優等生にはバレバレ
家の扉を開けると、ほっとすると同時に、また勉強しなければならないという憂鬱感が背中を押した。
「ただいま」
「あ、おひぃ。おはえり」
リビングには制服姿でアイスを咥えた妹の桜がテレビを見ていた。学校から帰ってすぐに、制服のままリラックスしている様子は、だらしない妹そのものだ。
「弁当箱は自分で洗ってよね」
「わかってる」
妹に釘を刺され、俺は台所へ行き、自分の使った弁当箱を洗う。カチャカチャという水音だけが響いていると、桜がその沈黙を破る。
「今日はデートしてこないんだ」
桜が振り向きもせずに言った。その声には、いくらかのからかいが含まれているように感じる。
「デートじゃないって、それにテスト期間だからな」
「朝もそういえば言ってたもんね、珍しい。」
桜は興味なさそうにそう言った。まあ珍しいといえば珍しいか、いつもはテスト期間は勉強しないけど、メンタル削られるだけだし。
「そういう桜はどうなんだ?」
「うち?」
急に話題を振ったからか、目を丸くしてこちらを見た。
「だって、俺の高校受けるんだろ? それなら最低限勉強しないと」
「大丈夫だよちゃんとやってる」
桜は再びテレビに目線を戻して平然と答えた。その自信に満ちた態度には、嘘がない。桜は学年でもトップだと母さんから褒められているのを聞いたことがあるし、天才肌というやつだろう。
だけど兄としては心配だ。いくら優秀でも、受験を甘く見てはいけない。
「まあなんかわかんないところあったら聞けよ」
「うん」
テレビに夢中になっている。本当にわかってるのかこいつ。
俺はため息をつきつつ、自分の部屋に戻った。
昨日途中まで進めたワークを机に広げ、優との目に見えない戦いの続きを始める。数学の公式と格闘していると、時間があっという間に過ぎていった。
そして夜の21時ごろ、ピコンとメッセージの通知音が静かな部屋に響いた。
画面を見ると、相手は優だった。
『勉強の進捗を聞かせてもらおうか、早くきたまえ!』
自信満々なのがメッセージからも伝わる。仕方ない準備するか。
俺は急いで半袖からグレーのパーカーに着なおし「少しだけ出てくる」と声をかけて家を出た。
数分後、公園のベンチには、すでに優がスマホを見ながら座っていた。
「よ」
「お、きたね」
ベンチに座りながらスマホを見ていた優に声をかけると、優はスマホから視線を上げ、俺を見据えた。
今日の服装はいつものカジュアルな私服ではなく、セットアップのジャージという、体がよく動かせそうな服装だ。
「ランニングでも行ってきたの?」
「いや、こういうのが流行りなんだし。まあ勉強ばっかは退屈だから帰りにちょっと走るつもりではあったよ」
やっぱり女子の流行りはわからん。男子の流行りはぎりぎりSNSで見ることはあっても女子の滅多に見ないし。
でもいつもよりも部活女子っていうか、なんか雰囲気が違うような……
「それで勉強のほうはどう?」
服装に気を取られていたおれを現実から引き戻すように話した。
「まあぼちぼちかなー、もうそろ数学の範囲おわるとこ」
「ふーん、私は今物理やってるよ。っていうか今日の物理寝てたでしょ」
「えっばれてたの?」
「当たり前じゃん。そっちのほう向くとうつ伏せになってるんだからわかりやすいし、先生もちょっと怒ってたっぽいよ」
優は目を細めてそう言った。
「え、そうなの?」
昔先生に、寝るならうつ伏せで寝るんじゃなくて、眠気から抗って見えるようには最低限しろって言われてっけ。
「寝るなんて珍しいじゃん、どうしたの?」
優は、心配というよりは、探りを入れているような目で俺を見た。
「いや、別にちょっと眠かっただけ」
俺はできるだけ平然を装った。
いや、嘘ではない。眠かったから寝たのだ。優との勝負に負けたくなくて、深夜二時半まで勉強していましたとは、絶対に言えない……
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