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陽キャは無理です

 「疲れた。なんか飲み物買ってこようかな」


 凛空が腰を浮かせかけた、その時だった。


 入り口から、数人の男女のグループが入ってきた。男子二人に女子二人。どこか華やかな雰囲気を持つ、クラスで目立っているグループだ。


 「えー、優ちゃん本当に勉強するの?」


 明るい声が図書館に響く。凛空は「あ、あいつら」と小さく呟いて、座り直した。


 「しなきゃだめでしょ、教えてあげるから」


 「俺も教えてもらわねえと、赤点回避できねえ……優、頼む」


 「海斗。大丈夫だ、俺もついてる。一緒に補修を受けよう……」


 俺はその中の一人に自然と目を奪われた。昨日も見た、そう優だ。


 優と仲の良いいつものグループが勉強をしに来たようで、彼女たちは隣の席に座ってワークやノートを広げ始めた。


 俺は、なんとなく気まずくなり、手元の問題集に視線を落とした。


 そしてふと、顔を上げた瞬間、優と目が合った。


 彼女は一瞬、きょとんとした後、あたふたとし始めた。まあ隣の席にいるとは思わなかったんだろう。その表情は、少しだけ頬を染めて、まるで子猫のように慌てていた。


 まあ、話しかけられることもないだろうしいいけど――


 「あれ! 凛空じゃん」


 明るい、ハキハキとした声が凛空にかけられた。


 「え、おお。海斗か」


 凛空に話しかけたのは、グループの一人の男子。背が高く、引き締まった体つき。バスケ部のキャプテン、瀬戸海斗だ。


 学年でも目立つ存在で、凛空と何回か仲良くなろうと誘っているのをみたことがある。


 俺に話しかけられることはなくても、凛空に話しかけられることを想定してなかった。


 「凛空も勉強か、珍しいな、お前が自習なんて」


 海斗はそう言いながら、俺たち二人の机に近づいてきた。


 「そう、大悟に教えてもらってるんだよね。俺一人だと絶対やらないし」


 そう凛空は俺を場になじませるように名前を出して返したが、俺の居心地はさらに悪くなった。


 この人、瀬戸海斗は苦手だ。


 俺はこの見た目と雰囲気の暗さのせいで凛空が仲良くすることをよく思わない人が一部いる。その一部にこのバスケ部キャプテンの瀬戸海斗も含まれているからだ。


 海斗はじーっとまるで何かを値踏みするかのような視線に、俺の心臓は小さく跳ねた。


 そして海斗は「ふーん」とそっけなく返した。


 「楽しいの?」


 海斗は、俺を直接見据えたまま、凛空に問いかけた。その言葉には、明らかにトゲがある。


 ちょっと、気まずいしなんか死にたい。


 「ああ、大悟は面白いし勉強を教えるのも上手い」


 凛空はそんな海斗の言葉を気に留める様子もなく、海斗を見て、目を輝かせながら諭すように言った。そのまっすぐな言葉に、海斗は反論の言葉を失ったようだ。


 「……ま、凛空がそう言うなら、別にいいけど」


 そう言い残し、海斗は諦めた様子で、優たちのほうへ戻っていった。


 「ごめん、大丈夫?」


 小さく耳打ちをしてきた。


 「ああ……」


 実際マジで怖かった、話したことない人からこんなにも視線を当てられることは滅多にないからだ。


 手を胸に当てると心臓の鼓動がいつもよりもずっと早くなっていた。


 「よし、じゃあ勉強の続きをしようか」


 「だな」


 こういう凛空の気遣いに結構助かっているところはある。


 「疲れたー」


 俺たちはいつの間にか二時間近く、集中して勉強していたらしい。凛空は完全にエネルギー切れを起こしていて顔がやせ細っているように見える。


 「じゃあ今日は解散で」


 「だね、勉強は難しいね」


 「少しでも理解できたか?」


 「うん、もちろん! 大悟のおかげで完璧だよ!」


 うん! 絶対理解してないわこいつ。


 凛空が自信満々の時は大体できていない時だ。俺は再び誘う相手を間違えたと後悔した。


 俺は凛空と別れて、一人で自転車のカギを外し終え、歩き出そうとした瞬間――


 聞きなじみのある優しく、春の風のような透き通った声がした。


 「大悟くん」


 振り向く間もなく、背中にドン、と軽くスクールバックで背中を叩かれる衝撃を受けた。


 慌てて振り向くと、思った通り優が笑いながらこちらを見ていた。


 「重っ……絶対教科書入ってるだろ。ってかまだ学校だけど、こんなところで平気なのか?」


 「ふふっ、大丈夫だよ。みんなもう帰っちゃったし、裏口から帰れば誰にもバレないよ」


 優は悪だくみをしている子供のような表情をしながら、俺の隣に並んで歩きだした。


 その顔は、先程の図書館で見た、優等生の表情とは打って変わって、小学生がいたずらをするときのように輝いている。


 優は人もいないことを見越して話しかけてきたのだろう。


 「そういえば、さ。海斗になんか言われてなかった?」


 優は、俺の顔をそっと覗き込むように尋ねた。


 「あぁ、まあちょっとね」


 「だよねー、ごめんね。ほんと」


 まるで自分が悪いかのように謝ってきた。これに関しては誰も悪くない、というか俺が友好関係をしっかりしなかったのが悪いのだ。


 「別に大丈夫だよ」


 「ほんと?」


 「うん」


 俺は短くそう返すと、優は肩の力を抜いて表情を和らげた。


「ならいいけど。海斗くん、たまに言い方きついから心配で」


「大丈夫、気にしてないよ」


 まあちょっと傷ついたけど。たまにこういうことはあるし、引きずっていたら仕方ない。


「よかった。私のせいで、大悟くんが嫌な思いしてるかもって考えてたから……」


 少し俯きながら小さく呟いた。


 優の顔は寂しそうな表情をしていた。 優のこういう表情を見たくない。


 俺は一瞬だけ止まって、優の頭にポン、と不器用ながらも優しく手を置いた。


 「してないよ」

 

 気づけば、手が動いていた。

 

 優の頭に、ポンと。


「……なにこの手」


「え! あ、ごめん……」

 

 やばい、すごく恥ずかしいことをしてしまった。

 

 俺は急いで手をどけた。どうにか優に寂しそうな顔をしてほしくなくて突発的にやってしまった。

 

「……子ども扱いとかじゃないんだよね」


 少し警戒したように問いかけてきた。


「違う。いや、なんていうか。優を安心させたかったというか……なんというか……」

 

 言葉が出てこない。


 優はしばらく黙っていた。

 

 そして――

 

「なら……許す……」


 優は俺とは逆の方向を向いてしまった、だけど優の頬は少しだけ赤くなっているように感じた。


「じゃ、じゃあ早く帰ろ! もう遅いし!」

 

 優は慌てたように言うその声は、いつもより少しだけ高かく、少し幼さが感じられた。


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