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呑気だなお前は

 深夜二時半まで勉強した代償だ。普段の俺なら、土日も含めてそんな時間に布団に入ることなどない。昨日まではダラダラと生きてきた代償というべきか、体中が軋んでいるような感覚があった。


 「うぅ……」


 ベッドから這い出して、なんとか制服に着替える。


 階段を下りると、リビングからは朝食の匂いが漂ってきた。


 「おはよう、大悟」


 母が明るく声をかけてきた。


 「……おはよう」


 「あら、珍しく眠そうね」

 

 母は俺の顔を見た瞬間、すぐに異変に気づいたようだ。


 「まあ、ちょっとな」


 俺は深く聞かれないよう曖昧に答え、テーブルに座ってトーストを口に運んだ。


 「お兄、昨日遅くまで起きてたでしょ」


 桜が、制服姿で現れた。こいつは、俺とは似ても似つかないしっかり者で、俺の生活態度を常に監視している。


 「……お前に関係ないだろ」


 「部屋の電気、ずっとついてたもん」


 桜はふふっと得意げに言った。まるで獲物を見つけた猫のような表情だ。


 ちっ、バレてたか。


 「勉強してたんだ。テスト近いし」


 「へー、珍しい。お兄が真面目に勉強するなんて、何かあったの?」


 桜は興味なさそうに言った。その「珍しい」という言葉が、俺の過去の怠惰を強く思い知らせる。


「友達とちょっと勝負しててな」


「ふーん」


 桜は納得してないようだったが、それ以上は聞いてこなかった。


 朝食を食べ終えて、俺は学校へと向かった。自転車を漕ぎながら、昨日のLINEを思い出す。優も、深夜まで勉強してるんだし、俺も負けるわけにはいかない。


 俺の原動力は、優への闘争心と、優に負けた時の屈辱的な未来だけだ。


 

 そして放課後。


 「そうだ凛空、今日の放課後暇か?」


 帰る準備をしている凛空に声をかける。家で集中できる気がしないため、凛空でも誰でもいいから監視役が欲しかった。


 家で集中して勉強できる気がしないし。


 「いや、ごめん今日は予定があるんだ」


 凛空がきりっと恰好をつけて言った。


 この感じ、どうせ女子とデートだろう。テスト期間なのにけしからん。


 「またか、前の女の子はどうなった?」


 「いやーそれが……」


 凛空は声のトーンを少し下げ、少しずつ俯きながら話し始めた。


 「下ネタの話をしてたら、いつの間にかブロックされてたんだ……」


 真剣な顔をしてそう言った。そう、凛空に彼女ができない理由は、この残念な下ネタ好きという性格にある。


 俺はぷっと吹き出してしまった。緊張感が走る勉強の日々に、久々に心の底から笑える出来事だった。


 「なんだそりゃ、前の女の子みたいにえぐいセクハラしたか?」


 前の女の子には女子の胸についてメッセージで語るという、いつ学校に相談されてもおかしくない、とんでもなく気色悪い行動をしていたのである。


 「ちがうんだ、普通にちんちんのスタンプを送ってかわいいでしょって話をしたら、次の日の朝には連絡がつかなくなってたんだ……」


 この世に絶望しているように、顔をこわばらせた。


 いや、女子にちんちんのスタンプを送り付けるな……


 凛空は顔人気こそ高いものの、仲良くなった女子からはやめておいたほうがいいといわれる、いわゆる残念イケメンというやつだ。俺みたいな暗めのやつでも、この欠点のおかげで大分話しやすい。


 「まあ、下ネタには気を付けてデートに行ってこいよ」


 「ああ、うん。じゃあ下ネタのジョークとかって――」


 「やめとけ」


 即答した。凛空はしょんぼりした顔で「ちぇー」と呟いた。


 結局、今日は誰にも付き合ってもらえず、じゃあ今日は家で勉強するのか、と諦めて俺は重い足取りで家に帰った。

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