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フェアリータップを踊って ~迷い妖精の少女と欠落の魔導士の出会い~  作者: 羽羽樹 壱理


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34/49

――状況開始――

「はい、じゃあ、もう一度言うけれど――」


 蜜凪みつなぎの声が、また、部屋いっぱいに溢れて響き渡る。


「この中にリティエルリがいるなら、聞いて! あなたがどんな罪咎つみとがを犯してしまったのかは計り知れない、けれど、私たちは、人間であるから――あなたの傷付いた心に、ただ寄り添いたいと思っている、近くに居たいと。私たちが何も分からない無知な盲目というならあなたには近づけないでしょう、けれど――あなたを想う心が無知盲目であるというのなら、この声を聞いて! この言葉に込められた想いは、あなたに寄り添いたいと願う一心は、種族の壁を越えてあなたに届くと、リティエルリ、信頼している――!」


 心を動かされるような、とてもよい言葉だったが、――それを聞く俺たちの中に、その言葉が届いて心を震わせる者は誰もなかった。


「――これに応えない彼女じゃない。いない、この中にはいない、少なくとも【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


雪灘ゆきなだとか、結構怪しいと思えるけどな」


「シキ、なんとなくだけど、ちょっと酷いよ……」


 誰がリティエルリであるのかは特定できない。そも、【妖精の取り変え子】が発動されたタイミングさえ、まったく判然としない……。


 もしかしたら……【妖精の取り変え子】はつい今しがた行使され、リティエルリが姿を現わさなかった謎を紐解いた先程や、余技打よぎうちバランサーがリティエルリと邂逅かいこうしたといった諸々の記憶まで、整合性を成立させるために塗り替えられたうその記憶であるという可能性すらあり得る。


 織枷おりかせ校長なら。【シーヘン】を秘密の場所として隠す【妖精の制約】に縛られることのないのと同じように、魔法力故に【妖精の取り変え子】に捕らわれないのではないか、ということを期待したが、……そのようなわけにもいかないようだった。


金色こんじきの妖精ほどの高等種族が、【妖精の取り変え子】を使用したという記録は一つとしてありません……。どのような理屈で、どのような影響が周囲に及ぼされるのか、正直、一つとして判然としません。世界全体を騙す魔導は可能です、()()()()()()。人間にも許された範囲で、しかし全体未聞の規模で魔法が行使された可能性がある。そうなると――……』


「…………」


 妖精は、天災を引き起こす。


 確実に分かることがある。もし、リティエルリの言っていた現象影響力の臨界値りんかいち、ギリギリの状態であるのなら、彼女は、己が身に危険が迫っても……魔法を行使しないだろう。


「これ以上、悩んでいても無駄だろ」


 律織りつおりの冷静な声が、場を引き締めた。

 雪灘ゆきなだが、不思議な形状の帯執おびとりかれた直刃の刀を、確かめるように握り締めた。――そうだ、今この時が頃合いだ。


「先に大問題起こしたのは、あちらさんだ、多少の無茶は許される。シキ、号令」


「――律織りつおり雪灘ゆきなだが実働、俺と蜜凪みつなぎがサポートに入る。基本的に余技打よぎうちバランサーが律織りつおり伊沙羅伎いさらぎバランサーと姫鷺山きさぎやまバランサーは雪灘ゆきなだにセッティングする。俺は絶えず空を見上げて妖精を捜索しているから、何か不審があればその都度、連絡を入れてくれ。相手の魔法に関する知識は蜜凪みつなぎが答えてくれる。さて、通信機を装着しろ。――目標は妖精の保護と助力、以上だ、動くぞ」


「「「了解」」」


 宿を飛び出した。

 そして、外の道に一歩を踏み出した、その瞬間だった。


「――オイ、余技打よぎうちバランサーたちが動き出したぞ」


「……まあ、好都合だ」


 律織りつおりの報告に苦虫を噛み潰した顔で答える。どんな手段かは分からないが、挨拶の時か対面したときに、マーキングをほどこされていたか。おびき出したと考えれば悪くないが、それにしても……迅速が過ぎた。その実力に、少しだけ震える。


律織りつおりが道の合流する南の大通りで、雪灘ゆきなだが南東の小路地だ、経路案内ナビゲート雪灘ゆきなだだけに伝える。蜜凪みつなぎは部屋で待機――頼むから待機していてくれ」


『おい、聞いてるよな』


『聞こえてるわッ』


 つい数時間前まであった活気も、夜闇に溶けて地に沈み込んだ街で、二つの勢力が足音を殺して駆け始めた。


 ――俺の【固有因果律エゴスフィア】は調べて知っていたんだろうな。


 指示を飛ばし、悠々と歩みながら、ふと不自然に空へ顔を向けた余技打よぎうちバランサーの顔付きには――、お手並み拝見、とでもいうような、挑発的な表情が浮かべられていた。


律織りつおり、五百メートル先に余技打よぎうちバランサーの姿を目視できる。雪灘ゆきなだ、――あと三百メートル先、右の路地で、伊沙羅伎いさらぎバランサーと衝突する。経路はそのまま直進したのち、しばらく車両通り沿いを走ることになる。――頼んだ」


『まかせて、シキ』


 雪灘ゆきなだの、すぐそこにいるような優しい声が、通信機を介して届く。


『たくさん、シキには助けてもらった。俺にとって、本当に大切な場面でも、一度ならず……。だから。必ず借りを結果にして返すよ。約束』




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