嘘彼氏の代償です
そして学校に行くと案の定、クラスの中で大きな話題になっていた。
「おい、聞いたか。高橋さん彼氏いるらしいぜ」
「えっ……まじかよ……」
優に「彼氏ができた」という噂。その原因が、他でもない俺にあることを知っているのは、この教室で俺だけだ。優が仕掛けたこの小さな嘘が、教室の空気そのものを変えてしまっている。
そして凛空と再び雑談をしようと口を開いたとき、張本人が扉から登場した。
「おはようございます」
なんとも爽やかで優しい上品な挨拶だろうか。
だが今日は挨拶を返すよりも先に、まるで肉食獣が獲物に群がるように、質問が飛んでくる。
「え、優ちゃんに彼氏ができたって本当?」
「嘘だよな!」
優が着た瞬間、数人の友達に囲まれて、すでに質問攻め状態だ。優は眉をひそめながら「まあまあ」と宥めている。その仕草すら絵になるのが、優という人間だ。
優は一度息を吸い込み、意を決したように小さく呟いた。
「……まあ、彼氏はできました」
頬を赤らめながらそう小さく呟いた、その一言で周りの人たちが盛り上がる。
「きゃー!」と嬉しそうな声もあれば、「うわー……」という悔しさにあふれた男子の声も聞こえる。
中には、机に突っ伏して絶望しているやつまでいる。優の人気の高さは、もはや災害レベルだ。
大変そうだなと他人事のように見てしまう、が原因は俺にあるんだよな。
俺の胸の中に、小さな罪悪感が芽生えた。優がこんな大掛かりな嘘をつかなければならないのは、すべて俺のせいだ。
「で、どんな人?」
一人の女子がそう聞くと、また優は困惑しているようだったが、優等生らしく、ためらいながらも答える。
「優しい人だよ。そして一緒にいると楽しくて頼りがいもあるとても良い人……というか」
その一言で再びさっきと同じような声があがる。周囲の女子たちは目を輝かせ、男子たちはさらに意気消沈していく。
優が恥ずかしそうに言った架空の彼氏の特徴は、前に公園で俺がふざけて聞いた理想の恋人像と完全に一致していた。
なんというか、いない彼氏のことを説明してるってなんか悲しい状況だな。
「なんか大変そうだねー」
「だなー」
凛空が優たちのほうを見て他人事のように呟いて、それに俺も平然と言葉を返した。
この秘密を知っているのは俺だけ。俺は傍観者を演じ続けなければならない。
「同じ学校の人?」
優の友人からの、一歩踏み込んだ質問だ。
「えぇ、まぁ……」
その返答を聞いていいのかそこまで言っても。と心配になったが、いない人のことだし別にいいか。
「なんだ、この人だかりは……早く席に着けー」
扉が開く音と共に、先生が入ってきて、全体にそう呼びかけた。救いの神だ。
「じゃあ優ちゃんまた後でいろいろ聞かせてね!」
「うん」
そう優しく微笑んでこちら側に向かう途中、目が合った。
優の瞳は、なにかを訴えるような、可哀そうな目つきをしていた。まるで、「お願い、助けて」と無言で訴えているようだった。
俺は、その罪悪感に耐えきれず、ゆっくりと廊下側へと目線を移した。
俺。知らない。
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