆる「ハズレ能力」と呼ばれるもので、その中には元々裕福だった家庭の子供がいたりするらしい。
一瞬、キュアもそうなのかと思ったが、そういう推測は失礼だろう。
「孤児院は小さい子が何人かいたけど、メグみたいな子はいなかったな」
「へえ」
「でも、ミズキの言ってることはちょっと分かるかも。可愛いよね」
メグが「コソコソ、何話してるんですか。私を仲間外れにしないでください!」と唇を尖らせて、二人の会話に入る。
そのやり方が、小さい頃、ダジルとミズキが会話していた時のリンナと少し似ていて、少し懐かしい。
「ちょっと早いけど、夕食にしようかね」
ディナがご飯を持ってこちらにやってくる。まだ開店は先のようで、ゆっくり食べられそうだ。
「あ、ディナさん、二人の分のご飯代を僕の宿代に入れておいてください」
「はいよ。メグの分もかい?」
「はい。今日のお礼ということで」
「そんなこと気にしなくてもいいのに……どうせメグがミズキを連れ回したんだろう?」
「はは。おかげで素敵な物を買えたので、感謝してます」
「それならよかったよ」
ディナはメグに辛口な事を言うが、その表情は穏やかで、愛されているのが分かる。
今日のご飯は、薄い肉とシンプルなサラダと、いつもの味噌汁。マウントの街では、肉といえば分厚くて食べごたえがあるものだったから感慨深い。
小さい頃はそれが嫌で、薄めに切ってほしいと母にねだっていた。
「美味しい」
瑞希がそう言うと、キュアとメグも「おいしいね」「おいしいです!」と続けて言った。




