嘘をつけ! 高橋優!
声のした方を見ると、そこには見覚えのある顔に見覚えのある坊主頭。あれは、クラスメイトの田中くん、だった気がする。
「やっば、マジで高橋じゃん! 何してんの?」
俺はとっさに柱の裏へと隠れた。
やばい、ここで会うとは思わなかった。この時間帯に野球部はいないはずなんだけど。
優は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔を作って答える。
「……あ、田中くん。こんにちは」
「郊外で会うの初めてだよな、何してたの?」
「ちょっと本を買いに来たんです」
「へー、一人?」
優はその問いに笑顔が破壊され、顔を赤らめて顔を引きつらせた。あれは、動揺してるな。
嘘をつけ、優。なんでもいいから嘘を――
「――あー……いや、部分的に違います!」
優は食い気味に人差し指を立てて諭すように言った。だが言っている意味は全くと言っていいほどわからない。
田中くんも『???』という表情をしながら優のほうを見ていた。
あのバカ……
「ああそうなんだ? 今帰りだから一緒に帰りたかったんだけど。もしかして彼氏だったり?」
ははは、と冗談交じりで聞いていたが、多分本当に聞き出したくて言ったのだろう。
優を狙っている男子はかなり多いと聞いたことがあるし。
なんて答えるんだ。
「……そう。彼氏ですね、だからごめんなさい」
優は笑いながら答えた。田中くんはというと、結構ダメージを負っているようで顔を引きつらせながら「ごめん」と謝っていた。
そして田中くんは「また学校で」と言い残して、とぼとぼとエスカレーターのほうへ歩いて行った。
なんか可哀想に見える。
「ふぅ、危なかったね」
俺が柱から出て話しかけた。
「だねー、私もびっくりしちゃった」
俺たちはほっと一息をついた。そして一番気になっていたことを聞く――
「なんで彼氏って言ったんだよ」
「えーだってとっさに思いついたんだから仕方ないじゃん」
「いや、でももっと女友達とかあっただろ」
「田中くんが諦めてくれないかもしれなかったし」
「まぁたしかに……」
俺は納得して本屋へと歩き始めた。
だが俺は『彼氏』という言葉がなぜか頭から離れなかった。
「あーこれこれ」
優が探していた本は意外とすぐに見つかった。結構有名な先生だからか、本屋のPOPとして大きく出されていたのだ。
「読み終わったら俺にも貸せ」
「もちのろんよ」
もともとその気だったようで、胸にポンっと拳で叩いた。
まあ、優が買う新作などは俺が貸してと言わなくても「いやいや、普通に読まなきゃ損だから読めや」と半ば強引に読まされるんだけどね。
そのまま優は会計に行った。俺は本屋をぶらぶらと回っていると、一つの異世界系のラノベが目についた。
転生系か、こういうのって学校で読むのハードル高くて買いづらいんだよな。
俺は基本的に本は学校で読めるものを買うようにしている。理由は簡単だ、家で途中まで読んで続きが気になったときに学校で読めるからだ。
だから基本的にはあまり難しい文学系まではいかないけど、比較的読みやすくてかつ学校で読んでもからかわれたりしない、ライト文芸系の小説を読むことが多い。優もそういう恋愛系の一冊で終わるライト文芸系が好きなのだ。
「なんの本?」
会計を終わらせた優がのぞき込んできた。
「ああ、いやこういうラノベって読んだことないなーと思って」
「あー私も読んだことないな、アニメなら何個か見たことあるけど」
優もほかのラノベを手に取った、最近の流行りは異世界らしく本屋には異世界ラノベがずらーっと並んでいる。
こういう主人公最強系は見たら影響受けちゃうからな。やめとこう。
俺は苦い中学生時代を思い出して本をすっと置いた。
「ほかに行くところある?」
「あーそうそう、パフェ食べに行きたいからついてきて」
「お前、前も食べてなかったか? 夏も近いんだから自粛したほうが――うぐっ……」
俺は優に腹パンを食らわされた。
「今日はおごりかな?」
「ごめんなさい」
微笑みながらそう言う優の眼は完全に笑っていなかった。
ちょっとしたアドバイスのつもりなんですけど……
俺はお腹をさすさすしながら優へ着いて行った。
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