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二人乗りはロマンの塊

「ふー、もうこんな時間だね」


 スマホで確認すると、すでに18時を回っていて、日も落ち始めていた。


「じゃあ今日も乗っていくか?」


「じゃあお言葉に甘えて」


 優とは家が近いこともあり、いつも本屋の帰りは俺の自転車で二人乗りをして帰るのが恒例になっている。警察に見つかれば一発でアウトの行為だが、この背徳感と二人だけの楽しさが、優を妙に楽しませるらしい。


「ほんと、警察に見つかったらどうするんだよ」


 俺は自転車のカギをガチャっと外し、サドルに跨った。優も慣れたもので、軽やかに後ろにひょいと乗りながら、悪びれる様子もなく言葉を返す。


「後ろに乗せてって最初に言ったの、大悟くんじゃなかったっけ?」


「違うわ!」


 こいつ、引きずり降ろしてやろうか。


「はぁ、しっかりつかまってろよ。落ちても知らないからな」


 俺はため息をつきながらそう注意を促す。


「はーい」


 俺はため息をつきながら出発した。流石に大通を愉快に走っていると本当に警察に言われかねないので、毎回少し遠回りしている。


 優はお腹らへんをがっしりと腕を交差させて掴まった。その密着感は、慣れない俺には心臓に悪かったがもう慣れてしまった。


「大悟くんってなんかおかしいよね」


「急にディスってどうした。二人乗りを要求したお前のほうがおかしいと思うぞ」


「いや、そういう意味じゃなくて」


 ふふっと笑いながら話を続けた。


「なんか、こういう自分も危なくなるようなことを、私のためにしてくれるじゃん」


「うーん、警察にどっちが先に言い出したのか問われたら、真っ先に優を差し出す気ではいるけどな」


 冗談交じりでそう言うと、優の声のトーンが露骨に下がった。


「うわー、前言撤回……最低だよ」


 ドン引きしているようで、声のトーンが少し下がった。


 俺だってこんな警察に見つかったら一発KOなことしたくはないけど、友達ってそういうものだと思っていた。


「冗談だよ、冗談」


「むー、本当かなー」


 優は少し不機嫌そうな声でそう言った。


 まあ、見捨てはしないよ。多分。


「でもこういう時間好きだなー」


 独り言のように優がつぶやいた。それは、学校で見せる偽りの言葉ではない、心の底から漏れ出たような素直な声だった。


 俺は「まあ、たしかに」と短く返した。俺もこういう優と一対一の、秘密を共有している時間は、嫌いじゃない。だから秘密の関係をしてるといっても過言じゃないしな。


「あ! きたきた!」


 その声につられて俺も顔を上げ、進行方向を見た――


 ――ぱっと世界が広がった。広い空。車が行きかう橋。静かに流れる川。


 夕暮れ時の河川敷は、オレンジ色のひつじ雲とマッチしていて見とれてしまうほど綺麗だった。


「涼しー!」


 優が手をあげながら叫んだ。


「おま、バランス崩すだろ!」


 自転車はぐらっと傾き、慌てて持ち直した。


「でもちょっと寒いね」


「まあまだ夏じゃないからな」


 まだ6月に差し掛かってきたばかりで、まだ制服だけでは少し寒い。


 優は寒そうに再びお腹に手をまわした。だが、今度はさっきよりも力強く、体を密着させてきていた。背中に押し付けられる何か柔らかい感触。


 やっぱりこういうのは慣れない。


 俺は目の前の風景に意識を集中させ、その感触を紛らわせるように強くペダルを漕いだ。

 

「ねえ、大悟くん」


 優の吐息が、耳元にかかる。


「ん?」


「ちょっと止まって」


「え? なんで?」


「いいから!」


 強引にそういわれ、自転車を停止させると、優はぴょんと飛び降りた。


 俺は脇に自転車を止めていると「見て見て! 夕焼けだよ!」と嬉しそうに川がある方面の空を指さした。


 川がある方面の空を指さす横顔は、夕日のオレンジ色に染まって、まぶしいほどに綺麗だった。優はスマホを取り出し、写真を撮るのに夢中になっている。


 時間がかかりそうだな、と思い、俺は河川敷の草の上に腰を下ろした。


 ふと、優のほうを見ると、元気に「きれー!」と声を弾ませながら写真を撮っている横顔が、夕日に重なった。


 やっぱ、顔はかわいいんだよな。


 俺は慌てて顔を背けた。何考えてんだ俺は。


「あ! 見てあれ」


 優が指を指しているほうをみると、雲が何かの形を作っているようだった。あれは――ウサギかな?


「ウサギ?」


「え、だよねだよねっ」


 優は子供みたく嬉しそうに笑いながらほかの雲を指さした。


「あれはなんでしょうか」


「うーん、犬かな」


「ぶぶーっ、正解は狸でした!」


「雲だけで見分けるのはむずすぎないか?」


「どうみても狸でしょ、ばかだね」


 意味の分からない幼稚な言い合いが始まった。色もわからないんだから狸と犬の区別はむりだろう、と言おうとしたが優の闘争心を駆り立てそうなのでやめておいた。


 優が写真を再び取り始め、俺は自転車のほうに行き、早めに帰る準備をした。


「撮ったら早く帰るぞ」


「はーい」


 俺は自転車のスタンドを足で蹴り上げた。


 優は写真を数枚撮った後、LINEを送信する音が聞こえた。友達とかに送っているんだろう。


「おっけ、行こ」


 再び優が後ろに乗った。

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